58 メーベル女王独立遊撃部隊!
「私兵ではなく、独立遊撃部隊じゃと。メーベル女王よ!その部隊の隊員はケッセイと誰にするおつもりじゃ?」
メーベル女王が何を言い出すのかと困惑した様子で、ハルナばあ様が疑問を投げかけていた。
「今のところはいません。ケッセイただ1人で始めます。ハルナばあ!逆に聞きますが、今ケッセイの毒を受け入れることが出来るものが、このキルアント族にいるでしょうか?」
メーベル女王様の投げかけた質問に対して、誰も答えることはできなかった。
確かに、今のキルアント族にケッセイがもつ毒スキルを受け入れることが出来るものはいなかった。
「メーベル女王の言うとおりじゃ。ケッセイを受け入れられるものはおりませぬ。」
ハルナばあ様が、若干弱々しくメーベル女王様の問に答えていた。
「では決まりです。ケッセイ!勅命です。あなたはこれよりメーベル女王独立遊撃部隊の部隊長です。まあ、一人ですけどね。ふふふっ」
なぜか、メーベル女王様は嬉しそうだった。
なぜなら、ケッセイは、現在の王朝を揺るがすスキルを持っていた。
しかし、会見の結果、王朝を揺るがすどころか、現王朝をさらに強固にする人材となった。
しかも、メーベル女王がその権限を最大限に利用できる。
昨夜の悩みが嘘のように、消えていったのだ。
メーベルはケッセイを脅威としか考えていなかった。
どうして私はケッセイを排除する方向ばかり考えていたのでしょう!
受け入れることを少しでも考えていればこのような苦悩はしなかったかもしれない。
・・・・・いや、やはり昨夜は受け入れることは絶対にできなかったでしょうね。
今日、ギィ様が我々キルアント族の硬く固まった意識の殻を破ってくれたからこそ、受け入れることができたに過ぎない。
私もまだまだ成長が足りないですね。
メーベルはこれまで、キルアント族の滅亡に向かう中で成長してきたため、成長する思考で物事を考えることが出来なくなっていた。
しかし、ギィの言葉でその殻を破ってくれた事がとてもうれしくて、知らず知らずのうちに微笑みが出ていたのだった。
ケッセイは、自分の周りで自分の話がどんどん進んでいったが、何が起きているのだ理解できないでいた。
自分は、自分の真技をメーベル女王様にささげたいだけだ!それが、部隊長!?しかも、女王様付き!?なんでそうなるんだ!?
あっ!でも、今勅命って言われた・・・。
返事をしないと・・・いけない。
まずい、目が回ってきた・・・。
「ケッセイちゃん!よかったね。部隊長だよ。早くメーベル女王様に返事しなくちゃ!」
ギィがそっとケッセイに声をかける。
「あっ!はい! メーベル女王様!ケッセイはまだ若く、物を知りません。ご迷惑をお掛けすることも多いかもしれませんが、どうか、どうか、よろしくお願いいたします。」
これ以上下げることはできないというくらい、ケッセイは頭を下げて、メーベル女王様の勅命を受け入れた。
「これからよろしくね。ケッセイ隊長!」
アリスに優しく声をかけたように、ケッセイにも声をかけていた。
「ケッセイさん!良かったですわね。念願のメーベル女王様の優しいお言葉をいただけましたね。」
ケッセイは進化前、常々、アリスとギィに、『進化できなくても立派な兵士になって、メーベル女王様にお褒めの言葉をいただきたいという夢がある』と語っていたのだ。
「はいっ!アリスさん!ギィさん!夢の一つがかないました。」
ケッセイは目をキラキラとさせて、アリスに返事をしていた。
ギィの心のこもった言葉で、この場のすべての問題を解決してしまうシナリオは全くなかった。
しかし、このタイミングで、メーベル女王様の気持ちを変えることが出来たことは朗報だった。
ケッセイの持つスキルの内、解毒とサーチはキルアント族がレベルアップをする為に必要な能力だった。
そして、この能力は、キルアント族が全盛期だったころの女王アリスが使用していたというものとほぼ同じ能力だった。
それゆえ、ケッセイに対しての風向きが悪いと、それは、悪いほうへの追い風となってしまうところだった。
なので、このタイミングで出すのは絶好の機会だと思った。
「メーベル女王様!ケッセイの新しい真技はこれだけではありません!」
キルアント族にとって、毒攻撃だけでも、早すぎる革新だった。
それゆえ、それ以上の真技があるとは、その場の誰も、考えることすら出来ないでいた。
「師匠様!御冗談はよしていただきたいのですが・・・。」
「いやいや、メーベル女王様!このような場で冗談など言えるはずがありません。真面目な話です。」
メーベル女王は師匠様の話しが冗談ではないことは分かっていたが、これ以上の驚きに堪え切れる自信がなかった。
「先ほどから、何度も驚かされていて、これ以上驚きに耐えられるかどうかわかりませんわ。」
メーベルは本気で言っていたが、周りのキルアント達は、冗談だと思いあちらこちらで笑顔がこぼれていた。
はじまりの時とは打って変わって、穏やかな空気に包まれていた。
この中なら、安心して伝えられると考えた。
「メーベル女王様! ケッセイの真技は後2つあります。1つ目はポイズンキャンセラーつまり解毒です。そして、2つ目はサーチつまり探知です。この2つの真技があれば、キルアント族だけで、今後レベルアップを行うことが可能になります。」
穏やかな空気が一瞬、沈黙したが、その後、いたるところでざわめき始めた。
「解毒と探知の能力で、どうしたらレベルアップを行えるというのじゃ?」
カルナじい様が理由がわからずにたずねてきた。
そして、多くのキルアント達は、うなずき同じように分からないという雰囲気を漂わせていた。
「お答えします。解毒と探知は・・・・」
「全盛期、アリス女王が使用していた真技だからですね!師匠様!」
メーベル女王様とハルナばあ様は、両方の能力の効果に気づいていたようだった。
「ハルナばあ様より、私の仮説について聞いていたのですね。」
メーベル女王様は、1度ほほ笑んで、それから話し出した。
「しかし、そのような御業を、王族でないキルアントが獲得するとは夢にもおもいませんでしたが・・・。ケッセイは今や独立遊撃部隊の隊長です。しっかりとキルアント族の未来の為に働いてもらいましょう。よろしくね!ケッセイ!」
急に、メーベル女王様より声をかけられたケッセイであったが、準備していたように答えていた。
「私の命、そして、私の真技はすべてメーベル女王様の為にあります。 よれゆえ、メーベル女王様の未来の為に、そして、キルアント族の未来の為に微力を尽くさせていただきます。」
つい先ほどまで、おどおどしたケッセイだった。
しかし、独立遊撃部隊の隊長に任命されたことにより何かが吹っ切れたのか、しっかりとした返事をしていた。
ここまで、ケッセイに対する厳しい発言や視線受け続けてきていた。
そして、メーベル女王様の理解を得て、皆に受け入れられることが出来た。
そのことが、ケッセイを急成長させることにつながったのだろう。
中学校の時の学校の先生が言っていた。
『状況が、人を変える。自分の状況を変えたかったら、一歩踏み出してみて下さい。踏み出すのが怖ければ、踏み出した結果、そこにある自分の立場を想像して、その立場で動いてみて下さい。』そう言っていたのを思い出した。
人であれ、モンスターであれ、集まれば関係が生まれる。
自分が関わって、周りの者たちが変わっていくのを見ていると、目頭が熱くなった。




