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63 調査団と赤く染まった川

「コンサルさんその手掛かりはどうやって見つけたのですか? もしよろしければ、教えていただけないでしょうか?」


「いいですよ! もともと、蛇神様には協力をお願いしようと思っていましたから。 おい、あれを持ってきてくれ!」


 コンサルさんは、奥で作業をしていたキルアントに声をかけて、何かを持ってくるように頼んでいた。


 持ってきたのは、一つの水の入った壺だった。


「これを見て下さい。」


 コンサルさんは壺の中に浮かんでいるものを指さして説明してくれた。


「今日の午後に、川の上流までさかのぼって調査した結果、水源地で多数の小魚の死骸が浮いていたのを発見したのです。ただ、嵐の翌日なども小魚の死骸が浮くこともあるのですが、今回はそう言った嵐の兆候が全くなかったのです。それゆえ、水質汚染が有力なのです。」


「そこまで分かっているのであれば、何か対策があるのではないですか?」


 コンサルさんは俯いて、左右に2度頭を横に振っていた。


「実は、この隠れ洞窟にキルアント族が移り住んでから、この川の水質汚染が起こった事例は一度もないのです。」


 北の商業地区に流れている川の仕組みは、地下空洞から水が湧き水のように上がってきて、そして、地下空洞に水が排出されていた。そのため、上流も下流も水だまりができていて、そして、川の流れもゆっくりとしたものとなっていた。たとえ嵐などがあっても、砂利などが混ざった状態で流れが少し早くなる程度で、基本的にいつもきれいな状態が維持されていた。


「それゆえ、調査団が調べた結果を踏まえても、原因を究明することが出来なかったのです。」


「上流の泉があるんですよね。そこの水源を調べるとかはしたんですか?」


「すみません、我々キルアント族は水中に入ることが出来ないのです。そのため、地下水脈の状態を確認することはできないんです。」


 キルアントトレイダーのコンサルさんは自分たちで水中の調査が出来ないことを悔しそうにしていた。


「それと、今のところ、体調を崩しているのはキルアントの子供達と死んでいたのは小魚だけというところから、水質汚染といっても微量であるだろうとは思います。ですが、なぜ汚染が続いているのかが疑問なんです。それゆえ、蛇神様に相談しようという結論にいたったのです。」


 まじか?


 自分はもともと泳ぐのは得意だったので泳ぐ感覚はわかるが、今は蛇だから・・・。


 泳げるのか?


 仮に泳げたとしても、潜れるのか??


 わからないことが多すぎるなぁ。


「コンサルさん、自分も生まれてから泳いだことがないので、泳げるかどうかわかりませんが、試してみてもいいとは思うので一緒に調べてみましょうか?」


「水中の事は我々キルアント族には手を出しようがないので、本当に助かります。どうかよろしくお願いします。」


 コンサルさんは頭を何度も下げて感謝の意を示していた。


「調べるのは早いほうが良いと思いますので、今から行きましょうか?」


 キルアント族の子供達の事も心配だったので原因究明は早いほうがいいだろうと思い提案した。


「ポイズパッド討伐の後ということで、お疲れではないのですか?」


「特に問題はないですよ、ケガもないですしね。」


「では、調査団に声をかけてきます。」


 そう言って、キルアントトレイダーのコンサルさんは走って行った。


 コンサルさんがいなくなると、ギィは小さな声で聞いてきた。


「師匠!キルアントの子供達大丈夫っすかねぇ。」


 ギィはこの北の商業地区の皆と仲がいいので心配なんだろうと思った。


「原因かぁ?なんだろうなぁ?」


 この世界の事だから、普通に考えてもわからないだろうなと思った。


 まあ、考えるのは、実際に上流を調べてからにしようと思い、コンサルさんが戻ってくるのを待った。


 それほど時間がかかる前に、コンサルさんが戻ってきた。


 そして、コンサルさんの後ろから、4名のキルアント達がついて来ていた。


「初めまして、蛇神様!我々は今回の調査団4名です。私がリーダーのツキといいます。何かあれば私に声をかけて下さい。」


「ではツキさん、よろしくお願いします。さっそく上流まで行きましょう。進みながら、わかっていることがあれば教えてもらってもいいでしょうか?」


 ツキさんは一瞬目を下に向けて、難しい顔をしていたように見えたが、すぐにこちらに向きなおして、明るく返事をした。


「では早速、出発しましょう。まずは、露店に沿って北に進んできます。」


 そう言って、ツキさんを先頭に調査団は進み始めた。


 コンサルさんは一緒に行く様子はなく、調査団と我々の調査結果を北の商業地区で待っているとのことだった。


「蛇神様!今回はお手数をかけして申し訳ありません。ですが、ご協力本当に感謝します。」


 ツキさんは自分たちで調査できないことが悔しかったんだろうと思った。


 それが一瞬難しい顔をした理由なのかもしれなかった。


「では、調査団で分かったことを説明いたします。実は、数日前の夜間の時間に、川の異変があったのです。川の水の色が赤く染まっていたのです。私の知る中で、そんなことが起きたことはなかったので、皆警戒しました。しかし、夜間の間に流れていったので、朝になるといつもどおりの川に戻っていました。」


「その時に、キルアント族に体調不良の状態はなかったのですか?」


「はい、その時は全く問題ありませんでした。警戒はしたので、翌日は川の水の使用を禁止しましたので。しかし、今回の子供達の不調は何か関係があるのかもしれないと私は考えています。洞窟の外で何かが起こっていたのかもしれないです。しかし、これは憶測を過ぎません。」


「ツキさんは何が起きたと考えているのですか?」


 川の水が赤く染まったという話から、もしかして、川の上流でモンスター同士での戦いがあったのかもしれないと考えた。


「蛇神様はお気づきかもしれませんが、おそらく、上流で大型モンスター同士の戦いが起こったのではないかということです。しかも単体ではなく、複数による大掛かりな戦いではないかと考えます。そうでないと、あの晩の川の色の変化に説明が出来ないからです。」


 大型モンスターの話が出たことで、一つ気になったことが出てきた。


「ツキさんはもしかして、今回の病気の原因が、その大型モンスターの死骸の腐敗、もしくは、その闘いから逃げてきたモンスターにあると考えているのですか?」


 ツキさんはまた、下を向いて難しい顔をしていた。


 先ほど難しい顔をしたのは、自分達が調査できないことではなくて、原因がモンスターにある可能性を心配していたのだ。


 死骸であれば、除去すれば解決できるが、逃げてきた水中モンスターであった場合を考えると事の重大さに、そして、その調査に外部のものである我々に依頼することを危惧されていたのだ。


「その通りです。ですから、蛇神様!水中調査の段階で危険と思われたら、すぐに調査を中止してもらってもいいでしょうか?」


「ですが、そんなことをすると、大事な水資源を失って・・・。」


「いいんです。蛇神様に迷惑をかけることはできません。」


 ツキさんは強い決意をもって返事をしてきた。


 自分はその決意に対して、何も言えずに黙っていた。


「すみません。ですがあくまで最悪の場合ですので、そのように考えておいてください。」


 露店を越えると、洞窟内のサイズは少しづつ小さくなっていた。


 水辺の近くということで、ここには大量の緑エノキも群生していた。


 側の川をみると、小魚は死んでいるが、大き目の魚は変わらずに泳いでいた。


 その点からも、汚染は微量であると推測できた。



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