75 巨大モンスターとギィの目標
暗闇の洞窟が見える位のところまで行くと、自分の気配察知に何か引っかかったような気がした。
巨大モンスターの気配だったとしても、いくらなんでも早すぎだろ!そう思ったが念のため注意をしておいた。
「ギィ!もしかしたらあいつが来ているかもしれない。一応、念のため注意をしておくんだぞ!」
「はい師匠!気をつけるっす!」
ギィには野生の感みたいなものがあるんだろうか!真剣な顔して周囲を確認していた。
いつもより周囲に気を配りながらゆっくりと進んで行き、暗闇の洞窟の手前に到着した。
そこでもう一度、自分の気配察知に何か引っかかった気がした。
今度は確信した!!
気のせいじゃない!
気配だけだとかなり遠くにあるような気がする。
逃げるとしたら今のうちだ。
そう思ってギィに声をかけた。
「ギィ!何かわかるか?あいつが近くに来てるみたいだ!」
「自分にはさっぱりわからないっす!・・・・・いや、何か振動みたいなものを感じるっす。あれ!?気のせいっすか!?」
いや気のせいじゃない。
ギィが振動を感じたと言った直後、自も同じようにわずかな振動を感じた。
自分の気配察知もだんだん大きくなってきている。
「ギィ!まずいな!ポイズンバットの討伐は中止だ!そしてここから急いで逃げないといけない。」
ズーーーーーーーーン
ズーーーーーーーン
ズーーーーーーン
次の瞬間振動がしっかり聞こえるようになった!
「ギィ!急ぐんだあいつはすぐ近くまで来てるぞ!」
ギャャャャャャャャャやややややややぉぉおおおおお!
あいつが雄叫びをあげた!
「ギィ!先に行くんだ!指定した場所までた。できるだけ急ぐんだぞ!自分が後からついていくからな!」
ギィは後も向かずに高速移動を始めた。
自分は連続ジャンプを行うことで、ギィの高速移動と同じ位のスピードで移動できていた。
幸運なことに、あいつの移動スピードはゆっくりだった。
そのため、追いつかれることなく目的の水辺まで到着することができた。
ギィも自分も首から下は水の中につかり、あいつが来るのを待った。
ギィも自分も、水の中に頭から下全部が浸かっていた。
あいつからすると、とても小さいから気づかないとは思うが、1つ心配なことがあった。
ギィは隠密を使うことができない。
そして進化前よりも体がだいぶ大きくなっていた。
それでも、そこら辺にいるとるに足りないただのモンスターの1匹にすぎないとは思う。
しかし、もしも見つかってしまうと、こちらには生き残る術は全くない。
そこで、可能性は低くても、あいつが来る前に出来る事は何でもやっておこうと思った。
その時思い出したのが、以前キルアント族と初めて交流をしたときに、共有意思の拡張ができることを学んだ。
もしかするとこれは隠密にも適応できるのかもしれない。
共有意思を拡張したときは、共有意思を考えてそれを広げるイメージだった。
だから隠密を拡張する時も、隠密を考えてギィを含むように拡張するイメージにしてみた。
拡張した瞬間、ギィの姿が少しだけ薄くなったような気がしたが、気のせいのようにも思える。
ギィのステータスを見ることができれば、隠密の効果が適用されているかどうかわかるんだが、現状では適用されているかどうかわからない。
今は色々と試している時間は無い。
あいつはもうすぐそこまで来ている。
気配察知などを使わずとも、大きな振動がだんだん大きくなってきていた。
時々聞こえる轟音も、明らかに大きくなってきていた。
ギィに声でささやいた。
「ギィ!心の準備はできてるか。もうすぐやつの姿が見えるぞ!」
ギィから返事はなかった。
しかし、ギィの目は明らかに集中していた。
その時である、水辺のある大洞窟内にあいつが姿を現した瞬間、高らかにの声をあげていた。
ギャャャャャャャャャやややややややぉぉおおおおお!
あいつの鳴き声は、まるで『俺に勝負を挑んで勝てるものがいるならいつでもかかってこい』と言っているような気がした。
今の自分では、あいつになすすべがないというのがとても悔しかった。
しかし、親兄弟の敵であるあいつ、いつかは倒すべき敵であるあいつ、そして越えなければならない壁であるあいつだった。
そんなことを考えながら、ギィはどんな風になっているかを確認した。
ギィは、ほんの少しではあるが震えていた。
しかしその目は真剣そのものだった。
何か弱点はないかそれを探している目であった。
ギィにとっても、目標になってるといっても過言では無いのではないかそう思えた。
しかしギィの目には、あいつはどう映っているんだろう。
ギィは認識しているはずだ、自分の姿とあいつの姿が似ていると言うことに・・・。
あいつとギィは同種族であると言うことを確実に認識しているはずだった・・・。
※ ※ ※
ギィは静かに、あいつを見ていた。
あいつ!大きいなぁ。自分の4倍位かな、いや、5倍位あるかもしれない。
傷もいっぱいある・・・。
ずっと、戦ってきたのかな?
強いのかな!
いや、あの風格、間違いなく強いに決まってる。
ラージバットにすら苦戦しているうちは、あいつには手も足も出ないだろうということは分かっている。
もっと、もっと強くならないといけない。
そして、もっと強い魔法を使えるようにならないといけない。
でも・・・あいつには弱点があるのかな!?
このラクーン洞窟内では一番強いはずだから、弱点らしい弱点はないのかもしれない。
あと一回の進化で勝てるか?
いや、間違いなく無理だ!
自分とあいつの差が大きすぎて、想像が出来ない。
師匠でも・・・。
無理かもしれない・・・。
師匠もそう言っているし・・・。
・・・・・・・・。
あっ!でも、自分は今、あいつの姿を見ている。
前は、怖すぎて見ることすらできなかったのに・・・。
そして、今は勝てない事もしっかりと分かった。
だから、どこまで強くならないといけないかもしっかりと分かった。
ギィは頑張る!
師匠!頑張るよ!!
ギィは自分の心と向き合った後、師匠を見た。
いつもの優しい師匠ではなかった。
緊張感がいっぱいで、3つの目であいつの姿を追っていた。
師匠もあいつ怖いのかなぁ。
師匠もあいつ強いと思っているのかなぁ。
師匠も頑張るのかなぁ。
師匠と一緒に自分も強くなりたいなぁ。
いや!違う。
強くなるんだ!がんばるぞぉおおお!!!
声に出せないギィは心の中でそう叫んでいた。
※ ※ ※
心配はしたものの、あいつは自分達に気づくことはなく、通り過ぎていった。
そして今回も、何かを探すように住処の洞窟へ進んでいった。
しばらくすると、前回と同じように轟音が聞こえた。
そして、もう一度あいつは自分達の前を通り抜けるとそのまま洞窟の奥へと進んでいった。
念の為、振動が聞こえなくなり、自分の気配察知に引っかからない位遠くに進むのを待ってから、水の中から出てきた。
「あいつはいつ見ても強そうだなぁ。」
「そうっすね!師匠!頑張るっす!」
「そうだな!頑張ろう!ギィ!」
自分もギィも緊張していたが、体は戦闘状態にあったみたいだった。
あいつが通り過ぎて危機は去っていたが、大きく疲れていた。
休憩するにしても、このイエローサンライズの花の側では、ゆっくりと休めない。
そこで、久しぶりに住処の洞窟に向かうことにした。
「ギィ!休憩がてら、住処の洞窟に向かうか?」
「はい!行くっす!あっ!それならお願いがあるっすけど、いいっすか?」
こんなところでどんなお願いがあるんだろう!
そして、ギィは少し照れ臭そうにしている。
嫌な予感がする・・・。
「まあぁ。出来ることならいいぞ!」
「・・・乗・・て、ほしいっす・・・。」
声が小さくてよく聞こえなかった。
あんなに元気のあるギィにしては珍しいと思った。
だから、もう一度聞きなおしてみた。
「!!乗せて!ほしいっす!!」




