91 決着
「当たれぇぇえええーーー!!」
ギィは高速移動で前進しながら、アリスの目前に到着して振り下ろした。
「えええぇぇぇーーー!!!」
ギィが振り下ろしたところにいるはずのアリスがそこにはいなかった。
アリスは魔法の詠唱が間に合わないと悟った瞬間に、方向転換の途中から左斜め後方にジャンプをして距離と取っていた。
「アリスちゃぁぁぁぁん!!」
ギィは声にアリスの名前を出して、返事があるはずもないのに呼びかけた。
自分の中でアリスに対する意識を高めるためだったのかもしれない。
または、あきらめないように気合を入れるためだったかもしれない。
そうして、ギィは目標の場所にアリスがいなければ、考えられるのは右前方しかないと判断し、左手で地面をたたきつけて急速方向転換を行った。
方向転換からアリスの方へ向かうためには慣性エネルギーを超える力で無理やり押し出すことが必要だった。
それを、ギィは自分の尻尾を地面にたたきつけてその力を利用してアリスのいる方へロケットスタートを切ることが出来た。
ギィはアリスの方を向いた瞬間、正面に何かを感じた。
パシュゥッ!
麻痺弾がギィに命中していた。
アリスは後方にジャンプをしながら、無理な体制であったが、麻痺弾を発射していたのだ。
それが見事にギィに当てることが出来た。
「追加の麻痺弾よ!当たれぇぇーーー!」
ヒィィィィーーーーン!!
ヒィィィィーーーーン!!
しかし、スピードの乗った方向転換から、ロケットスタートの状態で向かってくるギィに対して麻痺弾を当てたところでスピードが落ちることは全くなかった。
そのため、次弾を連続で発射したにもかかわらず、空を切って行った。
「アリスちゃん!覚悟ぉぉぉおおお!!」
ギィは左手を地面に当てて方向転換した時の勢いをそのままアリスに向かって放っていた。
麻痺弾を発射した後の状態でアリスは体制を整える間もなく、ギィが振りかぶった左手の爪攻撃の直撃を食らった。
ガギィィィーーーン!!
アリスは対応できる方法もなく、ギィと反対がわの壁まで吹き飛ばされていた。
攻撃したギィは麻痺弾の影響もあり、その後の着地がうまくできずに転がって行った。
「アリスちゃん!今回は私の勝ちね!」
ギィはうつぶせになったまま、アリスに向かって勝利宣言をしていた。
「今回は負けちゃいましたわ!!ギィちゃん!」
アリスが受けたのは、たったの一撃だったが、ギィの攻撃力があまりにも強かったせいか、起き上がることが出来ずにいた。
自分はアリスのダメージが残りすぎてもいけないと思い、緑エノキをもってアリスの側に行って声をかけた。
「最後、後方ジャンプをしながら、よくギィを狙って当てられたな。びっくりしたぞ!!」
「師匠!はははっ!!あれは完全にまぐれですわ!だって、ギィちゃんがどこにいるかわかりませんでしたもの。そしたらなんと1発当たりましたの、続けて当たるかと思って発射しましたが、やっぱり外れてしまいましたわ」
アリスは緑エノキを食べながら、にこやかに笑顔で返事をしてきた。
アリスのケガの状態が危険ではないとわかったので、その後にギィの方に向かって行った。
麻痺弾を受けたとはいえ、1発だけだったので、動けない状態ではないと思っていたが、うつぶせたまま動かなかったので、どうかしたのかと少し心配していた。
近くに行くとギィはにこにこと勝利をかみしめていた。
「勝ったっ!勝ったっ!アリスちゃんに勝っちゃった!フフッ!私の勝利!大勝利!」
ギィはアリスに勝てたのが、すごくうれしかったようで勝てたことを何度も何度も繰り返して口に出して喜んでいた。
アリスのダメージがかなり大きかったようだったので、しばらく休憩を挟んでいた。
休憩中、アリスはギィの動きに関して、色々とほめちぎっていた。
ギィはそれを聴きながら、嬉しそうにして、目を輝かせていた。
かなりの時間休憩をしていたので、そろそろ模擬戦の続きを出来るかどうか、ギィとアリスに聞いてみた。
「ギィ!アリス!模擬戦の続きは出来るか?特にアリスはかなりダメージが大きかったように思えるが、まだ、戦えそうか?」
「私は平気っすよ!師匠!でも、アリスちゃんは無理しない方がいいかもしれないっす」
ギィはアリスの様子を見ていて、ねぎらうように返事をしてきた。
アリスの様子を見ると、緑エノキのおかげで、傷自体は回復しているように見えた。
しかし、受けたダメージが大きすぎたようで、連戦は少し難しい様だった。
アリスの返事も、自分の質問に対して、うなずくだけだった。
「わかった!今日の模擬戦はこの辺で終わりにしておこう」
アリスは進化後の訓練期間で体が完全に慣れていないこともあり、あまり無理をするのもよくなかった。
そう考えて、模擬戦を終了することにした。




