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どうか、この世界を私たちに守らせてください。  作者: 華蘭蕉
Act two 第二幕 恐怖と喪失。そして、憧れ。
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スキャーリィ編 44話 決着2

 黄依きいちゃんとところかなめが並行して『恐怖スキャーリィ』の方へと飛んで行く。心なしか、黄依ちゃんが少し動揺しているように見えたが、彼女のことだ、心配しすぎるのは良くないだろう。


 そしておそらく、天照てんしょうさんが特異能力エゴで風や気圧を操り、この二人を空中浮遊しているのだろう。


 そして、所要から筒美流奥義攻戦術、急ノ項『百花ひゃっか』が放たれたと同時に、黄依ちゃんの第二の特異能力エゴーー『僻遠斬撃リモートインパクト』によって、彼の拳に起きた衝撃がそのまま遠く彼方まで響き伝わる。


 その衝撃波は暴風を引き起こしながら、『恐怖スキャーリィ』の肉体を引き裂いていく。先程四つくらいに分かれた肉塊は数十もの塊に分かれ、小さく極小な物から死喰い樹(タナトス)の腕達に回収されていく。


 同時に、『火樹銀花かじゅぎんか』を解き、死喰い樹(タナトス)の腕の標的から外れた私は『速度累加アクセラレーション』を解く。


 そして、もう一度上空へ上がりながら、『僻遠斬撃リモートインパクト』による攻撃を比較的巨大な肉塊へと当て、小さな肉塊にし、死喰い樹(タナトス)の腕が回収しやすいようにする。


筒美つつみさん! お待たせしましたわッ!」


 すると、白夜はくやくんに連れられた、薔薇ばらちゃんも空中へとやってきたのと同時に、天照てんしょうさんの特異能力エゴによって作られた雨雲が『恐怖スキャーリィ』の上側に発生した。


「一帯爆発させられる?」

「ええ! 勿論ですわ!」


 彼女は落ち着いて呼吸を整えながら、両手にバチバチと電撃を走らせる。


 出来た雨雲から雨が滴り、それが『恐怖スキャーリィ』の肉塊を濡らす。


「離れるぞッ!」

「着地任せましたわ……筒美さん」

「うん、ドドメよろしくね」


 私はそのまま下に落ちて行く。


 薔薇ちゃんは私達が安全圏内に入ったのを確認した瞬間、先程の二倍くらいの範囲で爆発を起こした。


 爆発に巻き込まれた肉体は、消滅したか、消滅できなくても散り散りと細かい肉塊になったので、すぐに私の連れてきた死喰い樹(タナトス)の腕によって拘束され連れて行かれた。


 先程、私が見た婢僕サーバントやそれらを排出した千切れた触手も既に腕によって連れて行かれた後であった。


 これで、私達は『恐怖スキャーリィ』との闘いに終止符を打ったのであった。


 後は、空中に残った薔薇ちゃんの回収。それも裏でずっと無理しながら私達をサポートしてくれていた天照さんの特異能力エゴによって、風が起こされ落下スピードが落ちた所を私が空中でキャッチして、無事彼女が怪我なく戻ってくる事ができた。


「良かったですわ! 皆さんご無事で!」

「そーだな。終わってみれば案外呆気ない相手だったな。そこん所、多分エリカが命をかけて『恐怖スキャーリィ』の感覚を壊してくれたがらかもしれないな」


 何を思ってか、蘇芳すおうちゃんは空を見上げて何かを探そうとし、それをすぐに諦めたのがわかった。


「そう……だね」


 私は先日の戦いで、失ってしまった大切な仲間への想いがようやく溢れ出してきた。


 衿華ちゃんは勿論の事、あの船に乗っていた半数は『恐怖スキャーリィ』に喰われて命を落としたか、婢僕サーバントとなり蘇芳ちゃん達に殺されたか。


 そうか、だから蘇芳ちゃんは今空を見上げて……


 私も空の高いところにある、死喰い(タナトス)の樹の葉を見上げ、亡くなった人の事を考えた。


 そして、泣きそうになったのに、無表情の自分からは何も零れない事を思い出して、目を擦り、無理やりでもいいから涙を流そうとする。


「やめときなさい、紅葉。目が傷付いたらどうするの?」


 黄依ちゃんが私の腕を掴み、優しい顔でそれを阻止しようとした。


「いやだよ……私は……私はもう自分の表情を偽りたく無いの……! 理由は知ってるでしょ?」


 お姉ちゃんの事、衿華ちゃんの事。全てから逃げたくなかった。そして、お互いを傷つけ合いながらもケジメは付けたと思っていた。


 だから、今は少しでもいい。衿華ちゃんが私の隣から消えて悲しい事を衿華ちゃんに伝えたい。


 全てが終わった今だからこそ、この気持ちが薄まらないうちに涙を流しておきたかった。


「それでも……衿華はあんたに『笑顔』になる事を望んだと思うわよ」


 下唇を噛みながら悔しそうに彼女は私に皮肉を吐き捨てた。


 でも実際、その通りだろう。


 それは私にも分かっていた分、深く突き刺さってしまう。


「……きっ霧咲きりさきさんっ!」

「何よ爆弾女」

「確かに正論ですわよ……! でも……それは紅葉さんにとってどれだけ酷い言葉か……!」


 薔薇ちゃんも何を思ったのか私の為を思ってなのか、普段絶対に関わらない黄依ちゃんに言葉をかけてくれた。


「薔薇ちゃん……いいの」

「アンタなんかに言われなくても分かってるわよそんなの」


 すると、手と手をパシンと合わせる音が聴こえた。


「こらぁ! そこの可愛い子ちゃん達、ギスギスしない。折角のお顔が台無しだぞぉ? 僕は悲しいぞぉ?」


 あの所要が空気を読んで私達の会話を遮ってくれた。


「珍しく、カナメの言う通りだ。そういうのは本部に帰ってからやってくれ」

「……俺もそういうのはどうにも苦手だ……だから、水仙すいせん……霧咲……今度メシ奢ってやるから愚痴でもなんでもいい、鬱憤が溜まってるなら話位は聞いてやるぞ?」


 蘇芳ちゃんや白夜くんまでもが止めに入った。


「ごっごめんなさい……」

「すいません……」

「……ごめんね」


 みんながやれやれと言った感じで、息を吐いた。


「さてと、とりあえず支部に戻って、本部に帰る準備するわよ?」


 天照さんが話始める。


「本部に戻ってからもお兄さんの件で沢山聴かなきゃいけない事が有るから、特に紅葉ちゃん……きちんと話して欲しい」

「……はい」


 私は彼女の瞳を見ながら、話を続けた。


「でも、その前に今回で亡くなった人達の弔いをやらせて下さい」


 私はそう彼女に伝えたのであった。


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