57 ギィがケッセイを救う!?
まずい、ケッセイを取り囲む空気の温度が急激に下がってきているように感じた!
ケッセイの持つ毒は、これからのキルアント族にとって、効果的な攻撃力になっていくと思っていた。
しかし、キルアント族にとって、毒の持つ意味はアレルギーのようなものだった。
その為、毒をどう使うかよりも、毒は排除すべきという空気が流れ始めた。
「毒を持つキルアントちゅぅのは、果たして、キルアント族にとってどういう結果をもたらすのじゃろうかのぅ!」
カルナじい様も毒をもつキルアントに対して、不安感を表し始めた。
毒に対する不安から、いつの間にか、ケッセイに対する不安に変わってきつつあった。
この空気を換えないといけない。
何か・・・何かこの凍り付いた不安を・・・毒に対するアレルギーを・・・。
「皆、落ち着くのじゃ! 」
メーベル女王様が声を上げた。
一瞬の間に静寂が訪れた。
「ケッセイの進化により、毒耐性を持つ点は非常に有益と考えられた。しかし、キルアント族にとって、毒を持つということは受け入れられないように思われる。皆、そうは思わんか!」
ケッセイはこの空気の中、先ほどからしゃがみこんでいた。
そして、メーベル女王様の言葉に頭を上げることすらできないようになっていた。
・・・それは、ケッセイの中では、死を意味していたのかもしれない。
キルアント族のおきての中での、メーベル女王様の否定的な言葉の重みを感じていた。
もうこれ以上、キルアント族にケッセイをなじませるのは無理かもしれないと思った。
昨日考えていたシナリオの中で、必要なら自分の旅にケッセイを連れ出すように考えていた。
この状態が続くことは、ケッセイにもつらいだろうと思い、メーベル女王様にそれを伝えるしかない。
そして、その沈黙を破るように声を上げた。
「メーベル女王様!ケッセイちゃんはいい子だよ!!」
ギィだった。
ケッセイの沈み込んでいるその姿に我慢が出来なくなっていたのだ。
その場にいた全員が、メーベル女王様自身でさえも、ギィに注目した。
「メーベル女王様!キルアント族に毒がどう映るかは私にはわかりません。しかし、毒ではなくケッセイを見て下さい。」
その言葉に、ケッセイは顔を上げた。
大きく見開いた目でギィを見ていた。
「ケッセイは女王様が大好きです。いつも、女王様のことをほめています。そんな女王様からそんな風に・・・・。」
ギィは自分で話しながら、感情があふれて、涙が止まらなかった。
「そんな風に言われたら、かわいそうです! アリスちゃんに優しくするように、ケッセイにも優しくしてください!」
広間全体にギィの言葉が響き渡った。
そして、その言葉が次の言葉を引っ張り起こすようにして声が上がった。
「どうじゃ!メーベル女王よ!キルアント族にとって毒は受け入れ難いものかもしれん。じゃが、ギィ殿も言うちょるように、ケッセイ自身を見るんはどうじゃろうか。気立てのいい、女王思いの若い兵士じゃ。それに、ポイズンバット討伐に参加出来る力もある。毒に関してはゆっくりと受け入れていけばよいじゃろう。」
ケッセイを後押しするように声を上げたのは、ハルナばあ様だった。
「さすがは、ハルナばあ様よのぉ!よいことをおっしゃるわい!」
この空気を作ってしまった事をどうしたらいいか困っていたチタさんが真っ先に乗っかってきた。
周囲の皆が、メーベル女王様を注目した。
「わかりました、ハルナばあ様。 では、聞きます。 ケッセイ! あなたは進化によってもたらされた真技に対して、どう考えているのですか? 私、女王メーベルに教えていただけますか?」
メーベル女王様が放つ緊張感は、先ほどと変わらないが、ハルナばあ様のおかげで、ケッセイの言葉を伝える機会が得られた。
ケッセイはメーベル女王様から直接話をするように言われて、体がガチガチと震えていた。
しかし、この機会を逃してはいけないと、精一杯気持ちを奮い立たせて答えることにした。
「は・・・はい!え・・えとっ!今回の真技です。いや、進化によって獲得できた真技・・・・・・・・・」
ケッセイは緊張しすぎて自分が何を話しているのかわからなくなったので、一度話をするのをやめて、深呼吸をして気持ちを落ち着かせた。
す~~~。は~~~~~~。
「メーベル女王様!先ほどは失礼いたしました。お許しください。では質問に答えさせていただきます。 私はこの度のポイズンバット討伐の際、失態を犯してしまいポイズンバットの毒を受けてしまいました。その結果、討伐部隊に多きな被害を与えてしまうところでした。しかし、師匠様の口添えもありましたが、メーベル女王様!の寛大なお心により、死罪を免れることになりました。」
「その件に関しては第1近衛のチエから話は聞いております。しかし、それが真技と何の関係があるのですか?」
「かなり緊張していまして、うまく話しがまとまらずに申し訳ありません。 とにかく私はメーベル女王様に感謝を伝えたいのです。それも、私の命をささげても足りないくらいの感謝です。」
弱々しく、うつむき加減で話をしていたケッセイは、どうしても感謝の気持ちを伝えたいと思いメーベル女王様をしっかりと見つめて答えた。
そして、話を続けた。
「私はメーベル女王様の兵士です。兵士が忠誠を誓うのは当然です。では、どうすれば私の感謝の気持ちをメーベル女王様に受け取っていただけるかをずっと考えてきました。そして、偶然、私は特別な進化を得ることが出来ました。この進化から獲得した真技をささげることこそがメーベル女王様の恩赦に報いることができると考えたのです。」
ケッセイは乾いた口の中を一度潤すように口を閉じた。
そして、もう一度メーベル女王様を見つめると、力強く答えた。
「メーベル女王様! 私のこの命!そして、この真技!すべてを受け取っていただけないでしょうか?」
ケッセイのまなざしの強さに、メーベルは心音が一瞬高鳴るのを感じた。
この若い兵士から放つ、強い威圧のようなもの・・・違う! 強い熱意!?のようなものだろうか。
そして、その視線に悪意はみじんも感じなかった。
メーベルは気持ちが一瞬軽くなった気がした。
張りつめていた気持ちが・・・ケッセイの王族を超える能力に対する不安がゆっくりと、雪解けの川がその小さな流れによって、少しづつ雪を溶かしていくように、メーベルの不安を溶かしていった。
「ケッセイ!あなたのその忠誠心、いや、あなたのその心を受け入れましょう。」
そう言って、にっこりとほほ笑んだ。
今回の謁見の始まりから、メーベル女王様のまとっていた威圧ともとれる雰囲気に違和感を感じていたが、メーベル女王様のほほえみでその場の空気が一瞬にして暖かいものに変わっていった。
ギィはこの中の誰も変えることのできなかったメーベル女王様の気持ちを柔らかく動かした。
さすがはギィだな!後で、褒めておかないといけないと考えていた。
メーベル女王様は、穏やかな表情をもって、話を続けた。
「カルナじい様!ハルナばあ様!ケッセイに新しい部隊を作り、その部隊長に任命して下さい。そして所属はキルアント族女王管理とする。」
「お待ちくだされ!メーベル女王様!」
慌てて、ハルナばあ様が意見を挟んできた。
「ケッセイを私兵にするとおっしゃるか?」
「私兵ではなく、キルアント族王女管理とします。さらに、ケッセイの部隊は王女の独立遊撃部隊とします。」
いきなり部隊を創設しただけでなく、それを王女管理にするといわれ、近衛達はざわめきだった。




