第1話 プロローグ、我は魔王。勇者がやってきた。
「魔王様大変ですっっっ!!」
「勇者が!勇者がこの魔王城に攻めてまいりましたぁっっ!!」
部下の声を聞き、私は書類仕事の手を止める。
ついにこの日がやって来たのだ。決戦の日が。
「どれ、我が直々に赴くとしようではないか。勇者の顔に興味もあるしな。お主らはついて来るではないぞ」
「しかし魔王様っ!!」
部下の声をスルーし我は部屋を出た。部下が追い掛けてきたが、途中で見えない壁にでもぶつかったように足を止めた。見えない壁をバンバン!我特性の結界魔法はそんな容易く壊れはせんぞ。
他にも何人か部下と会ったが見えない壁もとい結界魔法に閉じ込めておく。勇者の詳しい情報は入ってきてないが、強敵であることに間違いはないであろう。であれば生きて帰れる保障はない、部下を巻き込むことは出来ぬからな。
勇者がどんな奴かは知らぬが、部下を見逃してもらえるだろうか。いや我が勝てばいいだけのはなしなんじゃがの、最近歳を感じてのぉ、ぶっちゃけ運動とかきついんじゃ。もうこう見えて我600年生きているジジイなんじゃよ。
我は廊下に設置されていた鏡を見る。大きすぎるぐらいの鏡の下の方にちまっと写る我。身長140㎝にも満たないであろう銀髪の少女、それが我の外見である。いや我男じゃけどの、何故か人間の少女みたいな外見しよってからに、部下に何度馬鹿にされたことか。幼女魔王とか言われた事あったのぉ。そんなこと言ってきた部下はしばいてやったが。まぁ、我の話なんてよいのじゃ。
「さてと…」
我は一人、大広間へと赴いた。そろそろ勇者が訪れる時間帯だ。今の我は正直運動不足、勝てるか分からんが…まぁ頑張るしかないかの。
コツ、コツと何者かの足音。近付いてくる。此奴が勇者か…。しかしなんか足音が軽いの。それ程大柄ではない、軽装備か。なんか勝手にごつい鎧とか装備した大柄の男をイメージしとったんじゃけど違うのか。少し前まで勇者美少女説とか流行ってたけどそんなの迷信じゃろ我知ってる。
勇者の情報は数少ない。ぶっちゃけ勇者本人が目立つのが嫌いなのか、あんまり情報出ない。出てくる情報と言えばやれドラゴンに襲われていた村を救ってもらっただの、悪い噂ばかりしかない王子の所に嫁がれそうになったところを救ってもらっただのと、なんか勇者本人に対して具体的にどんな奴だったとかは書いておらのじゃ。
今や個人情報の流出は何よりも怖いはいてくな時代、我は詳しくないがなんか『いんたーねっと』?とか、『えすえぬえす』?とか流行っとるんじゃろ。簡単に個人情報は流れていくみたいじゃの怖い怖い。
話が逸れたの。さて、足音は徐々に大きくなっている。間違いない。近付いてくる。さぁ、顔を見せるがよい勇者よ!
「貴方が…魔王?ですか?」
おそらく勇者と思われる者の声。なんか掠れてるの。おどおどしてるというか何というか弱気腰?思ってたような強い口調じゃないの。てか女子じゃろこの声。マジか、勇者美少女説ワンチャンあったのか我完全に迷信だと思っとったわ。
「如何にも!我こそ名高き魔王シフォンケーキ・サタナエル・ノイドである!其方が勇者であることに間違いはないか!?」
「えっ、ええはい…一様…あの…勇者やらせていただいてます…ていうか、あの…シフォンケーキって…プフ」
此奴笑ったな!今我の名前で笑ったじゃろ!いや我も正直ないなと思うよ!400年前に死んだ親には悪いがなんでこんな名前つけたのって思うたわい!もうちょっと格好いい名前にしてほしかったってのが所直な我の気持ちなんじゃ。
「ええい!笑うてないでいい加減顔を見せい!いつまで薄暗い廊下の影に隠れとるつもりじゃ!其方が勇者だというのなら正々堂々と顔を出して我と勝負せんか!其方もその為にここまでやってきたんじゃろ!!」
「えっ…はいそうですね…すみませんすみません」
そして、勇者は我の前に姿を現した。
身長は我より高い、150㎝程だろう。そんなことよりも目立つは腰のあたりまで伸びたさらっさらで綺麗な金色の髪に、エメラルド色の瞳、可愛らしい顔立ち、誰が見ても思うであろうとびっきりの美少女がそこにいた。
「あっ、あの、初めまして…っていのもなんか変ですけど、あの、勇者やらせていただいてます…幸村アリスって…いいます…よろしく、です…てへ」
少女はどこか儚げに、されど美しく笑う。
勇者美少女説あったわぁ…。