59 北の商業地区
そんなことを考えていた時に、ハルナばあ様より声をかけられた。
「師匠殿!ケッセイの毒耐性の為に、回復部隊を準備する予定じゃが、予定通りでよいのか?」
「ハルナばあ様!その予定は変更しようと思っていました。ケッセイはポイズンキャンセラーの真技を獲得していたので、進化後訓練が終了した時点で、私のポイズンファングの真技を使って毒耐性を調べようと考えています」
「そうじゃったか!回復部隊の準備は解除しておくぞ!何か他に必要なことはないじゃろうか?」
「一つ試しておきたいことがあります。準備が出来ましたら、また、ご相談させていただいてよろしいでしょうか?」
ハルナばあ様は、一瞬、面倒くさそうな顔をした気がした。
「よいぞ!準備に時間がかかるじゃろうて、いつでも王宮で待っておるぞ!」
よし、これで、メーベル女王様との謁見での内容はすべて完了した。
あ~!緊張した~!
いけない、いけない、まだメーベル女王様の前だった。
予定した内容はこれで全部だから、あいさつをして帰ることにしよう。
「メーベル女王様、私からの報告は以上になります。この後は、アリスのポイズンバット討伐が控えておりますので、この辺で失礼させていただきます」
「師匠様!本日はキルアント族にとって、誠に有意義な時間になりました。ありがとうございました」
メーベル女王様がゆっくりと頭を下げて礼をしてきた。
「そう思っていただけて、私もうれしく思います。休戦協定やアリスの修行の旅の事もありますので、これからもキルアント族とのつながりは続いていくと思います。ケッセイと共に、キルアント族を盛り上げていって下さい」
メーベル女王様が、頭を下げてきたので、慌てて返事をした。
そして、メーベル女王様は奥へと戻って行った。
自分たちも、テト隊長の誘導で、王宮の門のところまで案内され、解散となった。
ケッセイは独立遊撃部隊に関して、細かい調整があるとのことで、カルナじい様に連れていかれていた。
「ギィ! アリス! 無事に終わったな! 一時はどうなるかと心配したなぁ! それにしても、ギィお手柄だったな」
えっ何がという顔をしていたので、メーベル女王様に向けた言葉を発したときのことを説明した。
「あれっすか? あまりにもケッセイちゃんがかわいそうで、みんな難しい話をしているし、ケッセイちゃんの話のはずなのに、皆、毒の事ばっかりだったから、勢いで言ちゃったっす!」
さすがギィだ!勢いだけで、すべての逆境をひっくり返したのだ。
「私もギィちゃんが声を出したところは驚きましたのよ。ですが、ギィちゃんは、このままギィちゃんらしく変わらないでほしいですわ」
アリスも同じように考えていたみたいだった。
「アリスちゃん!私はいつでも変わらないよ!」
アリスと一緒にその通りだなとおもい、大笑いした。
今日の謁見での話を続けながら進んでいると、中央広場までやって来ていた。
「アリス!今日は進化の為のポイズンバット討伐をしないといけないな!」
「ええ!師匠!もし、よろしければ、今から行ってもよろしいですの?」
アリスは戦う気満々で、嬉しそうにしていた。
「もちろん、私も行くっすよ!」
ギィは当然という顔をしていた。
そして、そのままポイズンバット討伐を終わらせた。
夜になり、アリスが繭化の準備に入った。
「師匠!ギィちゃん!次に会うのは4日後ですわね!強くなって戻ってきますわ」
「私もアリスちゃんがいない間に、レベルアップしちゃうよ!びっくりさせちゃおうかな!ははっ!」
ギィとアリスはその後、しばらく楽しそうに会話をしていた。
※ ※ ※
次の日の朝
「ギィ!おはよう!今日はレベルアップを中止して、北の商業地区に行ってみるか?」
昨日の謁見の時に、キルアント達が話している内容に、ギィが隠れ洞窟内の色々なところで、キルアント達と交流している話題が多かったのだ。
「えっ!行くっす!でも、師匠はそういうところに行くのは興味ないと思っていたっす!」
昔、ゲームの中では、クールに振る舞うことが多かった。
そのせいもあって、今も同じように振る舞っていた。
それが、ギィには興味がないという風に思われていたようだった。
・・・商業地区があるのは知っていた。
しかし、この隠れ洞窟に来る前に、キルアント達を大量に倒していたのだ。
そのことを思い出すと、どうしても、兵士以外のキルアント達がいるところへ行くことに2の足を踏んでいたのだ。
しかし、最近は蛇神さまと呼ばれることがある。
なぜか、悪魔ではなく、神様になっているのだ。
それならば、兵士以外のキルアント達がいても、そこまで悪い雰囲気になることはないだろう。
もしもヤバそうだったら、すぐに帰ればいいだけだ。
「そんなことないぞ!商業地区といえば、その国や地域の文化や生活レベルを知ることが出来る・・・」
やばい、ギィの目が点になってきた。
「まあ!おいしいものが食べられたり、珍しいものが見れるということだよ。ははっ!」
「北地区は、おいしい食べ物や珍しいものが、いっぱいあるっすよ。なぜかわからないっすけど、自分がそこに行ったら、みんなが色々持って来てくれるんっすよ!」
キルアント族に通貨やそれに代わるものがあるのかないのかわからなかった。
しかも、自分にはまったく何もないので、ギイと一緒にいけば大丈夫だろうと少しほっとした。
「それなら、北地区に行くのは楽しみだな」
隠れ洞窟内、北の商業地区は中央広場を挟んでその北側にあった。
北の商業地区は中央広場から続く道からしか入れなかった。
なぜなら、北の商業地区はこの隠れ洞窟の中で、唯一川が流れていた場所だった。
その川は、キルアント族にとっての貴重な水分補給の元となっていたので、キルアント達の出入りも多かった。
そのため、いつの間にか、その川を挟んで両岸に露店がずらりと並ぶようになったという。
露店があまりにも多く並びすぎたため、入り口が中央広場から続く道だけになってしまったという。
「ギィ!何か準備するものがあるのか?」
「師匠!ちょっと待っていてもらっていいすか?」
ギィは準備するものがあるようで、南の居住区に走って戻って行った。
20分~30分くらい待ったところで、ギィが戻ってきた。
右腕に皮を細工して模様をつけ、赤いきれいなラインが2本入っている腕輪をしていた。
「ギィ!その腕輪はどうしたんだ? でも、その赤いラインの入った腕輪はとてもきれいだな」
「師匠!気づいてくれて、うれっしいっす。 これケッセイの恋人から、教えてもらったお店で、私に使えそうなものを選んだ中で、私の気に入った色の物っすよ!」
中学の時、同級生とのデートの際に調べた雑誌の中に、『女の子の持ち物をほめるといい』と書いてあったのを思い出した。
どんなふうに褒めるのかは忘れてしまったが、とにかく褒めてみた。
結果、ギィは、とっても嬉しそうで、にこにこしながら返事をしてきた。
・・・返事をしただけのはずだった。
ちょっと待って・・・。
今なんて言った!?
確か、ケッセイの恋人って言わなかったか!?
なんで、ギィがケッセイの恋人を知っているんだ?




