72 コンサルさんの出来たて焼き魚
予想外にギィから焼き魚の説明を受けて、驚いてしまい口を開けたまま茫然としてしまった。
すると、ギィは自慢げに話しだした。
「北の商業地区に来ると、時々、露店の店主のおいちゃん達から、焼き魚をもらうことがあるっす。何度も食べているので、よく知っているっす!! でも、何度食べても、うまいっすねぇ~!!」
ギィは自分だけ焼き魚を食べていて、なんだかうらやましいような、ちょっぴり悔しいような気持になった。
しかし、北の商業地区でギィが色々とキルアント族の為に一生懸命に何かを行った結果、その報酬としてもらっているものなので、逆にギィの適応能力に、尊敬に似たすごさを感じた。
「なんだ!ギィ!食べたことがあったんだな!」
「最初に出されたときは、本当!びっくりしたっすよ! なんて言ったって、表面がガザガサしていて、真っ黒いところがあって、食べても大丈夫かなって思ったっすもん!」
最初に出されたときの、ギィの驚き様が目に見えるくらい、目を開いて話していた。
「でも、食べたんだろう!」
「おいちゃんがどうしても食べろって、うまいから食べろってなんども言われたっすね! だから、仕方なく一口かじったっすよ!」
「うまかったんだろう!!」
「そりゃ~!もう!うまくて、うまくて、二口目は丸ごと口の中っすよ。もう一匹ないかたずねたら、おいちゃんは『もうない』って言うっしょ。 ゆっくり食べればよかったって後で後悔したっすよ!!」
あ~~!それで、ポイズンバットの羽はゆっくり食べていたんだなぁ~!
「でも、昨日は、おいちゃん何も言ってなかったぞ?」
「おいちゃんは魚が入荷したときしか、教えてくれないっすよ! こちらから、いつ入荷するか聞いたことがあるっすけど、返事は『ない』この一言だけだったっすよ! それ以来聞くのやめたっすもんね!」
ギィはおいちゃんに色々聞いても無駄だってことを悟っていたらしい。
まあ、頑固な商人ってところだな! まあ、人じゃないけど・・・!!
「物売る仕事っていうのは、やはり、時にそういう頑固なところも必要かもしれないな!」
ギィは『うん、うん、わかってる。そういうこともあるよな』みたいな顔してうなずいていた。
「とにかくだ・・・!この隠れ洞窟内で、焼き魚を食べるのは初めてだからな。とっても楽しみなんだよ!」
「自分もめちゃくちゃ楽しみすよ。コンサルさんの所の焼き魚は、どんな味がするっすかね?」
自分に味を聞かれてもわかるはずないんだが、『コンサルさんの所』といったフレーズがあるのは、露店の店主ごとで味が違うってことなのか!?
「ギィ!焼き魚の味は露店の店主ごとによって違うのか?」
「よくわからないんっすけど、何か魚が違うみたいなんすよね。魚が違うだけで、味も全然!違うんっすよ。」
ギィは、魚を焼くことで味が変わることに不思議に思っていた。
自分は焼き魚を食べるのが初めてで、そのことにワクワクしてる表情を見せるのは少し恥ずかしかった。
しかし、ギィもコンサルさんのところで食べる焼き魚をとても楽しみにしているようなので少し安心した。
「ギィ!今からコンサルさんのところに行って、焼き魚をもらいに行こう!」
「楽しみっすね〜!師匠っ!」
まずは、この討伐したポイズンバットを隠れ洞窟の入り口まで運ばないといけない。
コンサルさんとは口約束であるが約束をしているので、前回と同じで入り口の門番たちに、話は通じているはずだ。
隠れ洞窟の入り口に到着すると、いつもと同じようにキルアントトレーダーから派遣された、キルアントたちが整列していた。
キルアントのリーダーみたいな人に、ポイズンバットを渡して、ギィと自分はキルアントトレーダーのコンサルさんのところに向かった。
北の商業地区の入り口を通り抜けて、橋を渡ったところにあるキルアントトレイダーに到着した。
キルアントトレーダーの入り口で仕事をしていたキルアントにコンサルさんに声をかけてもらうように伝えた。
奥の方から、コンサルさんは笑顔で向かってきた。
「こんにちは!コンサルさん。ポイズンバットの納品終わりましたよ!」
「ありがとうございます!蛇神様!それと、楽しみにされていました焼き魚の準備ができております。しかも先ほど、焼き上がったばかりですので、まさに出来たてです。」
「本当ですか!焼きたての焼き魚これはまた格別ですもんね!でも、なんでこんなに時間通りに準備ができたんですか。」
コンサルさんの顔が、急にどや顔に変化した。
「それはもう!蛇神様に最高の焼き魚をお渡ししようと思い、隠れ洞窟の入り口のところに、確認係りを配置していたのです。」
「それはわざわざ御手数をおかけしました。ですが、さすがですね。コンサルさん! 自分はこの隠れ洞窟内で焼き魚を食べるなんてはじめてだった上に、焼きたてを食べられるなんてめちゃくちゃ嬉しいですね。」
キルアントトレーダーのコンサルさんは、一度、にこっと微笑んだ。
そして、そばにいたキルアントに、奥にある出来たての焼き魚を持ってくるように頼んでいた。
運ばれてきた焼き魚は、ほわほわと湯気が昇り、表面の焼けた皮が、チリチリと外気に冷やされて形を変えていた。
焼き上がった魚は、とても大きくて約1メートル位の大きさだった。
魚の種類は、日本で言う鯛のように見えた、しかし、鯛のように広がっているわけではなく、全体的な形だけで言うとブリやハマチのようだった。
出てきた焼き魚を見ていたギィは、何故か目を点にしていた。
きっと今まで食べていたものとは違うんだろう。
ギィも、コンサルさんのところで出される焼き魚を、とても楽しみにしていたからだろう。
「ギィ!うまそうだなぁ!」
「師匠!何か魚から煙が出てるっす!しかもなんすかこの大きさ!初めて見たっすよ!!?」
もしかして、ギィが食べた焼き魚は出来たてじゃなかったのかもしれない。
そうしたら、出来たての焼き魚を食べたら・・・、ふふふっ!
「ギィ!先に食べていいぞ!熱いから気をつけて食べるんだぞ!?」
「熱いんすか!?ふ〜ん!?」
あれ何かはっきりわかってない感じだけど・・・。
ギィは、目がキラキラしていて楽しみで仕方がないと言う雰囲気を出していた。
しかし、湯気を気にしているようだった。
きっと今まで食べてきた焼き魚から湯気は出ていなかったんだろう。
そして、ギィは焼き魚の匂いを嗅いでうっとりとした後、一気にかぶりついていた。
「熱いから気を付けろって言ったろうぉぉおおお!!!」
かぶりついた瞬間ギィに向かって、叫んでいた。
しかしギィの耳には届いていないようだった。
ギィはかぶりついた魚を口に入れたまま飛び跳ねていた。
きっと口の中はサンバカーニバルだろう!
すぐに口の中のものを出せば、カーニバル地獄から抜け出せるはずなのに・・・。
もったいないからだろう!ハーフハーフをしながら飛び跳ね続けていた。
とびはねが終わった後、両手両足を横に広げ腹ばいになっていた。
もちろん目は涙目である。
「ひひょぉお〜。ふひほははかひりひりっす!(師匠!口の中がひりひりっす!)」
「だから熱いと言っただろう!」
「はふいっへ、ほういふほほはんすへぇ〜(熱いって、こういうことだったんすねぇ~)」
やっぱり熱いと言うことをわかっていなかった!
「ギィ!ゆっくり休んでな!」
「はひ!(はい!)」
次は自分の番だ!
異世界初の焼き魚、どんな味がするのかな!
そして口の中が火傷しないようにゆっくりと、出来たての魚にかぶりついた。




