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73 コンサルさんの出来立て焼き魚②

 見た目は鯛のようでも、ブリやハマチのようでもあったから、味はどんなだろうと思っていた。


 かぶりついて最初に感じたのは、その触感だった。


 しっかりと引き締まったように見えた白身の部分をかぶりついた後、口の中で弾けるように分裂しながらも、かすかに残る歯ごたえによって、口の中全体に広がって行った。


 そして、いつもよりの長めに咀嚼することで、骨までバリバリとかみ砕いた。


 口の中に広がる柔らかいマシュマロのような白身と砕かれた骨から出てくるうまみによって、調味料がなくても、天然のうまみで最大限のおいしさを表現出来ていた。


 そして、・・・・・・・。


 あとから、ゆっくりと口の中を包んでくれるほのかな甘み・・・・もしかして、これはありみつ!?


 カナダではメープルシロップを日本人は醤油を、色んな調理された食べ物にかけて食べる習慣がある。


 キルアント族ではありみつがそれにあたるんだろうか!?


 しかし、見た目にはポイズンバットの丸焼きの時のようなテカリはなかった。


 それにしても、うまい!!!


「コンサルさん!この焼き魚めちゃくちゃうまいですねぇ!!しかも、最後に口の中に広がるほのかな甘みはありみつですか!?」


 コンサルさんは驚きを隠すように、自分の方を一見した。


 しかし、目は一瞬大きく見開いたので、バレバレだったが・・・。


「蛇神様!よくわかりましたね。一般的には、焼き魚にありみつは使用されません。まあ、ありみつが貴重だからというのもありますが・・・。特別に調理する際にありみつを使用します。そして、今回はありみつだけではなく、特別に貯水池の管理区域に少量のみ採取できる塩化香草を使用しています。この塩化香草を使用すると、理由はわかりませんがおいしさに深みが足されるのです。」


 コンサルさんは調理の専門ではないから、知識として知っているだけなんだろう。


 塩化香草の話をしているとき、詳しくは知らないという様子を示しながら少し頭が傾いていた。


「ただし、調理のさい、魚から内臓を丁寧に素早く取り出し、そこにありみつを浸した塩化香草を詰め込みます。そして、魚が焼きあがる直前に、塩化香草をとりだすといったタイミングと勝負になるのですが、今回はそのタイミングがとてもうまくいきました。」


 この焼き魚はどれだけ貴重な食材を使用しまくっているんだ!!


 しかも、何か特別な調理方法だった。


「それほど貴重な食材をふんだんに使用してもらってよかったのですか?」


「これくらいのお礼ですら、少ないくらいですよ! ドラゴンの頭を除去して下さった後には、キルアントの子供たちの体調不良の訴えはなくなりました。そして、体調不良のあった子供たちも、順調に回復しているようです。子供たちの親からお礼の言葉が今朝からやまないほどでした。しかも、先ほどメーベル女王様より、水質改善の手柄として、お褒めの言葉をいただいたほどですから。今回の焼き魚にはかなり丹精込めて労力を惜しまずに作りました。」


「それはどうもありがとうございます。自分にとっても焼き魚は初めてでした。それで、このなんともいえない白身の味と口の中で弾けて噛み応えのある触感は一生忘れることはできないと思いました。それに、子供たちの体調が回復したと聞いて、安心しました。」


「そういえば、午前中は大変でしたね。連結荷物運びで子供たちを乗せている様子を見ましたよ。あんなにギャアギャア騒ぎながら何度も、まわっていたのでとても目立っていました。ですが、あんなに喜んだ子供たちは久しぶりに見ました。最近はポイズパッドの肉が出回り、キルアント族の皆元気になってきていますから。喜ばしいことです。」


 コンサルさんは、ニコニコとほほ笑みながら朝の自分の姿を思い出しているようだった。


 周りから見られている話しを聞くと少し恥ずかしい気分になるが、子供たちだけでなく、大人たちも喜んでもらえると嬉しさも増すなぁ~!!


「そういえば先ほど、3名の親たちが血相を変えてキルアントトレイダーに相談に来ていたんです。」


「体調不良で治療困難な子供たちがいたのですか?」


 喜んだあとに、急に深刻な表情に見えたので、心配になり聞いてみた。


「いえいえ!ちがいますよ。連結荷物運びで子供たちを乗せていた中で、頭の上に3名の子供達が乗っていたでしょ! その親たちが、『蛇神様の頭に恐れ多くも乗って騒いでいたので、お怒りではないでしょうか?』といった相談に来られたんです。ものすごく心配しておりました。」


「ああ!あれは自分の方から乗せてあげたんですよ。子供たちも最初は恐る恐るでしたが、とても喜んでくれて、自分もうれしかったです。親たちにはそうお伝えください。」


 そう返事をすると、コンサルさんは側にいたキルアント達の方を向いて返事をしていた。


「・・・と、いうことだそうです。よかったですね。皆さん!」


 側にいた、キルアント達があの3名のキルアントの子供たちの、親だった。


「自分もあの子供たちの無邪気な笑顔と、きちんと出来ていたお礼も含めてとてもいい思い出になりました。この北の商業地区に来た時に、自分を見かけたらいつでも乗せてあげると伝えて下さい。まあ、あまり子供たちの数が多くなりすぎると困りますがね・・・。」


「恐れ多くも子供たちが蛇神様の頭に乗るなどといった不届きなことをしたにも拘わらず、寛大なお心で許していただけること本当にありがとうございます。」


 3名の親たちはそう言って、何度も頭を下げていた。


「あの、本当に不届きでもなんでもないですから。子供たちには、気軽に声をかけてもいいといっておいて下さい。」


 あまり伝わった様子はなかったが、キルアントの子供たちの親は何度も頭を下げながら去って行った。


「師匠ぉ~!焼き魚食べてもいいっすかぁ~!」


 ギィがもう待ちきれないといった様子で声をかけてきた。


 口の中の痛みが取れたが、自分がコンサルさんや子供たちの親と話をしていたので、なかなか声をかけるタイミングを失ってしまっていたらしい。


 ギィは焼き魚の目の前で匂いを嗅ぎながら待っていたのだ。


「師匠!この焼き魚うますぎるっすよ!この魚と露店の店主からもらう魚は同じものなんっすか?」


 ギィはコンサルさんの話を何も聞いていないようだった。


 まあ!意識は口の中と焼き魚だけだったようだ。


「この焼き魚は特別に調理されたものみたいだぞ!だから、普段は絶対に食べられないからな!!」


「だからっすね!やわらかくて、弾けて、甘くて、何とも言えないうまさがあって・・・。夢のようっすね!!」


 焼き魚にはもう熱さはあまりないはずだったが、ギィは先ほどの失敗があったので、今度はゆっくりとかぶりついていた。


 それを見ていたコンサルさんはそろそろその場を離れるからと言って挨拶をしてきた。


「今回の件は本当にありがとうございます。北の商業地区を代表してお礼申し上げます。明日からも、帆報酬としての焼き魚を準備しておきます。ですが、今回のような特別調理にはなりませんが、その点はご容赦下さい。」


 コンサルさんは、特別な焼き魚を出すことが出来ないことに、すまなそうにして頭を傾けていた。


「はい!それはわかっています。このような特別調理はなかなか出来ることではないでしょうから。それから、明後日の夕方は焼き魚の報酬はいりません。露店の店主のところで調理依頼をする予定があるからです。」


 明後日はアリスの繭化が終わる日だった。


 バレットアントに進化するはずだった。


 弱体化の状態だが、ポイズンバットの丸焼きは食べることが出来るだろうと考えていた。


「では、何か別のもので準備いたしましょう。」


「明後日は特に報酬はなしでいいですよ。」


「わかりました! それでは、そのように取り計らいます。あとはゆっくりと今日の報酬の焼き魚を食べていかれて下さい。では失礼します。」


 そういうと、コンサルさんは頭を一度下げた後、奥へ戻って行った。


 ギィと自分はしばらくそこで、焼き魚を堪能した後、南の居住区に戻って行った。



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