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どうか、この世界を私たちに守らせてください。  作者: 華蘭蕉
Act two 第二幕 恐怖と喪失。そして、憧れ。
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スキャーリィ編 34話 得て失ったモノ

 少しだけ暖かく、目を閉じていても日が出ている事が分かった。カーテンから漏れた日がチラチラと私の顔に直撃する度に寝返りを打ちたくなる、そんな気分の中ようやく億劫だった私の脳味噌が働き始めて、強張った口を開く。


「眩しい……」


 身体を起こして時計を見ると今が昼下がりである事が分かった。


「あんまり時間は経って無いのか」


 そして、同時に私を見張っていたのか、イスに座り居眠りをしていた黄依きいちゃんの姿が見えた。


「おーい、黄依ちゃーん!」


 先程の一件のせいで頭部全体に物凄い違和感を感じるが、それでも早く意識が回復した事を彼女に見せたくて私は彼女を呼びかける。


 幸い、今頭部に感じている違和感以外には何も異常は無さそうだ。


 一向に起きなさそうな黄依ちゃんの姿を見て、少し笑いながら彼女の方へ足を運ぶ。


「ねぇ……黄依ちゃん。ちゃんと私戻って来れたよ」


 彼女の身体を優しく揺らす。すると、彼女の顔全体がこちらへ徐々に傾き、寝言のように私の名前を呼ぶ。


「……紅葉もみじ……? 大丈夫よ……あんたなら、きっとこれからも幸せになれるから」


 幸せそうな彼女の顔を見ると流石に起こすのが忍び無くなってきたが、それでも一刻も早く安心をさせたいが為に彼女を起こす。


「黄依ちゃん、おサボりはダメだよ?」

「……んぁ……? えっと……私なんでこんな事してたんだっけ?」


 寝ぼけたような顔で彼女は周りをキョロキョロする。そして、私と目があってびっくりした様子で此方に笑いかける。


「私……寝てた?」

「あははっ……うん、寝てたよ」


 そんな黄依ちゃんの姿に思わず笑い声を上げてしまう。


 しかし、彼女は少し違和感を感じているのだろうか? 此方の顔をまじまじと見つめてくる。


「なっ何? 恥ずかしいよ……?」

「……紅葉? また変な夢でも見たの?」

「……夢……? いや、何も……ただぐっすり寝てただけだけど。それがどうかしたの?」


 すると彼女は少し困ったような顔をして此方を見てくる。


「いや……じゃあまた紅葉がふざけてるだけよね?」


 私がこの状況でふざけてる……?


「それってどういう事?」

「いや……え? どういう事って……どういう事? 私が聞きたいんだけど?」


 黄依ちゃんの顔がどんどんと困り、曇った表情になっていく。


「そんな返し方されても、私何も企んでなんか無いよ?」


 流石に何か嫌な感じがしてきたので、今思っている事を正直に言う。


 しかし、彼女から返って来たのは意外な言葉だった。


「……え? じゃあ何その酷い顔?」


 すぐさま、自分の顔に触れて、何かがついていたりしないか確認してみる。


「顔……? えっ? もしかして、誰か私の顔に悪戯した?」

「紅葉……何言ってるの?」


 少しだけ、私に恐怖するような声を出しながら彼女は私に語りかける。


「いや、だから……私が寝てる間に悪戯したのかって……?」


 そして、彼女は首を振り、立ち上がり、私の肩を掴み、もう一度私の顔を見て、声を震えさせながら言葉を発する。


「悪い冗談はやめてよ……? 紅葉? ねぇ、無事に目を覚ましたなら普通に笑ってよ……」


 彼女の言っている言葉の意味が分からなくて、私はもう一度笑い声をあげる。


「ふふっ……? 何を言ってるの黄依ちゃん? 私だって今、生きてて嬉しいから、笑って無い訳無いじゃん……? 演技もしてないよだって……?」


 私だって、色々な体験をした。確かに瑠璃るりくんに会うまでの私だったら、笑顔の奥に強烈な『死にたい』という感情を宿している事もあった。それが人に気付かれるのが嫌で、ずっと笑っているフリをしている時だってあった。


 でも、そんな体験をしたからこそ、生きて返って来れた今を笑わないなんて酷い事、私は出来なかった。


 だが、彼女は黙って鏡の方を震えた指で差した。


 私の視線はその指の先に釣られて、自身の鏡像を見ようとした。


「なに……これ」


 そこに映っていたのは笑っている自分では無かった。


 そして、先程から感じていたこの頭部……いや顔全体に広がっている違和感の正体がそれを見た瞬間理解できた。


 私は笑っている。その筈なのに。その筈なのに。


「あんた……なんでそんな酷い顔しているの?」


 一番印象的なのはあまりにも酷く暗く深く黒い瞳。そして、微動だにしない表情筋と必要最低限動こうとしない目蓋と口。


 まるで、最愛の人を亡くし人生に絶望を見出して、放っておけば今にでも自殺してしまいそうなそんな酷い顔だった。


「あれ……あれ……? おかしいな? 私、ちゃんと笑おうとしているよ? 何かの悪い冗談……じゃ無いよね?」


 顔をペタペタと触り、それを確かめる。


「……なによ……それ……?」

「流石に冗談キツイよ……? 私も演技してた事……悪いって思ってたんだよ? ねぇ、ドッキリとかなら言って? 私怒らないから……」


 無理にでも表情を出そうとするが、一向に鏡像の自分は笑おうとしない。


 そして、ようやく全てを察した私は思わず呟いてしまった。


「これが……他者ひと願い(エゴ)を持つ事の代償なの……?」

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