スキャーリィ編 37話 第二戦2
「エリカの特異能力で弱体化か……」
「うん、さっきそこの変態が言った通り、『恐怖』は今『恐怖させる』というよりかは『恐怖する』側へと感情生命体の本質自体が変化していってる」
「変態ッ⁉︎ 無表情でそう言われると唆られるね」
「うっさい黙ってろ、カナメ」
私は所要の反応を無視して、続けて説明をする。
「恐らく原因は衿華ちゃんの特異能力ーー『痛覚支配』が『恐怖』を『恐怖させる』程追い込んだから。私は到達出来ない領域ではあろうけど、多分この特異能力やろうと思えばそこまでやれる特異能力なのだと思う」
「衿華ちゃん、命を賭けて戦おうとしていたものね」
「そうか……私らはまたエリカに助けられているのか」
「うん、だから決着はつけないと」
皆が首を縦にふりそう頷く。
「それで、弱体化した『恐怖』が生命維持をする為に人間を襲い『恐怖させ』、本来の力を取り戻そうと躍起になってこっちに来ている訳か」
ふみふみちゃんは頭のアホ毛をピコピコとさせながらそう呟いた。
「どうする、テルテルさん。援軍を待たずに私達だけで済ませるか?」
「……前例もあるけど、こっちに向かってきてる以上足止めとさっき言った通り様子見は必要ね。私達だけでも犠牲を払わずに駆除できそうなら待つ必要も無さそうだけど」
天照さんはそう言うと、海上の水に触れて特異能力を発動させる。
「『環境操作』ーー絶対零度」
一瞬で一帯の海が氷、『恐怖』の侵攻も止まったように見える。
「とりあえず、いきましょうか。黄依ちゃん、加速お願い」
「了解です。『速度累加』ッ!」
黄依ちゃんは皆に触れると共に、『恐怖』のいる場へとそれぞれ別の場所に着いた。
「さぁて、僕の出番だ。なるほど……近くに来て分かったがタコさんの『衝動』は僕の特異能力に似たものみたいだね。小手調べに可愛がってあげようじゃないかーー」
「ysion/⁉︎yug#siht&si^tahw」
『恐怖』がそう叫んだ瞬間、所要のいる場所から恐ろしい程の『自己嫌悪』という感情が放出される。
「周りに対する僕の行動は自身の心に『尊大な羞恥心』を生んだ。勿論それは少なからず僕に対して『臆病な自尊心』という名の『自己嫌悪』を与えた。ならばーー『畏怖嫌厭』ーーこの特異能力で僕がかの有名な山月記の李徴のように、『羞恥心』になっても不思議ではないだろう?」
そう、まさしくそれは虎であった。それは姿の事を言っているのではなく。心の有り様であった。
彼の姿はその羞恥心ともいえるオーラに包まれ、見るものに思わず『畏怖嫌厭』を抱いてしまいたくなるような《衝動』を出していた。
確実に言えるのはそれは感情生命体というにはあまりにも理性の有る『羞恥心』であった。
「あぁ……恥ずかしい、恥ずかしい。僕は何故この力を得る為に他人に迷惑をかけているのだろうか。でも、それは人の為、社会の為。否、それを信じれば信じるほど僕は『自己嫌悪』へと陥っていく」
ブツブツと何か喋りながら彼は『恐怖』へと近づいていく。
いや、既に近づいた目的は終わった。
「さて、8本だ。タコさんのその気持ち悪い触手使えなくしてやったよ」
「tahw」
『恐怖』が何かを叫ぼうとした瞬間だった。肉の千切れた音が聞こえた後、あの蓮の実のような人の顔の斑点があった触手が根本から千切れ、氷上へと8本別々に散らばっていく。
あれはただ自分に負荷がかかった『嫌悪感』を一度に解放したことによって、身体の強化を促す類の特異能力で有ること。
例え彼に黄依ちゃんの『速度累加』がかかっている状態だとしても、私の目では全く攻撃の動作な見えなかったのは恐ろしい所だ。
「!lufniap/lufniap/lufniap/lufniap」
叫び声と共に、再生する触手たち。
「ほぅ……再生か。これは小手調べしておいて正解だったかな」
所要は攻撃を終えたと同時に特異能力解く。
「はぁ……全く厄介な相手だ、こういうのは薔薇ちゃん? 君の専門だろ?」
「ふん、その汚い口で私の名前を呼ばないでくれまし?」
「水仙、言葉が汚くなってるぞ」
「まぁ、いいじゃありませんの、彼はそれで喜ぶみたいですし」
「それもそうだな」
「……ふっ……いい嫌悪感だッ!」
猛烈なオーラを纏いながら、薔薇ちゃんは歩みを進める。
「いきますわよ、白夜さん」
「あぁ……同期の命を奪われた悔しさ……コイツにぶつけるぞ」




