8 閑話
「ごめーん、たぬき、日誌を届けに行ったら、先生に明日の資料作りを協力させられちゃった。すぐ終わるからっていうから手伝ったら10分くらいかかっちゃたよ。も~ぅ」
放課後、生徒会委委員会があるから、紗耶香さんに中庭でまってるように言われていたので、ベンチに座って、異世界転生もののラノベを読んで待っていた。
予想していたより少し遅かったのだろう、小走りにベンチのほうまでやってきた。
「ううん、今は本を読んでたので、別に気にならなかったですよ」
と声をかけたあと、立ち上がって、紗耶香さんのほうを向いた。
その瞬間、うゎっーー。
小走りだった紗耶香さんが躓いて倒れそうになったので、僕は慌てて支えようとおもい両手を広げた。
目鼻立ちの整った横顔に、後から、ショートカットの髪が流れるようにして、僕の顔の横を横切った。そのとき、とてもいい匂いがして、はやりのリンスの香りかなと思いながら倒れ込む体を支えた。
・・・・意外に軽かった。
「きゃ~ごめんなさい。わたし、慌てちゃって・・・ほんとごめんなさい」
あわてて僕の腕から離れて、両手で顔をかくしながら顔をまっかにして恥ずかしそうに何度も謝っていた。
「大丈夫、足首とか怪我してない?ふふっ!でも、躓いて転びそうになるなんて、意外だなって思いました。スポーツが得意って言っていたので少し驚きましたよ」
「そうなの、スポーツは好きだから、一生懸命になっているときはそんなことないんだけど、普段はすご~~くおっちょこちょいなの。えへっ!それに・・・入学式の時に、消しゴム忘れてきちゃったしね」
「はははっ、そうでしたね」
「もう、たぬきったら、笑わないでよ!」
入学式からいろいろと強引なところもあったけど、予想外にドジな面を見ることが出来て、少し親近感もわいてきた。
だけど目の前にいるショートカットの似合う綺麗な子が、さっきまで僕の腕の中にいたこと思い出してドキドキが止まらなかった。
「もう!敬語はやめてっていってるのに・・・」
「ごめん・・なさい。すこしづつ慣れていくので・・・」
少し、頬っぺたをふくらまして、すねている様子はとてもかわいくて、ドキドキが止まらなかった。
「いいわ、でも、そろそろ委員会に行かないとね」
ドキドキして落ち着かない僕と違って、紗耶香さんはいつもの様子にもどっていた。不意にピンク色の腕時計で時間を確認している姿の中で、色白できれいな指に目を引かれていた。
「そうだった。今日は生徒会委員会の初日だったですね。みんなの前であいさつもあるのかな?」
そう言って、ベンチの側を離れようとしたとき、違和感を感じた。
あれ、何か忘れているような気がする・・・・気のせいかな。
「そうね、まずは自己紹介をしないといけないわね。私はもう考えてきているわよ。たぬきは考えてきてるの?」
そんなのあたりまえじゃないのっていうように聞こえた気がしたが、あえて、スルーした。
「って・・・そのまえに、生徒会委員会中も、その・・・たぬき・・・て呼び続けるつもり?!」
「あははっ!ふふふっ!そんなことしないよ、あたりまえじゃない」
おなかを抱えて本気でわらっていた姿をみて、すこし不機嫌になった僕に気が付いた。
「だって、私、たぬきって大好きなんだよ!」
「えっ、たぬきが好きなの」
なに、なに、これって急な告白のはじまり・・・・。
えっ、ちょっと心の準備できてないし・・・。
ドキドキがバクバクに変わって止まらなかった。
「たぬきってね、もう、本当~に、かわいいのよ。もちろん、酒樽もっておなかにばってんがついてるたぬきもいるけど・・・。私は野生のたぬきがとっても好きなの。それに、昔話にもよくたぬきって出てくるでしょ。はははっ、少し間抜けで、だいたい悪い子だけどね」
きっといろいろな狸を想像しているんだろうなぁ~って思えるくらい、表情が色々と映って行った。
どれも、かわいさがどんどんとあふれてくるように見えた。
「それに、昔、たぬきの映画もあったよね。あの映画は面白かったから何回も見たよ」
なんだぁ。
たぬきって、本物の狸のことだったのかぁ。
少し残念に思いながら、紗耶香さんの後について生徒会室へ向かおうとした。
その瞬間、先ほどの違和感をまた感じた。
それは、思い出さないといけないはずなのに、心が思い出すのを拒否しているようだった・・・。
「どうかしたの?」
自分が突然立ち止まった為に、紗耶香さんは驚いて声をかけてくれたのだった。
「ううん、何でもないです・・・・本当、なんでもないです」
「天気が悪いから、少し寒いわね。風邪をひかないように気を付けなくっちゃね」
生徒会室は3階の教室の奥にあるため、中庭から3階に上がって、渡り廊下を通って行かないといけなかった。
渡り廊下を渡ろうとしたら、雨が降ってきた。
あっ、雨が降ってきた・・・と思ったら、大きな雨の粒が、顔に降ってきた。
大きな雨の粒に驚いた瞬間、景色が変わり、側にいたはずの紗耶香さんの姿が消えていた。
あたりを見回して、紗耶香さんを探すと、そこにあったのは見覚えのある緑エノキにごつごつした岩の壁だった。
「のぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおお!!!なんだぁぁぁぁああああああああーーーーー」
紗耶香さんとの今までの内容はすべて夢だった。
俺のはかなき妄想だったのだ。
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