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61 北の商業地区③

 それほど、重要な秘密には聞こえなかったけれども、露店の店主にとっては、重要なのだろうか。


 自分はただ焼いてある肉を食べたいだけだったんだが・・・。


「ところで、名前を教えてほしいのですが、いいですか?」

「えっ、名前ですか?」


 えっ、名前聞いちゃダメだったのかな!?


「我らキルアントで名前を持っているのは、兵士で隊長クラス位ですもんね。だからおっちゃんでいいですよ」


 もしかして、悪いこと聞いちゃったのかな・・・。

 でも、肉の事はしっかり聞いておきたいから仕方ないもんね。


「肉のこと聞いていいですか?」

「えっ、肉ですか?」


 あれ、肉の事聞いちゃダメだったのかな!?

 あっ、さっきと同じやりとりだったな。

 このおっちゃんちょっとめんどくさいなぁ。


「肉の事は内緒でお願いしますね」


 おっちゃんは突然小声になった。


「この肉はポイズンバットの肉なんです。ちょいと伝手(つて)があって、外から持って帰っているんです」


 ポイズンバット討伐の時は、倒した後のモンスターの事なんかまったく気にしてなかった。

 他のモンスターのえさになっているんだと簡単に考えていた。


 あっ!でも、ポイズンバットの肉をキルアント族が食べるんだから、他のモンスターのえさになっているのは間違ってないんだな。


「この肉はこの後どうするんだ?」

「えっ!肉没収ですか?」


 なんだ、このおっちゃん、変に気が小さいな。


「いえいえ!この肉を調理して露店に出したりするのかと思って聞いているんですが?」

「討伐部隊が解散する前は、大量にあったんで色んな露店で出してたんですがね。今は、あまり出回っていないんですよ。先約も入っているんで・・・、今はちょっと出せないんですよねぇ」


 ポイズンバットは毎日討伐しているから、持ってこようと思えばすぐに持ってこれるんだが、何か許可がいるのかな。


「先約がいるなら、難しいですね。そしたら、持ってくれば調理してくれるんですか?」

「えっ!持ってくるんですか?」


 なんで、いちいち驚くのかな、このおっちゃん!


「それなら、キルアントトレイダーを通してもらわないといけないですが、そうなると自分のところに回るかどうかわからないんですよねぇ~」


 あ~、こそっともってきてほしいんだな。

 さすが、店主だけはあるなぁ、抜かりがないよ。


「1匹でいいのか?」

「調理用と我々用で2匹ではどうでしょうか?」

「よし2匹だな!夕方には討伐に行く予定だから、その時に持ってくればいいな?」

「えっ!夕方ですか?」


 早すぎたのかな!?


「さすが蛇紙様ですね!仕事がお早いことで!」


 いちいち本当にめんどくさいおいちゃんだなぁ~。


「それなら、今からキルアントトレイダーのところに案内してもらえるか?」

「えっ!今からですか?」


 このおいちゃん!この言い回しはもう癖なのかなぁ~。


「今からよろしくお願いします!」


 そうお願いすると、おいちゃんは先ほど言い争っていた、別のキルアントに話をしていた。


 いない間の店の当番をお願いしていたようだった。


「それでは、蛇神様それにギィ様行きましょうか!」


 おいちゃんの露店は、北の商業地区に入ってすぐの場所だった。


 キルアントトレイダーのいる場所は、おいちゃんの露店の向いにある川を越えてすぐの場所にあるとのことだった。


 川には所々に橋が掛けられていた。


 自分達はおいちゃんについて進んでいった。


 近くの橋を渡って、奥の露店が並んでいる場所の丁度中央にいるとのことだった。


 おいちゃんは、キルアントトレイダーと話をして、顔をつないでくれた。


「それでは、蛇神様!ポイズンバットの肉の件よろしくお願いしますね!」


 そう言って、おいちゃんは自分達とキルアントトレイダーに挨拶をして戻って行った。


「初めまして、私はキルアントトレイダーのコンサルといいます。蛇神様ですね。ギィ様は今日も遊びにこられているのですね。お噂はかねがね聞いております」


 あっ、キルアントトレイダーって種じゃなかったのね!

 近衛みたいな役職なんだ。

 町の相談役みたいなものかな。


「こちらこそよろしくお願いします」

「こんちわっす」


 ギィは、初めてではなかったようだった・・・っていうか、顔見知りな感じだった。


「さっそくですが、先ほど、入り口の者からポイズンバットの肉の納入の件について相談があると聞きました。こちらとしては願ってもないことですので、ぜひお願いしたいと思います」


 持ってきた場合、どこに保管して、誰に渡すのかなど、聞いておかないといけないことがあった。


「手続きとかもろもろあるのですか?」

「もしよろしければ、門番のところまでポイズンバットを運んでいただければ、そこからは我々が対応いたします。門番には、我々がメーベル女王様に申請しておきますので大丈夫です。ちなみに、いつ行かれますか?」

「今日の夕方には、午後の討伐があるので、行ってくる予定ですが大丈夫ですか?」


 キルアントトレイダーのコンサルさんはおいちゃんに聞いていたのか、全く動揺することなく返事をしてきた。


「わかりました。メーベル女王様にはすぐに申請しておきますので、よろしくお願いします。」


 色々とこまごました手続きなどがあって、めんどくさいのではないかと予想していたが、思いの外、すんなりといったので拍子抜けしていた。


 そんな状態の自分の事は全く気にしない様子で、キルアントトレイダーのコンサルさんはさらに説明を続けてきた。


「あと、ポイズンバットの肉の移動報酬はどうされますか?」

「特にほしいものはないですが・・・そうだ! 調理された食べ物があるとうれしいです」


 キルアントトレイダーのコンサルさんは少し考えていた。


「そうですねぇ。この時期でしたら・・・、あっ!ありみつが入っていました。それと、焼き魚がありますがどうですか?」


 焼き魚という言葉に驚いた。


 洞窟内で川があるので、魚がいてもおかしくないが、ここに来るまでに川を除いていたが、魚らしきものは見当たらなかった。


「報酬はそれでいいです、っていうかそれがいいです。やった!さかな!さかな! あっ!ところで、コンサルさん、魚なんてどこにも見えませんでしたが、どこにいるんですか?」

「川の上流に深くなっているところがあります。そこにいますよ。以前は、何もしていなかったので、すぐそこの川にもいたのですが、トラブルのもとになっていたので、柵を作りキルアントトレイダー管理になりました」

「ちなみにどんなトラブルが起こっていたんですか?」


 キルアント同士で取り合いとかになっていたのかな?


「いえね、魚を取るには、川の中に入らないといけないくて、そうすると川が汚れてしまうんです。ちょっとそれで苦情がでましてねぇ」


 この川は、隠れ洞窟の中にある唯一の川だった。


 そりゃぁ、汚れたら苦情がでるよねぇ!

 それにしても、キルアント族は喧嘩しないよね。

 さっきの露店の店主も喧嘩になるかと思ったら、すぐに商談に変わっていたもんな。

 キルアント族は意外にやさしい種族なのかもしれない。

 まぁ、おかげで、自分もこのキルアント族に馴染むことが出来ているばかりでなく、蛇神様になっているんだからねぇ。


「それでは、今日の夕方には、ポイズパッドを届けますのでよろしくお願いします。」


「では、ありみつと焼き魚は準備しておきますので楽しみにしておいてください。 それと・・・、蛇神様にちょっとご相談があるんですが・・・。あの、今すぐにしないといけない事ではないのですが、夕方のポイズンバットの納品が終わってからでよいので、私に声をかけていただくことはできませんでしょうか?」


 何か問題が起こっているのかな、恩返し出来ることは、なんでも引き受けたいと思っていたから丁度良かった。


「構いませんよ、私にできることであれば、なんでも引き受けます」


 内容を聞いていないので、少し気になることもあったが、大きな荷物運びか何かだろうと思って軽く引き受けた。


 こうして、キルアントトレイダーのコンサルさんと約束をして、その場を離れた。

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