スキャーリィ編 36話 第二戦1
時間が少々飛んでしまうが、私が表情を失ってから数日の話である。
私が衿華ちゃんや黄依ちゃんの特異能力の使い勝手を知る為にずっと訓練し、それがようやく実戦レベルまでになった為、本部から派遣される援軍が到着次第、明日にでも『恐怖』を襲撃しようとしていた所だった。
いつも通り砂浜で佇んでいたところ、今まで感じもしなかったあの感情生命体の気配が海からだんだん陸の方へに流れてきたのであった。
「……『恐怖』ーー? そっちから来るんだ……」
とりあえず、この緊急事態を皆に知らせなければと思い、支部の方へ向かう。
すると、すでに護衛軍一行が外に出てきていた。
「ふむ……どういう事だ。分かるかカナメ?」
「僕のぉ〜神々しい嫌悪感に釣られてきたんじゃあないかなぁ? 踏陰ちゃぁん?」
「んじゃあ、テメェを殺せばあいつは来ないよな?」
「いい殺意だッ! 白夜くんッ! だけど、僕への『嫌悪感』はもう充分さっ! それにあっちから迎えに来たんだ、その殺意は存分あのタコさんにぶつけてやりな」
相変わらず白夜くんと所要が睨み合いながら、その間にふみふみちゃんが割って入って喋っていた。
「たく、冗談もほどほどにして下さいまし、所一佐、白夜さん。敵が目前に迫ってきているんですわよ?」
「まぁまぁ、薔薇ちゃん少しくらいいいじゃない。今から戦うんだし」
天照さんが薔薇ちゃんを収めると同時に私も黄依ちゃんに同意を求める。
「それにこうして堂々とこっちに来てくれるなんて、一般人に対する避難対応ができて楽じゃん。そう思わない? 黄依ちゃん」
「えぇ……そうね」
少し暗い顔をしながら、彼女は此方を見る。おそらく、彼女は私の表情の事について何かしらの負い目を感じているのだろうか。
「どうしたの? まだこの顔の事で私に言った事気にしてるの?」
「……いや……まぁ、別に」
きっと、彼女から見れば今でも私は表情を変えないロボットのような顔で話しかけているのだろう。なるべく声でどんな感情を抱いているのか分かるように、声色を変えながら彼女達に接してはいるが、むしろそれが相まって気持ち悪く見えているかもしれない。
「……そっか」
私は息を吐きながら言ってしまった。
「大丈夫、一緒に衿華ちゃんの仇はとろう?」
「そうね」
今私達にあるべき感情はそれだけで良い。ただ、友を奪われた怒りをかの感情生命体にぶつけるだけだった。
「それじゃあ、前話した作戦通り先ずは様子見からいこうか」
「ええ、津波とか来るようなら私が一瞬で凍らすから大丈夫よ」
どんどんと近づく『恐怖』の気配。およそ姿を確認できるまで近づいてきた。
「とりあえず、モミジ。まずは『痛覚支配』だ。それがないと奴には近づけもしない」
「大丈夫だよ。ちゃんと仕上げてきたから」
全身の力を抜き、深呼吸をする。すると湧き出てくる歪な力。
「『痛覚支配』ーー精神浄化ッ!」
瞬間、辺り一帯の空気ーー主にERGに含まれているであろう、感情の由来となる物質を弾き出し、唯のエネルギー源として、浄化した。
「直接触らないでも、空気に干渉する事で『衝動』からの影響を浄化できるようになりました。きっとこれで『衝動』は何時来ても大丈夫です」
「すげぇな……よく数日でここまで仕上げたなモミジ」
「……まぁ、この特異能力は性に合っているみたい。でも、本来の痛覚支配としての能力は直接触らないとできないからそれだけは気をつけてね」
私は周りに忠告した。そして、例の如く『恐怖』は衝動を放ち此方の感情を支配しようとする。しかし、それは私の特異能力によって無効化された。
「……ほむ……既に奴……少し弱っているように見えるのですが」
「あなたにもそう見える? 紅葉ちゃん、実は私もそう思うの」
「ええ」
あの時見せられたスピードは既に半分以下に落ちており、叫び何かを求めるかの如く声を響かせた。
「僕の素晴らしぃ感知能力から推察すると、今の『恐怖』からは『恐怖させる』というより何かに『恐怖させられている』気がしまするねぇ」
所要に同意するのは嫌だが確かにその通りだ。
『恐怖』本来の衝動とは少々違う種類になっている気がする。
そして、思い当たる節が一つだけ浮かび顔に手を当てた瞬間、何となくだがあの感情生命体と共鳴し、その推測を確信をした。
「アイツ、衿華ちゃんの特異能力で強制的に弱らせられているんじゃないかな?」




