60 北の商業地区②
いきなりの事で少し驚いたが、ケッセイのいないところで、色々聞くのもどうかと思った。
それに、今はギィが喜んでいるから、この件はいつか聞いてみようと心にとどめておいた。
そういえば、進化では、ケッセイと会話することも多かったが、プライベートなことはほとんど知らないことに気が付いた。
まあ、もともと、内気なところもあるからなぁ。
なかなか、踏み込むのが苦手なんだよなぁ。
機会があれば・・・で、いいかな。
そんなことを考えていると、ギィはスキップのように軽く飛び跳ねながら、北の商業地区へ向かっていた。
「師匠!早く行くっすよ!」
中央広場から北の商業地区に向かう道を通るのは、初めてだった。
王宮への道や討伐の時に通る道は、キルアント兵士達の移動が多かったような気がする。
南はレッドキルアント達の居住区なので、比較的通り道にキルアント達が歩いている姿は少なかった。
その点、北への道は、荷物を抱えている姿や親子のような姿のキルアント達であふれていた。
北の商業地区は隠れ洞窟内で、唯一水を確保できる場所だから、その水の移動や食料の調達の為に集まると聞いていたけど、あまりもの多さに少しキョロキョロしていた。
荷物や水はどうやって運んでいるのか気になったので、側を通っているキルアント達を見てみた。
キルアント達が荷物を運ぶ時は、首の後ろに荷かごを置いて、それを手で押さえながら移動していた。
大きなものになると、体のサイズを超えているようなかごを背中に担いでいるキルアント達もいた。
「なあ!ギィ!キルアント達は力持ちだなあぁ」
「あのかごっすか!あれは、繭化したときの繭を利用して職人が作っているらしいっす。見た目よりも軽いっすよ」
「ギィはなんで知っているんだ!?」
「あぁ!ケッセイに教えてもらったっすよ。丁度、ケッセイが荷物を運ぶのに多すぎて困っていたんで、手伝うっていったんだけど、あのかご自体を運ぶのは、ちょっと自分には無理だったんすよね」
「どうやって手伝ったんだ!」
「簡単っすよ!ケッセイごと背中に乗せて運んだっすよ! そういえば、その後、色んなキルアントさん達から、手伝ってもらうようにお願いされたっすね! あぁ~!その時からっすね。色々と物をもらうようになったのは」
ギィはうまくキルアント族に溶け込んでいるんだなぁ。
少し見習わないといけないかもしれないなぁ。
「師匠!そろそろ入り口っすね!」
ギィの視線の先を見てみた。
商業地区というから、中に入る時には、検査のようなものがあるのかなと思ったが、そういったものはなく、自由に出入り出来ていた。
隠れ洞窟で、単一種族のみだからだろう。
トラブルとなかいんだろうなと思っていた。
「おい、お前!その荷物量で交換できると思っているのか?」
「何言ってるんだい!これは見た目より重いんだよ!しかも、最近手に入れることが出来るようになった特別な肉なんだ!わかんないくせに適当なこと言ってんなよ!」
そう思っていたとたん、すぐ側の露店で怒鳴り合いが起こっていた。
ただ、お金に関する内容ではないのはすぐに分かった。
そして、重いだの・・・軽いだの・・・多いだの・・・少ないだの・・・。
通貨ではなく、荷物運びが賃金の代わりみたいだった。
それでか!?
ギィが何もしてないのに、物をもらうようになったといっていたが、きちんと荷物運びをしたお礼だったみたいだ。
まあ、ギィも自分もキルアント達に比べるとかなり大きいから、運ぶのも簡単だろう。
時々手伝いにきて、恩返ししておこうかな!なんて考えていた。
そして、肉!というキーワードが聞こえたことに期待が膨らんだ。
これまで、食べてきたものは、緑エノキばかりだった・・・。
確かに、キルアントはチョコレート味だったが・・・。
今はもう食べることはできない。
ポイズンバットも食べることはできたが、調理されることなどない、生のままだったので、味わうというよりも栄養補給の為という感じだった。
そんな中、肉という言葉が頭から離れず、以前母さんが作ってくれたステーキを思い出していた。
台所から聞こえてくる、肉を少し焦げ目がつく位焼くことで鳴るジュウジュウといった音。
そして、しょうゆをちょいと垂らすことで香ってくる香ばしい匂い。
母さんの足跡と一緒に運ばれてきた肉を目の前にする。
そして、皿の上に盛り付けられた焼きたての肉に切れ目を入れると、肉汁がじゅわ~と流れ出し、香ばしい匂いのするしょうゆと塩コショウで整えられたソースが合わさる。
それらが合わさって、想像を超えた味となった肉、それを一口、ゆっくりと口にほおばる。
そして、後から、白い炊き立てのご飯を口の中に放り込む。
アツアツほくほくの炊き立てご飯と香ばしいしょうゆ味の肉が合わさることで、幸せなひと時を過ごせる食事の時間を思い出していた。
はっとして、妄想の世界から戻ってきて、露店の店主の方に目を向けた。
いつの間にか、隣の店主たちの、言い合いはなくなっていた。
しかも、こんどは、近くで小さな声でささやいていた。
「おい!特別な肉って、もしかして、あのポイズンバットか!?」
「そうだ、極秘だけどな!」
「でも、討伐隊はだいぶん前に解散していたはずだぞ!」
「ここだけの話だが、蛇神さまはまだ討伐を続けているらしいんだ。門番に知り合いがいて、ちょっと差し入れしてやったら教えてくれだんでね」
「半分でいいから、譲ってくれよ!こっちもめったに手に入らないありみつを入手したばかりなんだ・・・」
「ありみつ・・・・・。わかった、半分で手を打とう」
商談がまとまったようなので、声をかけてみることにした。
「ギィ!ちょっと待ってくれるか! そこで、気になる話をしているのに気が付いたんだ」
「いいっすけど・・・。どうしたんすか?師匠!」
ギィに声をかけた後、話をしていた露店の店主のところに向かった。
店主たちは自分達の商談に夢中になりすぎていた。
そのため、自分達が近づいているのに全く気が付ていいなかった。
「ちょっと聞きたいことがあるんですが・・・」
声をかけてみたが、気が付いていないので、少し声を大きくしてみた。
「ちょ!っと!いい!ですか!」
「なんだい!なんだい!今大事な話を・・・・」
店主が、少し嫌そうにこちらを向いた。
自分の姿を見た店主は、その場で固まって、声が出なくなっていた。
「あの、ちょっと聞いてもいいですか?」
・・・・・・・・・・。
「話をすることができますか?」
「あっ・・・!ひゃい! すみません。はい! あの~もしかして、蛇神様じゃないですか?」
返事をどうするか、少し迷っていたが、否定するとあとが面倒になりそうだったので認めることにした。
「まあ、そんな風に呼ばれていますが・・・」
返事をしたところ、露店の店主はしまった!という顔をしていた。
「もしかして、先ほどの話は聞こえていました・・・?」
「はい!それで、話しかけてみようと思いまして・・・」
やっぱり~!まずい~!って顔をしていた。
「大丈夫ですよ。ちょっと気になったことがあったので、聞いてみたいだけなんです」
「さっきの事を秘密にしてもらえるなら、何でも話しますよ」




