67 キルアントトレイダーの伝承
ギィはコンサルさんと約束をした。
『こうなのかな』、『ああなのかな』と何か一人で想像して、嬉しそうにつぶやいていた。
そういえば、ポイズパッドの報酬で焼き魚とありみつをコンサルさんが準備してくれていたんだった。
「コンサルさん!この後、ポイズンバットの報酬の焼き魚とありみつを受け取れるんでしたね。 !や!き!ざ!か!な!楽しみですねぇ!」
あ!なんでだろう!
焼き魚の話をするとコンサルさんの顔がすまなそうに見えた。
「蛇神様!言いにくいんですが・・・、今回、ドラゴンの確認で呼ばれた時に、丁度焼き魚の依頼に出かける直前だったんです。それで・・・・。」
コンサルさんは苦笑いをしながら話を続けた。
「すぐに準備出来るのは、ありみつしかないんです。明日の午後には準備出来ると思いますので、それでよろしいですか?」
「今日は魚に囲まれていて、焼き魚を楽しみにしていたんですが・・・。我慢するしかありませんね。仕方ないです・・・。」
有頂天になっていたところを、急降下でがけから落とされたように落胆していた。
コンサルさんは自分のあまりもの落胆ぶりにかなり申し訳なさそうにしていた。
すると、横からギィが小声で話しかけてきた。
「そしたら、今日は肉だけっすね!」
焼き魚の事で頭がいっぱいだったため、ポイズンバットの丸焼きの事を忘れていた。
この世界に来て、これまで、食べ物を調理して味わうといったことがなかった。
そのため、焼き魚をどれほど楽しみにしていたのか、自分でも驚くほどだった。
しかし、ギィがポイズンバットの丸焼き思い出させてくれたおかげで、元気が戻ってきた。
「おや!何かいいことを聞いたのですか?」
ギィの言葉で、自分が元気になったので、コンサルさんがなんだろうとたずねてきた。
「はい!露店の店主に依頼していたものがあったのを思い出したので・・・。ははっ!」
「ほほぉ!それはとても良いものを依頼されていたんですね。では、焼き魚は明日でよろしいですか?」
「はい!明日の夕方に取りに来ますね。あっ!その時にポイズンバットを納品しときましょうか?」
コンサルさんがトレイダーの顔に変わった。
「本日納品されたばかりだと思うんですが、明日もポイズパッド討伐に行かれるのですか?」
「はい!今は、1日2回毎日行っていますよ!!」
「私も行っているっすよ!!」
ギィもすかさず返事をしていた。
「毎日っ!!! しかも、一日に2度もっ!!!」
コンサルさんだけでなく、その場にいたツキさんに討伐隊のキルアント達も驚いていた。
「そんなに何度もポイズパッド討伐に行かれるのなら、蛇神様!とギィ様!だけでなく王宮の近衛の方たちも一緒に行かれているのですか?」
「師匠と私だけっすよ!!」
ギィが自慢げに答えていた。
「さすがは!蛇神様!とギィ様!ですね!!」
「そうだ!コンサルさん。 ポイズパッド討伐は午前中と夕方の2度行っているんですが、毎回納品しましょうか?」
「そんなことが出来るのですか? ですが・・・、我々にできる報酬が・・・。 それほどのポイズンバットの納品に関して、相応の報酬を準備できません。残念ですが・・・。」
コンサルさんは、報酬が出せないことでこの依頼が受けれないと断ってきた。
「報酬は毎日夕方の納品の後に、焼き魚を準備してくれたらそれでいいですが。」
ポイズンバットはレベリングの為に行っているだけだし、隠れ洞窟の入り口まで持ってくれば、あとは、キルアントトレイダーの方で運んでくれるわけで、簡単なことだった。
自分達にとっては!
しかし、キルアント族にとっては、しかも、一般のキルアント達にはものすごいことだったみたいだった。
そうすると、ありみつはかなり貴重なものなんだろう。
あとで、大事に食べないといけないな。
「コンサルさん、蛇神様!が焼き魚だけで、ポイズンバットを納品していただけるといっているので、ぜひとも引き受けましょうよ。」
ツキさんがコンサルさんに声をかけていた。
コンサルさんは何を悩んでいるのだろう。
コンサルさんはこの依頼をぜひ受けたかった。
しかし・・・。
コンサルさんは考え込んでいた。
・・・依頼を受けるのは簡単だ。
今は、ポイズンバットの数も不足しているから、しばらくは問題はないんだ。
だが、継続して納品されてしまうと、キルアント族の食事がポイズパッドに染まってしまう。
その時、現在取り扱っている、魚や緑エノキ、その他の食物を取り扱わなくなるかもしれない・・・。
そして、それは先祖代々より、キルアントトレイダーの管理者のみに伝承される言葉の中にあったことを思い出した。
その内容は次の通りだった。
キルアント族が全盛期だったアリス女王の頃には、ポイズンバットやアイスラビットといった肉が頻繁に出回っていた。
当時のキルアント族は、それらが手に入らなくなることなんて考えたこともなかった。
しかし、巨大モンスターによる襲撃でアリス女王が倒された後、大飢饉がキルアント族を襲った。
詳しいことはそれ以上わからないが、キルアントトレイダーの管理者のみに厳重に伝承されている内容だったのだ。
仮に、今回の依頼を受けたとしても、そこまでの状況になるとは思えないが、蛇神様がもしも機嫌を損ねたら、もしもこの隠れ洞窟からいなくなったら、そういったいくつもの『もしも』が重なってしまったら、キルアント族に飢饉が襲ってくるかもしれない。
それが心配だったため、コンサルさんは考えざるを得なかったのだ。
すぐに返事をすることが出来なかった・・・。
コンサルさんは、まだ考え込んでいる。
なぜだろうかと考えたが、よくわからない。
しかし、人間の社会でも、キャベツなどが出来すぎると需要と供給のバランスが崩れて、価格の暴落や商品を破棄するといったことがある。
もしかしたら、キルアント族にも似たようなことがあるのかもしれない。
そして、コンサルさんの立場上、軽はずみな言葉を発する事が出来ないということが想像された。
コンサルさんをちょっと困らせてしまったようだった。
「コンサルさん!毎回だとやはり自分達も少し大変かなと思います。それに、近く旅立つ予定もあるので、期間限定で夕方のみ納品する形はどうでしょうか?」
コンサルさんは、はっ!と何かに気が付いたようだった。
自分に気を使わせてしまったことに、少しすまなそうな表情をした後に返事をしてきた。
「この隠れ洞窟を出る日が来るというわけですか! それはとても残念なことですね・・・。 そういうことでポイズンバットは期間限定の納品になるということですね! 残念ですが仕方がありませんね。それでよろしくお願いします。あと、報酬は焼き魚を毎回準備して待っております。」
「蛇神様!はずっとこの隠れ洞窟にいるんではないんですかぁぁああ!!!」
ツキさんが驚いたように声をかけてきた。
「それに、ポイズンバットもたくさん納品してくれると思っていたんですが・・・。 蛇神様!旅立ちを考え直すということはありませんか?」
自分は首を横に振ってツキさんに返事をした。
「ツキさん!私には今よりも強くならないといけない理由があるのです。その為にはラクーン洞窟の先に進まなければならないのです。それから、コンサルさん! 旅立ちの話はまだ内緒なので、口外しないようにお願いしますね。他の皆さんもよろしくお願いします。」
コンサルさんはトレイダーとしての顔でうなずいていた。
「わかりました。我々はトレイダーですので、口の堅さはお約束します。蛇神様には蛇神様の進む道があるようですね。隠れ洞窟にいる間は、どうか宜しくお願い致します。」




