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97 懐かしの大事な場所

「ギィ!アリス!ちょっとここまで来てくれ!」


 自分はギィとアリスとラージバットの住処の奥に呼んだ。


 前回のラージバット戦の時は、ギィの疲労も強く、メーベル女王様への謁見も控えていたので、余裕がなかったため、すぐに南の居住区へ戻って行った。


 しかし、今日は余裕もあったので、懐かしの場所にやってきた。


「ギィ!それにアリスも見てくれ!」


 自分が示した場所には、枯草が乱雑に散らばり、砕けちった卵のかけらが落ちていた。


「なんすかっこれっ!枯草っすよね!それに卵のかけらが落ちてるっす。でも、このピンク色の水玉模様は綺麗っすね!」


「はははっ!ギィは本能的に自分の卵の殻に気づいているのかな」


 アリスは自分の言葉に対して即座に反応していた。


「えっ!ギィちゃんはここで生まれたの?」


「なに?!アリスちゃん!私がここで生まれたって?そう言ってるの!」


 アリスの驚いている姿を見ても、ギィは状況をあまりよく呑み込めていなかった。


「自分の殻!?ここで生まれた!? はっ! 私この卵から生まれたの?そういうことっすか?師匠!」


 アリスの言葉で、ギィはここで生まれたと自分が言った事を理解していた。


 そして、砕けて小さくなった卵の欠片の中で、大きなものを拾って、その卵の殻を何度も見返していた。


「へぇ~!私ってピンク色の水玉模様の卵に入っていたんだぁ~!かわいいっ!!」


 ギィは自分で、自分の卵の欠片を褒めていた。


 そして、しばらくピンク色の水玉の入った卵の欠片を眺めていたが、何かに気が付いたようで、自分の方を向いて声をかけてきた。


「でも、師匠!ここに卵があったとしたら、自分の親はラージバットって事っすか?」


 ギィは真剣にラージバットが親かどうかを尋ねてきた。


「いやいやいや!そんなことがあるはずないだろぉ~!ラージバットはこうもりのモンスターでギィお前はトカゲのモンスターだろう!」


 相変わらず、考え方が直感だなって思って、少し笑ってしまった。


「師匠!そんなに笑わないでほしいっすよ! あっ!でも、なんで私の卵はここにあったんすか?」


 そのことは自分も考えたが、理由はわからなかった。


 一瞬、ラクーングレートリザードの事が頭をよぎったが、絶対に違うと自分に言い聞かせた。


「自分もそのことを考えた事があるんだが、その理由は分からなかったんだ。もしかすると、ラージバットの食事として置かれていたのかもしれない。その事以外に、他の理由があるのかもしれないが、枯草を敷き詰めて、その上に丁寧に置かれていた事以外は不明のままなんだ。今はお前の側には、自分やアリスもいるんだ、それはそれでいいもんだろ!あまり気にしすぎないほうがいいぞ!」


 ギィに気にするなといっているが、自分は親の仇であるあいつ(グレートリザード)の事を忘れることが出来なかった。


 たとえ、状況から分かっただけであったにもかかわらずだ!


 だから、ギィも何らかの気持ちにわだかまりが残ってしまうに違いないと思った。


 仲良しのアリスにメーベル女王様という親がいるように、ギィも自分の親や親がいなくても自分の同族位には会いたいと思うことは必然だろう。


「今は師匠やアリスちゃんが私の家族みたいなものっすよね!私にはそんな家族がいるから、本当の親の事とか気にするのはやめるっすね!」


「そうだよ!自分にとっても、おまえやアリスは家族同然だからな!ギィ!」


 自分が家族同然とギィに伝えると、とっても嬉しそうに笑っていた。


「そうだとすると、私には家族が2つあることになりますの。とぉ~っても忙しい事になりますわね」


 アリスは家族が2つもあってとっても大変だと、嫁に行った後の家族の付き合いみたいなことを言っていた。


 しかし、アリスの目には大粒の涙が今にもこぼれそうになっている事に気が付いた。


 謁見の時にも、メーベル女王様から優しい言葉をかけられて泣き崩れていることを思い出した。


 親がいるといっても、女王だと普通の家族の様に接することは難しいんだろうなということが容易に想像できた。


 だから、今、自分とギィから当然のように家族と認識されると、涙腺がゆるんでしまう様だった。


「ちょっと、湿っぽくなってしまったな。すまなかった。だがな、ここはギィの生まれた場所であり、同時にギィと自分が初めて出会った場所でもあるんだ!確かに、この場所で出会った事自体には、特別な印象はないんだが、ギィと出会ったことはとても重要な出来事だったんだぞ!」


 気が付いたら、この世界にいて、しかも蛇だった。


 生き残るために、出来ることをすることに精一杯で、もともと人間だった事が少しづつ薄れていっていた。


 そんな中、ギィに出会うことで、コミュニケーションをとることの大切さを思い出させてくれた。


 自分をもとの人間に引き戻すきっかけを作ってくれたのだ。


 それほど、ギィとの出会いは重要だった。


 しかし、まあ、こんなことをギィやアリスに伝えるのも恥ずかしいから話すのはやめとこうと心の中で思い出すだけにした。


「それに、ギィとの出会いがあったからこそ、アリスと仲間になることも出来たんだぞ!ギィがいなければ・・・。まあ、その話はいいか。とにかく、自分にとってこの場所は生き方を変えるきっかけになった場所だってことが言いたかったんだよ」


「生き方って、出会う相手で簡単に変わってしまうんですのね。そうすると私も素敵な出会いに導かれたことになるんですわね。ほほほっ!」


 アリスも以外にポジティブシンキングなところがあるんだと温かな気持ちになった。


「さて、思い出話もこの辺にして、先に進むことにするか?」


 あまり深いところの話をするとボロがでそうになるので、この辺で切り上げることにした。


「あら!時間も早いですし、ゆっくりと思い出話をしてもかまいませんわ」


「私も話していいっすよ!師匠と出会った時の事は、色々あるっしょ!」


 ちょっと待てぃ!出会った時の事を色々話されると恥ずかしい事がいっぱいあるんだよぉ~!だから、やめてくれぇ~!


「この後、何が起こるかわからないから、あまりここでゆっくりしすぎるのもよくないぞ!だから、すぐに出発するのがいいだろうな。それに、その時期の話は・・・ギィがアリスにじっくり話してあげたほうがいいだろう」


 と・・とにかく、今は何とかして話をしない方向に進めないといけない。


「そうっすね!今は先に進むことが先決っすもんね!ごめんね、アリスちゃん。師匠と出会った最初の頃の話はまた今度ね!」


「師匠のいるところで聞きたかったんですが・・・仕方ありませんわね。今度ゆっくりしたところでお話しを行かせてね。ふふっ」


 アリスはちらっとこちらを見ていた。


 自分が何かをごまかそうをしているのを見破っているのか?


 まあいい、とにかく今は話をしない方向ですすんでいるから、それでいこう。


 ふぅぅ~。


「話も終わったところで・・・え~、さあ、出発だ!ただし、この先は自分も知らないので注意していくぞ!」



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