77 回収部隊
「はい!師匠!当然っすよ!」
ギィの目は、何のてらいもなく、まっすぐに自分を見つめていた。
この住処の洞窟で、この目を見ていると、初めてのスライム討伐の日、ギィが死にかけた事を思い出した。
いきなりこの世界に連れてこられて、ゲームの世界と変わらない感覚で始めざるを得なかった。
それからはこの異世界での戦いに明け暮れる日々が続いた。
そんな時、急にギィという存在が現れたのだ。
ペット位にはなるかと最初は簡単に思っていた。
あの時はまだとても弱々しかったギィ。
ギィギィとしか鳴かなかったギィ。
そんなギィだったが、初めて交流ができる相手となった。
しかし、あの日、いきなり、ギィを失いかけた。
そのことが逆に、自分の失いかけていた、人としてのさみしいといった感情を取り戻してくれたのだ。
そして、自分が絶対に守ってあげないといけない。
そう心に誓った。
それが、いつの間にか、ともに笑い、ともに心配し、そして、ともに戦うことの出来る頼れる仲間になっていた。
そんなギィの成長を思い出して、うれしく思っていた。
すると、ギィが不思議そうな顔をして声をかけてきた。
「師匠!何を笑っているっすか?何か面白いことがあったっすか?」
「そうじゃないよ!ギィの事が頼もしく思えたから、嬉しくなっただけだよ!」
「あはっ!そんなに私って魅力的っすか?」
ギィは本気で行っているのか、とぼけているのか、よくわからないが、笑顔で軽く話していた。
「はいはい!そうだね!」
自分も同じように軽く答えておいた。
「ギィ!そろそろ、ポイズンバットの討伐の続きをしに行こうか?」
あいつの振動や鳴き声も完全に消えてしばらくたったので、そろそろ大丈夫だろうと思ってギィに声をかけた。
「わかったっす!師匠!」
ギィもやる気十分に返事をしてきた。
自分とギィはゆっくりと住処の洞窟を抜け、ありんこ洞窟を越えて、暗闇の洞窟に到着した。
そして、いつも通りにサーチの魔法をかけた。
しかし、ポイズパッドの反応が全くなかった。
「ギィ!おかしいなぁ!ポイズンバットの反応が全くないぞ!」
「あいつに倒されたっすか?」
「そうかもしれない!だが、一応念の為、用心して向かうぞ!」
そう言って、暗闇の洞窟の中へ入って行った。
やはり、気配は全くなく、少し進むとポイズンバットの死体が散らばっていた。
「ポイズンバット達はあいつにも関係なく向かって行ったんだな。」
「そしたら、ポイズンバットを2体おいちゃんのところに持っていくっしょ!!」
ギィはそう言うと、倒されていたポイズンバットを拾いに行こうとした。
「ギィ!ちょっと待つんだ!向こうから何か来ている。」
自分の気配察知に何かが引っかかった為、ギィを制止した。
サーチをかけると50匹位の何かが列を作って、こちらに向かってきていた。
「ギィ!かなりの数がいるぞ!注意するんだ!」
「わかったっす!師匠!」
サイズが小さいため、戦いになっても問題はないと思っていたが、まだ出会っていない敵だった場合もあったので、用心の為に隠密をかけて、拡張まで行っておいた。
暗闇の中、隠密をかけているので、相手は全く自分達に気づいていなかった。
そして、自分達の側までやってきて、何か会話を始めだした。
「テト隊長!ポイズンバットは先ほどのままですので、これから回収いたします。」
「わかった!回収してきてくれ。」
『テト隊長』という声が聞こえてきた。
もしかして、こちらに向かって来たのは、キルアント族たちだったのか?
それなら無理して隠れる必要はないなと思いギィに声をかけさせた。
「そこにいるのは、テト隊長さんっすか?」
ギィが声をかけた瞬間、キルアント族の全員から、自分の気配察知に警戒しているのを感じ取ることが出来た。
うわ~!キルアントたちが警戒している。
そこで、自分も声をかけた。
「テト隊長さん!私です。」
キルアント族のレッドキルアントのテト隊長は先ほどのギィの声と自分の声から気が付いたみたいだった。
「みんな!警戒解除していいぞ!師匠様とギィ様だ!」
テト隊長が号令をかけると、キルアント達から警戒が解けて、回収を始めだした。
そう言えば、門番たちがラクーングレートリザードが去った後は、回収部隊が出動すると言っていたのを思い出した。
「テト隊長!もしかして、回収部隊ですか!」
「師匠様!ご存知でしたか?ラクーングレートリザードが立ち去った後は、モンスターたちが倒されているので、いつも回収に向かうのです。今回は、スノウキャット4匹とスノウラビット6匹を回収できたので、よかったですよ。師匠様とギィ様は何をされていたのですか?」
「いつものポイズンバットの討伐です。しかし、今日はグレートリザードに先を越されてしまいましたが・・・。ははっ。ところで、ポイズンバットは2匹ほどいただいてもいいですか?」
「ええ!構いません!2匹でよろしいですか?」
「はい!十分です。ところで、スノウキャットとスノウラビットとはどんなモンスターなのですか?」
「我々もよく知らないのです。ラクーングレートリザードが通過した後に、まれにラクーン洞窟地下2階の入り口のところで確保できるのです。我々も先に進むと極寒の地の為、活動能力が低下する上モンスター達も強力なため、ほんの入り口までしか行けません。」
ラクーン洞窟地下2階は、次に向かう先だ。
そこは極寒の地なのか。
寒冷耐性がないと、厳しい戦いになるかもしれないなぁ。
敵モンスターも猫にウサギか・・・。
スピードもありそうだな。
サイズが小さいので遠距離での攻撃も難しいかもしれない。
ただ、ギィは炎系の魔法だから、その点は有利かもしれない。
情報はほしいところだが、今考えられる情報はこれくらいかもしれないな。
「これから、我々はポイズパッドを回収した後は、イエローサンライズを確保してきますのでこの辺で失礼します。師匠様!」
「テト隊長も気をつけて下さい。それでは、我々もこれで失礼しますね。」
北の商業地区の露店の店主のおいちゃんのところへ持っていくポイズンバット2体を抱えて、その場を離れた。
回収部隊が出動しているから、閉鎖されていた隠れ洞窟の入り口もいつも通りに通過できると思っていたので、そのまま進んでいった。
入り口に到着すると、いつも通り門番が外にいたので問題なく中に入ることが出来た。
「師匠様!御無事でよかったです。」
門番のキルアントは心配してくれていたようだった。




