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94 模擬戦の反省会

 アリスは形式的に勝利宣言をして、ギィの側まで走って行った。


「ギィちゃん!ギィちゃん!大丈夫!」


 アリスはひっくり返っていたギィの体を起こして、声をかけた。


 一見すると頭を打って脳しんとうを起こしているようだった。


 自分もアリスと一緒に、心配しながらギィの様子を見ていた。


「ごっ、ごふっ!ごほっ、ごほっ、あいたたたたぁぁぁぁ~~!!」


 ギィが目を覚まして、声を上げた。


「師匠!何が起こったんっすかぁ~!!気が付いたら、夢の中だったっすよ!それにしても、体のあちこちが痛いっすねぇ~!ところで、アリスちゃんやっぱり自分負けちゃったのかな?」


「ギィちゃんの負けですわ。しかも、その負けっぷりはすごかったですわ。とても豪快に転がってましたのよ。覚えてないですの。ふふふっ!」


 アリスはギィの様子が思いのほか大丈夫だったのを確認するとほっとしていた。


「アリスちゃん!なんで笑ってんのよ!もうっ!でも、あの時、師匠の動きが少し変わったって思った後、壁の方を向いていたはずなのに、なぜか地面が見えて・・・その後は・・・グルグルぐるぐるぐるんぐるん回ってまわって・・・その後の記憶が・・・ない、けれど、壁にぶつかったのね。ものすごい勢いで・・・」


 ギィは少しづつ状況を把握していき、残念な顔になっていった。


「そうですわ。あまりにも勢いよく壁に激突しましたの。私はもうギィちゃんが死んじゃったかと思いましたのよ」


 ギィはアリスの顔を見ると、大きな目に涙がたまっていたのに気が付いた。


「アリスちゃん!心配かけちゃってごめんね!」


 ギィが優しくアリスに声をかけると、アリスは黙ってうなずいていた。


「でも、師匠との模擬戦はいい感じで戦えてたんだけどなぁ。スピードは完全に師匠を越えているって気がしてたもんね。アリスちゃんはどう思った?」


 ギィは師匠との模擬戦を振り返って感想をアリスに聞いていた。


「うん!ギィちゃんものすごく速かったですの。師匠もその動きに目だけは着いていくことが出来ていたみたいだけど、体はついていっていなかったわ。だから尻尾で罠を張っていましたもの」


 ギィがどういうことかを理解できていなかったので、アリスが説明を追加していた。


「ギィちゃんの進行方向は読まれていましたの、それで、師匠は進行方向の先に尻尾で足が引っかかるように罠をはり、絶妙のタイミングで発動させていましたの。そして、その尻尾のわっかに足を引っかけたギィちゃんは転がって行ったってわけですわ」


「そうかぁ~。私はこのままいけば師匠を倒せるかもって思って、周りに気が付かなかったもんね。それにしても、師匠の防御力は何なのかなぁ~。あんなに、攻撃を与えたのに、ダメージを与えている気がしなかったよぉ~!」


 戦闘中を思い出して、ギィは嘆いていた。


 たしかに、外から見ていると、アリスを1撃で壁まで吹き飛ばした攻撃を十数回も与えているにもかかわらず、ダメージを与えてるようには見えなかった。


 しかし、それは師匠と呼ばれる身の為、何ともないふりをしていたのだ。


 実際は、半分近くものダメージを受けていた。


 ただでさえ、攻撃力のあるギィの爪攻撃にスピードが乗っていたので、1発1発が爪剛撃に並ぶほどの攻撃力を持っていた。


 それを十数回も受ければ、いくら防御力が高いとはいえ、正直言うと厳しかった。


 たしかに、3番目の瞳のおかげて、ギィのスピードについていったが、体は全くといっていいほど遅れていた。


 防御力が高いから、これでいいともいえたが、今後先々の戦いの中で、MPが切れてしまい相手のスピードがギィよりも早いということがあれば、最終的に倒されてしまう結果は目に見えている。


 ギィの攻撃が正直だったので、わかりやすかったから、今回は尻尾の罠にかかってくれたが、今後何かスピード系等のモンスターとの闘い方に関して、対策を考えておく必要があるなぁと反省した。


 ラクーン洞窟地下1階では、無双状態だったので、自分も幾分調子に乗っていたことに気づかされた。


「そんなことはないぞ!ギィ!いい攻撃だった。それに、あのスピードであそこまで方向転換できるのは、戦ってみて本当に驚いたぞ!」


 正直に返事をしてあげると、ギィはとても嬉しそうに顔を崩していた。


「師匠にそんな風に評価してもらえるなんて思ってなかったっす!めっちゃうれっしいっすよ!」


 ただし、褒めすぎるとギィが調子に乗ってしまい、実戦でうっかりしてしまわないように注意をしておくことにした。


「だがな、ギィ。どうしても近接戦闘が中心となる以上、アリスやラージバットが使う魔法で麻痺や素早さを下げる状態異常系統の魔法を放ってくる敵モンスターには気をつけるんだぞ。もしも、そういった状態異常系統の魔法を食らった場合は、必ず距離をとるか、何かに隠れるようにして対処が必要になるかもしれにない」


「そうっすね!師匠!アリスちゃんとの模擬戦でいやって言うほど味わったっす。」


「はははっ!そうだったな。余計なお世話だったか!」


 自分とギィとアリスは模擬戦の結果を話しながら、いつの間にか反省会になっていた。


 しかし、ギィもアリスもにこやかと笑顔の絶えないものだったので、こういった模擬戦をするのもいいものだと感じた。


 しばらく、今回の戦いで思いつくことを出し合い有意義な模擬戦と反省会になった。


 反省会をして、色々な意見を出し合っているとなんだか部活動のようにも見えた。


 中学校時代は部活動をしていなかったが、自分のイメージの中で何となくそんな気がした。


 そうだ、部活なら名前がいるな!


 何がいいかな!


 名前をつけるとしたらぁ・・・・・・ラクーン戦闘部。


 女子がいる部としては少し直接的で殺伐としてるな。


 それなら、ラクーンファイトクラブ・・・あっ!なんかこれいいネーミングじゃないか!


 よし決めた!ラクーンファイトクラブ略してファイクラ。


 まあ、別に部活名なんで決めなくてもいいんだけど・・・まっ、いいか!


 これからファイクラと呼ぶことにしよう。


 はははっ!


 もしかすると、命のやり取りをするこの世界で、シリアスになりすぎるのを避けているのかもしれないが、この瞬間くらいは軽い気持ちでいてもいいだろうと自分の中だけで言い聞かせることにした。


 こうして、午後はファイクラで過ごして、夕方になるといつものようにポイズパッド討伐をして、一日を締めくくった。

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