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どうか、この世界を私たちに守らせてください。  作者: 華蘭蕉
Act two 第二幕 恐怖と喪失。そして、憧れ。
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スキャーリィ編 43話 決着1

 上空3万メートル。


 そこは成層圏と区分され、死喰い(タナトス)の樹の葉や枝が存在し、死喰い樹(タナトス)の腕も大量に存在する区域だった。


 通常、生身の人間がこの区域に立ち入るには様々な障害を超えなければいけない。


 最も人間にとって障害となるのは、紛れもなく自死欲タナトスの『衝動パトス』だろう。他にも、無酸素だとか、低気温だとか、気圧の問題がとか、勿論だが色々有る。


 そこへ人間が足を踏み入れたのならば確実に数秒もしない内に自殺行為に走るか、または意識を失い体が死に絶えすぐさま、死喰い樹(タナトス)の腕に拘束されて、吊るされるであろう。


 だが、私ーー筒美つつみ紅葉もみじはこの全ての障害を超える事の出来る人間だった。そして、私は『恐怖スキャーリィ』を殺す為にたった今その区域に筒美流奥義の舞空術によって滞空していたのであった。


 周りを見渡すと桜の花びらの形を象った『空気の塊のようなモノ』が死喰い(タナトス)の樹の葉ーーつまり『死んだ人間が閉じ込められている場所』からひらひらと舞い落ちてきている。


ERG(エルグ)本来の桜の花びらの形状……。この一つ一つが今まで死んでしまった人の命の願い。『死なない』から『死にたい』と思った単純な祈りの形」


 私はそれ口に含み、体内に吸収する。いつも、筒美流奥義を行う為にしている事とそれは同じだ。


 感情の塊とも言えるERG(エルグ)DAYN(ダイン)によって分解。そして、エネルギー源と感情に分割する。次にエネルギー源をもう一度DAYN(ダイン)によって分解する事で身体を動かす為の動力源へと変化させる。


 今回の場合は『自死欲タナトス』が付随してしまったERG(エルグ)だから、『衝動パルス』にも備えて『痛覚支配ペインハッカー』を既に発動させていた。


 これで、『衝動パルス』対策と無酸素状態で身体活動を行う事はできる。


 後は気圧や温度の問題だけど……


葉書はがきお姉ちゃん……力を貸して……」


 私に埋められた、筒美流奥義の達人級の人間の臓器。それが人智を超えた力を私に与えてくれる。


「筒美流奥義防御術ーー終ノ項『火樹銀花かじゅぎんか』」


 私が可能な最高の防御術。私の身体をERG(エルグ)の障壁が包み、桜色に輝く花柄の美しいドレスを着た様な姿になる。それは私と外界を隔てるくらい容易いモノであった。


 そして勿論、葉書お姉ちゃんの臓器を活動化させたという事は死人の身体を使ったという事。それによって、周囲に漂う大量の死喰い樹(タナトス)の腕が私を捕らえようとしてくるのは当然だった。


「来た……」


 だけど、今回はそれが狙い。『恐怖スキャーリィ』のあの莫大な質量を再生させずに殺す為には、再生する前に死喰い樹(タナトス)の腕に回収させる必要が有る。その為には、地上では呼べない程の数の死喰い樹(タナトス)の腕が必要となる訳だ。


 筒美流奥義舞空術、『風花ふうか』を解き、逆さまに自由落下する。


 しかし、それに追い付こうと死喰い樹(タナトス)の腕たちはスピードを出そうとする。


「筒美流奥義舞空術ーー急ノ項『花見鳥はなみどり』」


『風花』の要領で、空中に障壁を作り、それを蹴って下へと落ちていく。それでも背後からは死喰い樹(タナトス)の腕の気配が消えない。


 上空を振り返り、死喰い樹(タナトス)の腕がどこまで近づいて来たのかを確かめると、触れるか触れないかの位置まで、確認できただけでも数千もの死喰い樹(タナトス)の腕たちが迫ってきていた。


「仕方ない……『速度累加アクセラレーション』ーー重力増加ナインポイントエイトオーバー


 特異能力エゴを発動すると、急激に落下速度が上がっていき、腕たちとの距離を切り離していく。


「これが黄依きいちゃんの力か……」


 そして、徐々に海全体が氷付けられている様子が見えると同時に、黄依ちゃん達によってこちらに飛ばされた『恐怖スキャーリィ』の肉塊が迫って来ている事が分かった。


「ようやく、これで……アイツを殺す事ができるッ!」


 無表情な顔から溢れ出たのは殺意のみが篭った一撃だった。


「筒美流奥義舞空術ーー終ノ項『落花啼鳥らっかていちょう』」


速度累加アクセラレーション』による重力加速度の上昇を真っ直ぐに乗せた渾身の蹴り技。それが『恐怖スキャーリィ』の硬い皮膚を簡単に貫いた。


恐怖スキャーリィ』はその衝撃に耐えられず、四方10メートル程の四つの肉塊に分かれる。


 しかし、それは未だ死喰い樹(タナトス)の腕が運べる質量には程遠い。


『僕達に任せな』


 音速までに至り下降する私の第六感には確かにところかなめの意思を反映したかのような声のようなモノが感じられた。


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