95 アリスの硫酸弾
模擬戦から1日が過ぎた。
ギィもアリスも模擬戦で受けた傷が癒え、睡眠をしっかりとったので、疲労回復も出来ていた。
疲れた表情もなく、朝からにこやかに話し込んでいたのだ。
「アリス!訓練期間を過ぎたのだろう。そろそろ新しい自分の体にも慣れてきているか?」
アリスは目を輝かせて自信ありげに答えた。
「ええ!師匠!模擬戦でギィちゃんとの連戦のおかげで、思っていたよりも馴染んでいますわ。でも、まだ完全ではないんですの。ただ通常の戦闘位なら大丈夫ですわ!」
「ギィは大丈夫そうだから、そのまま聞いてくれ。今回の模擬戦を見ていて、ポイズパッド討伐くらいではお前たちの実戦経験にはならないと思ったんだ。だから、今日はラージバットの討伐にみんなで行こうと思う。意見を聞かせてくれるか?」
ラージバットの提案をした後、ギィとアリスを見ると返事を聴くまでもないというくらいに自分を見つめてきた。
「もちろん行くっすよ!私の爪をたたき込んでやるっすよ!ねぇアリス!」
ギィは爪を構えると、目の前にいる敵モンスターに向かって攻撃をするように、爪を一振りしていた。
「私はラージバットを見たことがありませんの。ですが、ラージバットの話はギィちゃんから何度も聞いていますの。ですから、今の私の武器である麻痺弾がどれほど通用するか試してみますわ」
アリスは自分の意見を述べた後、目をつぶって何かを考え込んでいた。
この時点ですでにいくつかの麻痺弾を使った攻撃方法を考えているようだった。
ギィとアリスの姿を見ると、すでに勝利を確信しているかのようにも見えた。
自分の気のせいであればいいのだが、ギィが1度勝利しているから、相手を同格と勘違いをして油断することのないように一言付け加えておいた。
「よし!決定だな!準備が出来たら出発するとしよう。ただし、ラージバットは格上のモンスターだと認識しておいてくれよ。くれぐれも油断しないようにしよう」
「はい!師匠」
「わかりましたわ!師匠」
ギィとアリスと別れて準備をする間、これまでのラージバット戦を振り返ってみた。
ラージバットは2度倒しているので、よほどの失敗がなければ、問題なく倒せるだろうと予想していた。
初めてのラージバット戦はウインドカッターの打ち合いの結果、魔力残量の多かった自分が勝利した。
前回のギィと自分でのラージバット戦は、自分が盾役としてラージバットのウインドカッターを相殺させつつ、ギィがその合間をみて、ファイヤーショットでダメージと牽制を繰り返しながら、少しづつダメージを加え、最後はギィの大技で勝利した。
どちらも、ウインドカッターが勝負の決めてとなっていた。
では逆に、ウインドカッターを食らったとするとどうなるか予想してみた。
ラージバットはウインドカッターを3連射してくる。
ギィは皮鎧そしてアリスは鋼外殻を発動しているから、ウイングカッターの3連射を1度は受け切れると思う。
しかし、2度目はどうだろうか?
ステータスを見ることが出来るならば、確認することもできるが、今のところそれは無理だ。
緑エノキで体力回復を行うことで、2度目はもしかすると可能かもしれない。
しかし、3度目は・・・厳しいということにしておこう。
実際はもっと可能かもしれないが、安全マージンは多めにとっておいて問題はないはずだ。
次は攻撃面だが、今回はアリスの麻痺弾がある。
暗闇洞窟内では、ラージバットの姿が見えないので、アリスの麻痺弾を発射することはできないだろう。
その間に飛んでくるラージバットのウイングカッターは自分が相殺して、相殺できない分は自分の影に隠れてもらっておけばいいだろう。
そうして、暗闇洞窟を過ぎれば、アリスの麻痺弾を使用可能となるはずだ。
前の戦いの中、自分のパラライズニードルでラージバットを麻痺させることが出来ていたから、おそらくアリスの麻痺弾でも効果はあるだろう。
遠距離で麻痺した相手を倒すことが出来るとしたらかなり優位な位置に立つことができるはずだ。
そう考えると麻痺弾はかなり強力な魔法になるなぁ!
今度、アリスに頼んで、自分が麻痺弾を獲得できるまで打ち込んでもらうことにしよう。
まあ、ラージバット戦のプランはこんなところかな。
最後は戦ってみないとわからないし、その時の状況に合わせて、臨機応変に対応していくことにしよう。
南の居住区では、ギィとアリスは準備が終わっているようで、歓談しながら自分が来るのを待っていた。
「待たせたな!では出発しよう!おっ、ギィ!その首に巻いている布は何なんだ?」
ギィは首に赤い布を巻いていた。
どこかで見たことがあると思っていたら、北の商業地区でもらった赤い生地に黄色いストライプが入っていた布だった。
「かわいいっしょ!アリスちゃんに巻いてもらったっす。中には緑エノキが入っているっすよ」
便利だとは思うが、戦いでつけていってだめになってしまうのではないかというのが先に頭に浮かんだが、ギィが喜んでいたのでまずは褒めておくことにした。
「そうだな!きれいな色の生地で、よく似合っていると思うぞ!ただ、これから戦いに行くのに大丈夫か?」
「そう言われればそうっすね・・・でも、可愛いからこのままで良いっす」
「そうか。まあ、戦いが始まる前にどこか隅にでも置いておけばいいからな」
せっかくギィが着飾って、喜んでいるからそのままにすることにした。
ラージバット討伐の出発前に、先ほど考えたプランを話して情報の共有をしておこうと思った。
「今回はアリスの麻痺弾をラージバットに打ち込んで、麻痺させた後に倒すことにしようと思う。しかし、ラージバットは暗闇洞窟の中にいる時からウインドカッターを打ち込んでくる。だから、暗闇洞窟を出るまでは、ギィとアリスは自分の後ろに入ってウインドカッターを食らわないようにするんだ」
アリスに視線を送ると、コクリとうなずいた。
「ラージバットに対して、アリスの麻痺弾がどの程度の効果があるかわからない。自分の予想では十分効果的だと思うが、仮に全く効果がないときの想定もしておいた方がいいと思うんだ」
「その時はどうしますの?」
「ラージバットの素早さを下げるウルトラソニックに気をつけて、ギィはファイヤショットで遠距離魔法、アリスは・・・・」
「私は遠距離真技として硫酸弾がありますわ」
「えっ!硫酸弾ってなんだ?」
アリスから初めてお出た言葉に驚いた。
しかも、硫酸って劇薬じゃないか!?
それをとばして攻撃するということなのか!?
「キルアント族の王族のみが進化によって、まれに獲得することが出来る真技ですわ。私の場合はバレットアントに進化した際に偶然獲得できましたの。あまり遠くまで飛ばすことが出来ませんが、10m位は飛ばすことが出来ますわ」
「そうか!王族固有の魔法ということか!アリスも硫酸弾で攻撃できるのであれば、3方に分かれて遠距離魔法攻撃だ!これでいこう」
簡単であるが対ラージバット戦のプランの共有ができたので、皆で暗闇洞窟に向かった。




