64 貯水池の奥の大穴
しばらく進んでいくと、歩道と川が2手に分かれていた。
歩道はそのままトンネル洞窟になっていて、先に進むにつれて少しづつ小さくなり最後は行き止まりとなっていた。
「ツキさん!ここは行き止まりになっていますが、こちらであっているんですか?」
「はい、大丈夫です。ここから先は、キルアントトレイダーの管理になっていて、食用の魚などを捕獲する場所となっています。今から入り口を開けてまいりますので、少々お待ちください。」
そういって、ツキさんは洞窟の突き当りに向かって行った。
丁度、隠れ洞窟の入り口と同じように、開いたり閉じだり出来るようになっているようだった。
ガリガリガリギギギギーーー!ドンッ!
ツキさんが洞窟の壁の辺りを操作をすると、行き止まりになっていた洞窟の壁が横にスライドしていった。
「さあ!どうぞ。蛇神様!」
ツキさんの進められるままに、洞窟の入り口から中に入って行った。
中に入るとすぐに貯水池に出た。
「ツキさん!この貯水池はとても広いですね。しかも、とてもきれいですね。」
中に入って、驚いたことに、貯水池の大きさは野球のグランドを3つ足したくらいの大きさだった。しかも、緩やかにゆらゆらとゆれてきれいに澄んだ水面は、上空から輝くヒカリゴケに照らされて、月明かり中にさらに星々が写り込んでいいるようだった。
貯水池の右側の壁に沿って、歩道があり、ずっと奥まで歩道がつながっていた。
「ツキさん、ここは川のはずなのに、この貯水池が一番上にあるっていうことですか?でも、そうすると何か変ですね。」
この貯水池に入ってくる水はどこから来るのか不思議に思っていた。
「そうなんです。この貯水池は外の川とつながっているのです。この貯水池の底に空洞があり、そこから外の川の水が流れてきているのですよ。魚なんかも外から来るので、定期的に捕獲しても問題ないのです。」
「水は澄んでいますが、底が見えないですね。かなり深くなっているのでしょうね!」
「深さの調査はしておりませんが、恐らくそうだと思います。」
調査の前に、自分が水の中で泳げるのかを試す必要があった。
「ツキさん!まずは泳げるかどうかを試す必要がありますが、そのまま、中にはいってもいいですか?」
「そうでしたね!歩道の中ほどに、歩道と貯水池がつながっていて、入りやすくなっているところがあるので、そこまで行きましょう!」
ツキさんについていくと、砂浜のように歩道と貯水池がつながっているところがあり、そこから水の中に入れるようになっていた。
とにかく、水の中に入ってから考えようと思い、歩道から、そのまま、水の中に進んでいった。
水の中にはいると、体をS字を描くように動かしてみた。
体に感じる心地よい冷たさと、柔らかいベットの上にいるような浮力感を感じながら移動することが出来た。
「直進は出来ないけど、蛇行すれば水の上や水中も問題なく移動できますね。そしたら、さっそく調査してきます。」
ツキさんのいるところに戻ってきて、調査開始を伝えた。
「くれぐれも、無理は禁物ですから、よろしくお願いします。蛇神様!」
水中の視界は良好だった。
水が澄んでいて、上空のヒカリゴケの光で照らされていたので、かなり深くまで光が届いていた。
魚の種類も多く、ブリやサバのような回遊魚の集団や、鮭と鯛を足して2で割ったような不思議な魚、虹色の魚など豊富に泳いでいた。
水中の魚を眺めながら、さらに貯水池の奥の深いところに進んでいった。
外の光が上空に見えるくらいになり、少しづつ周りの暗さが増していったころになると、地底の岩々が見えてきた。
いたるところで隆起したり、穴ぼこになったり、隆起した岩の中が空洞になり、トンネルのようになっている岩など、平らになっている場所が見えないくらい凸凹していた。
そして、岩々した場所を超えると、そこには大きな穴が開いていた。
あの穴が、外につながっている空洞か?
今のところ、特に問題らしい問題はなかったので、やはり、怪しいのはあの空洞の中だろうなぁ。
そうも思い、一応敵モンスターに備えて、防御として鋼外殻と隠密の魔法を唱える。
水中で出来るのか一瞬迷ったが、特に問題なく発動出来た。
そして、一応用心の為、サーチもかけておいた。
しかし、魚以外のモンスターらしい生き物は索敵には引っかからなかった。
これで敵モンスターが出てきても大丈夫だな!
そして、ゆっくりと大きな穴の中に入って行った。
穴の中の壁も、隆起した岩々の為、まっすぐ進むことはできなかったが、何とか外の光は届いていた。
水の流れがあるので、穴の中央は少し進みにくかったので、隆起した岩々の間をすり抜けるように移動していた。
何かがいる気配はないが、用心の為ゆっくり進もう。
そう考えて、さらに奥に進むと、穴の中央に何かがいた。
サーチにも気配察知にも引っかからない、何かがいる。
敵か!?
さらに、近づくと、顔のように見えた。
顔にしては、サイズが大きすぎないか!?
自分がゆっくり蛇行して移動できるくらい広い穴だったので、その穴のサイズのモンスターだとすると巨大すぎる。
隠密をかけているので、向こうは自分に気づいていないようだった。
そう信じていた。
あのサイズのモンスターだとすると、気配察知のレベルも高い可能性がある。
もしかして、今は睡眠の最中かもしれない。
自分に都合のいいように解釈しながら、ゆっくりと隆起した岩々の間を進んで近づいた。
距離にして100m位はあるだろうか!?
それでも、穴の途中にいるモンスターのサイズが大きすぎるので、はっきりとではないが形が見えてきた。
一見、馬のように前に突き出た鼻の所から、耳に届く位の大きな口に、どう猛で大きな牙が並んでいた。
左右耳の後ろには、牙を大きくしたような巨大な角が、数本並んで伸びていた。
この角の一突きで、自分ならすぐに倒されてしまいそうな大きさだった。
その角の後ろはには、首を守るようにひれのようなものが扇状に広がっていた。
顔全体は鱗のようなもので覆われでこぼこになっていた。
目はここからはみえないため開いているのか閉じているのかわからなかった。
しかし、この世界の住人ではなかった自分にも、この生き物が何かすぐにわかった。
ドラゴンである!!
そして、それがわかった瞬間、こちらを見たように目が光った。
やばい、やばい、やばい、やばい、やばい!!!!!
あんなサイズのあんな魔獣、話の中ではその魔獣は自然災害と変わらないといわれるような生き物に出会ったら、それこそ命がない。
今!目が光ったが、自分に気づいたのかどうかわからない。
一応隠密はかけているが、効果があるかはあやしい
どうする!?
反転して一気に逃げるか?
しかし気づかれたら?
向こうは、状況から水中での移動も早い可能性がある。
いや、しかし、このサイズの洞窟だったら、体が通れないはずだ!
しかし、ドラゴンなら口から何らかの魔法を放つことが出来るかもしれない。
やばい、頭がまとまらない!
こんな時は落ち着け!!ゆっくりと深呼吸だ!
す~~!はぁ~~!
ごぼぼぶぉぶぉぉぉおお!!!
だめだぁあ!
今は水中だった。一気に水を飲んでしまい咽込んだ。
やばい!
気づかれたか!?
そう思って、ドラゴンの方を向いたが、動く気配がない。
気づいていないのか、気にしていないのかわからないが、とにかくまだ無事だ!!
このまま、ゆっくり後ろに下がって、距離をとったら、一気に戻ることにしよう。




