スキャーリィ編 42話 婢僕3
特異能力を再び発動させ、父さんを鞄にしまい、母さんを鞄から出す。
「『死体人形』ーー何度も起こして悪い……母さん、あの餓鬼の元へ頼む」
すると、母さんの口元が少しだけ緩み、言葉を発した。
「『絶対追跡』ーー」
そして浮く体と共に、踏陰蘇芳の元へ瞬時に連れて行かれる。
「ありがとう母さん、またすぐに呼ぶからな」
母さんが鞄の中に入ると同時に、先程作戦を伝え終えた踏陰が此方に話しかけてくる。
「どうした、白夜」
「奴から出た婢僕の正体がわかった」
「……? さっき、カナメが切り取った触手から出た奴の話か? あれなら力も普通の人間以下だし処理は後にしておいても良いとは思うが……?」
首を傾げながら此方の意図を測ろうと顔を見てくる。
「まさか、エリカが婢僕化していたのか……?」
これだけしか伝えていないのに、察する能力が高いのかすぐに近い所まで答えを導き出す。
「いや、違う。俺も最初は最悪のパターンとしてそれを考えていた。だが……婢僕は喰われた人間の成れの果てだけじゃなかった」
「……どういう事だ?」
「婢僕は喰われた人間を強制的に孕ませて、出来た不完全な感情生命体だ」
それを言った瞬間、彼女は特異能力を発動させる。
「つまり、ハクヤがさっき殺していたのはエリカと『恐怖』との間に出来た子供とでも言いたいんだなッ⁉︎ そして、そいつらはエリカの特異能力を受け継いでいる……そういう事だろッ⁉︎」
「あぁ……胸糞悪いなんてレベルの話じゃない……下衆もここまで来ると怒りすら湧いてくる。どうする……? 俺は直ぐにでも奴等を皆殺しにしようと思うのだが」
蕗の身に起こった事を考えると、怒りが治らない。あんな生物の存在を許したくないほどに、怒りという感情が湧いてくる。
「当たり前だ……! だが、落ち着けよ……ハクヤ。そんな婢僕の存在が有るということは、可能性として、エリカが生きているかもしれないッ!」
酷い話だが、陵辱され、犯され、それでも尚『恐怖』の腹の中で、只『婢僕』を産むためだけに生かされているという可能性もあるのか……
「……! そうか……だが、あいつ自身はもう、DRAGを使ったんだろ? 俺たちが見つけたとしてももう、感情生命体化は……」
「免れていないんだろうな……」
手を悔しそうに握り込みながら彼女は続ける。
「誰にも言うなよ……この件は私とハクヤで片付ける……そうしなきゃ、モミジやキイがどうなるか……」
「分かってるに決まってんだろッ⁉︎ これ以上あいつらに背負わせて何になるッ⁉︎」
「そうだな……いくぞ、ハクヤ」
踏陰と分かれて、目に付いた婢僕を一人残さず、殺していく。
殺していく度に、蕗と同じ『痛覚支配』によって痛みに浸されていく身体。中には殺しても痛みも生じない婢僕も居たが、それもまた別の喰われた人間の成れの果てか、子供なのだろう。
触手から出てきた8体の婢僕を殺し終え、水仙の元へ行く。
「白夜さんっ! 何かありましたの?」
「何も無かった……只暇潰しに、婢僕を殺しに回っていただけだ……」
「……そうですのね」
黙って彼女は俯いた。
「そろそろ、お前の特異能力が必要になってくる時間じゃ無いのか?」
「えぇ……先程、天照大将補と所要一佐と霧咲さんによって『恐怖』が空へと投げられましたわ」
空を見上げると、ギリギリ視界に入るくらいの大きさで、『恐怖』の肉塊らしき物体が降ってくるのが分かる。
「そうか……じゃあ、お前もあそこに行くぞ」
「えぇ……お疲れの所悪いですが、お願いしますわ」
「『死体人形』ーー母さん、奴を死喰いの樹に吊るすぞ」
そのまま、俺たちは上空へと飛んだ。




