86 ギィ対アリス・・・初戦
模擬戦初日
自分が朝目を覚ますと、ギィとアリスは既に目を覚ましていた。
ギィもアリスもなんだかいつもと違ってそわそわしていた。
ギィは、昨日、北の商業地区に行くと言っていたが、
ポイズンバットの丸焼きを食べた後、心なしかいつもよりも早く寝ていた。
もしかするとどこか別の場所で特訓していたのかもしれない。
アリスは昨日はフラフラになるまで特訓をしていたようだから、とてもぐっすり眠っていたようだ。
「ギィにアリス、おはよう今日の調子はどうだ!」
「師匠!やっと2日が過ぎたっすね!今日は絶対に負けないっすよ!」
「師匠、私は弱体化の後なので、あまり無理しすぎないようにしますわ!」
ギィは負ける気なんて全くないような口ぶりで話をしていた。
それとは違ってアリスは、何だか少し勝負に対する気持ちが少ないような気がする。
いや、なんだかおかしい!
アリスは昨日あれほどくたくたになるほどに、特訓をしていた。
そんなアリスが、弱気な発言をするのは・・・。
もしかするとそれは既に、ギィ対する牽制なのかもしれない。
もしもそうだとするとアリスの勝負はすでに始まっていると言うことか。
確かにギィはそういった頭脳的なところは強くはないが、ギィの身体能力は侮れない。
こうなってくると2人の戦いは見ものだな。
「ギィにアリス、準備はいいか?よければこのまま住処の洞窟に向かうが、いいか?」
「師匠!いつでも良いっす!」
「師匠!準備はできていますわ!」
そして自分とギィとアリスは、いつもの暗闇の洞窟には向かわずに、住処の洞窟に向かった。
「ルールは昨日言った通りだが、お前たちなら体が壁に付いた方が負けと考えていいだろう。それで2人とも位置についてくれ!行くぞ!・・・」
住処の洞窟は概ね円形になっていた。
自分が入り口側に立ち、ギィが向かって右側で、住処の洞窟の真ん中と壁の丁度真ん中に立っていた。
ギィはこれまで考えてきた、対アリスの作戦を思い出すように、何度も何度もぶつぶつと口ずさんでいた。
口ずさみながらも、準備運動がてらその場でジャンプをしたりくるくる回って体を動かしていた。
ギィはあまりじっとしているよりも、体を動かしていた方が、精神集中できるのかもしれない、さすが、行き当たりばったりの超運動神経の塊だ!
しかし、アリスは全く逆のように見えた。
アリスはギィと反対側の同じ位置で同じように立っていた。
動き回っているギィとは正反対に、アリスは静かにたたずんでいた。
アリスはしゃがみこんで、大地の力を受け取っているかのようにうつぶせていた。
目はつむり、何かを考えているようにも見えた。
ギィもアリスも意欲は十分に整ってきているように見えた。
そこで、自分は開始の声を上げた。
「・・・・・始め!!」
声を上げるとすぐに動き出したのは、ギィだった。
ギィは一気に加速するつもりなのかもしれない。
頭を低く下げて、まるでクラウチングスタートのような体勢になった。
そのまま、右に行くか左に行くかは、今はわからないがどちらかに急加速するのは間違いないように見えた。
それに対して、アリスがどういった対応をするのかと目をアリスに向けた瞬間、アリスから何かが飛び出してきた。
そして、それはすぐに分かった。
アリスから飛び出たのは、弾丸のようで、小さくて、細くて、それが、白い線を引きながら、ギィに向かって行った。
ヒィィィィーーーーン!!
通常の魔法とちがい、スピードは圧倒的だった。
ギィはアリスの弾丸に反応していたが、一度下げた頭を戻そうとする動作が邪魔をして、アリスから飛んできた弾丸のような魔法をよけることはできなかった。
パシュゥッ!
アリスの魔法はギィに直撃した。
「うぎゃぁぁぁ!って、あれ、何ともない!アリスちゃんスキルの失敗だね!そしたら、自分から行くよっ!!」
ギィは右を向いて、全速力で走り出そうとした。
自分はアリスの最初の魔法がギィに勝つための最終手段だろうと思ったが、直撃したにも関わらずギィに何の変化も見られなかった。
ギィが全速力で走り出したら、アリスにはもう捕まえられないだろうと思った。
・・・ギィは右に走り出していた。
そして、ギィは回り込みアリスに向かうだろうと考えた。
ギィが5歩目をついた瞬間に、もう一度アリスから同じ弾丸が飛んできた。
パシュゥッ!
あれっ!おかしい!ギィの全速力はかなり早いはずなのに、それに、5歩もすすめばすでに高速移動の状態に入っているはず・・・。
にもかかわらず、アリスの弾丸はギィに命中していた。
いや、待てよ!なんで自分はギィが5歩すすんだことが見えた!?
いつもであれば、感覚で5・6歩というのはわかるが、正確に5歩というのはわからないはず・・・。
そう考えていると、さらに、アリスから弾丸が飛んできた。
パシュゥッ!
わかった!!
アリスが放っていたのは、麻痺弾だった。
そして、3発目の麻痺弾が当たった瞬間、ギィの動きが停止していた。
「アリスちゃん!ちょっと待って、何!これ!体が動かないよ!どうなっているの!」
そう言いながら、アリスは歩いてギィの方に向かってきていた。
「だめ!アリスちゃん!そのまま近づいてきたら・・・。やばい。だめだよ!だめ~~~!」
ギィはアリスが近づいてくるのを、涙目で見ていた。
「ギィちゃん!ごめんね!私の新しい真技ですの!!麻痺弾なのですわ!でわ、ギィちゃん!じっとしててくださいね!でも、動けませんでしたわね!」
アリスはギィの側までやって来て、ギィを抱えた。
ギィはアリスの2倍位のサイズがあったが、軽々とギィを抱えて運び出した。
「えっ!アリスちゃんどうするの!抱えられちゃってるよ!そんなことしたら・・・」
「そうですわ!このまま、壁まで運びますわよ!おとなしくしておいてほしいですわ。って、動けませんでしたわね!」
アリスは少し意地悪な返事をしていた。
きっと、初めての1敗の汚名返上が出来ることがうれしいのかもしれない。
アリスは微笑みながら、ギィを抱えてゆっくりと壁まで到着すると、ギィを壁に向かって軽くポイした。
「うわっ!」
ギィは軽くではあるが背中から、住処の洞窟の壁にぶつけられた。
「ちょぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおっと!アリスちゃん!もしかして、これで模擬戦は終わりなの!」
「最初の勝負はこれで終わり。そうですわね!師匠!」
「あっ!ああっ!アリスの勝ちだ。」




