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56 毒を持つケッセイは・・・敵!?

 

 第1近衛であるバレットキルアント3名のチエさん、チタさん、チヌさんの出迎えのあいさつの後に、いかめしい顔の2名が待っていた。


「待っておったぞ!師匠殿。 この5日間が待ち遠しくてならんじゃったわい!」


 カルナじい様は待っている時とは変わって、嬉しそうに声をかけてきた。


「師匠殿!ケッセイの真技はうまくいったんじゃろうか?」


 ハルナばあ様はケッセイの繭化したときのような無邪気さは全くなく、気になっていた結果の確認をしてきた。


 もしかすると、あの時のことを思い出して、少し恥ずかしかったのだろうか。


「師匠殿!今何か変なこと考えておったじゃろうがっ!」


 相変わらず、心を読んでくるばあ様だな・・・。


「まあいいわい!メーベル女王がお待ちじゃ!よろしくたのんでおくぞ!」


 第1近衛の皆の様子を、穏やかな様子でメーベル女王様は眺めていた。


 優しさの中に、若干ではあるが厳しさが残る笑顔で笑っていた。


 メーベル女王様ってこんな感じだったかな・・・。


 少し以前と違うような気がしたが、そんなにいつも会うわけではないから気のせいだろうと考えた。



「本日は、わざわざお越しいただき、ありがとうございます。」



「・・・はい!今日はケッセイとアリスに関して報告をいたしますので、どうかよろしくお願いいたします。」



 声は丁寧だが、やはり違う気がした。


 女王の雰囲気にのまれそうになり、返事を忘れそうだったので慌てて準備しておいた答えをした。



「そういえば、アリスもレッドキルアントへの進化がうまくいったのでしたね。おめでとうございます!」



「メーベル女王様ありがとう存じます。そして、昨日、次の進化の印が出ましたの、とても喜ばしい事ですので合わせて報告させて頂きますわ。」



 メーベル女王様は、連続して進化することになると報告したアリスの言葉に少し驚いていた。


 アリスの言葉を聴いている女王は、以前の女王のような雰囲気に戻っていた。


 やはり、気のせいだったのだろうか。



「レベルアップとは・・・!? この短期間で2度の進化をするということですか?」



 普段、穏やかな雰囲気に包まれているメーベル女王様が少し取り乱したように驚かれた。


 その様子を、周りにいたキルアント達すべてが見つめていた。



「皆、見苦しい姿を見せて驚かせましたが、もう大丈夫です。 古来より進化に関する我々の常識では、進化にかかる期間は数年単位で考えられてきました。そのため、あまりにも早いスピードで進化してることに、気持ちが付いていけなかっただけです。」



 日々の訓練と進化適正の高いキルアントのみが進化できるということがどれほど狭き門であったかを、メーベル女王様の様子を見ることで想像できた。



「メーベル女王様!本日報告すべき内容の1つであるアリスの事は、本人の口より報告されました。 ・・・が、少し追加しておきたいと思います。アリス本人は2度目の進化の事を軽く話していますが、2度目の進化の為のポイズンバット討伐は、かなり苦しかったようです。進化後の体になかなか慣れないうえ、1度でも、毒を受けると命を失う可能性がある緊張感の中、よく戦っていました。」



 アリスを見ると恥ずかしそうに下を向いていた。



「アリス!あなたには、次期女王としての責任をかなり押し付けているように思います。今は女王ではなく、母としてその頑張りを評価したいと思います。アリス!よく頑張っているね。ありがとう。」



 アリスは思いがけないメーベル女王様の言葉を聴いて、体が固まっていた。


 そして、唯一動いている大きな瞳から、大粒の涙を幾度も幾度も流していた。



「・・・メーベル女王様・・・ いえ、お母さま・・・ ありが・・・ありがとうございます・・・。」



 アリスは皆の前で、泣き崩れるのが恥ずかしかったのか、自分の側で寄り添うようにして皆の視線を避けるようにしていた。


 ギィは、そのアリスの気恥ずかしさを察知して、ゆっくりと近づいて来ていた。


 ギィとアリスは目を合わすと、うなずき合っていた。


 自分とギィの間でアリスを皆から隠すように寄り添っていた。


 ケッセイは、ギィに押されるがまま進んでいった。


 そして、アリスの前に押し出されるように座る配置となった。



「メーベル女王様! アリスがこのような状態です。 丁度、ケッセイの報告もありますので、このままよろしいでしょうか。」



 ケッセイの名を上げた瞬間、周囲のキルアント達から、音が奪われたかのようにいきなり沈黙がはしった。


 その凍り付いた空間を溶かしたのは、ハルナばあ様の言葉だった。



「師匠様、ケッセイの進化後の状態のことじゃな。 皆、静かに聞くんじゃぞ!」



「まずは、ケッセイのレベルアップに関する話からです。ケッセイが進化するためには、多量のレベルアップが必要でした。その量はといえば、キルアントがレッドキルアントの進化をとばして、バレットアントになれるくらいの量のレベルアップでした。」


 周りの動揺が見て取れた。


 毒を受けて生き延びたキルアントがいたとしても、進化するために必要な経験値の量が多すぎて進化できなくなると考えられていた理由だった。



「じゃとすると、師匠殿、これまで毒を受けたキルアントは進化できぬ体になると思われとったんじゃが、そうじゃなかったということじゃろうか!」



「はい、その通りです。しかし、これまでのキルアント族の進化の方法であれば、そう思われても仕方ないと思います。」



 周囲のキルアント達がざわめきだした。


 今まで信じてきた決まり事が違うということが判明したのだ。


 古いキルアント達はなおさらであった。



「それは本当じゃろうか? 勘違いとかではないのじゃろうか?」



 カルナじい様が弱々しくたずねてきた。



「間違いないとは思いますが、現在は例外がケッセイだけしかいないので、間違いの可能性はゼロではないですが、限りなくゼロに近いと思われます。」



「わかった・・・。」



「それでは、次ですが、体の特徴として、色はバレットアント同じ赤紫色です。しかし、背中に緑色のラインが入っています。」



 ケッセイに背中のラインをメーベル女王様に見てもらった。


 女王様は確認すると一度うなずいた。


 それだけだった。


 明らかに、アリスの時とは様子が違っていた。



「それでは、皆さまも気になっていると思われます。真技についての報告に移ります。」



 真技という言葉に、キルアント達の目がこちらに集中した。


 やはりキルアント達にとってきなる言葉だったようだ。



「基本のスキルは、おそらく、バレットアントと同じ真技になると思います。状態異常系ではパラライズニードル、麻痺弾です。防御系としては、鋼外殻になります。」



「もったいぶらずもんじゃないぞ、毒関連の真技をはよ話すんじゃ!」



 ハルナばあ様が待ちきれない様子で声をかけてきた。



「はい!すみません。では、毒関連の真技です。まずは毒耐性は現在まだ確認できておりません。しかし、私の経験上毒耐性を持つのはほぼ確実だと思います。検証は後日行いますので、よろしくお願いします。」



「うぬ、その件はハルナばあより聞いておる。任せておけ!」



 メーベル女王様は事前にハルナばあ様に聞いていたようだった。



「次は攻撃に関する真技です。・・・皆さん、驚かないでください。・・・ポイズンファングです。」



「おい!それは毒攻撃が出来るということかのぉ!それは、また、大層な攻撃手段を持ったもんだのぉ!・・・しかし、その真技やばくねぇか?」



 チタさんが聞いた瞬間に驚いて声を上げた。


 チタさんに続くように、キルアント達から次々と声が上がってきた。



「毒攻撃っていったか?」

「ポイズンファングっていうから、牙の真技だろぉ!」

「ところでなんでその真技がやばいんだ!!」



「キルアント族でありながら、毒攻撃を持つのは、本当に危険ですね。というか異質といってもいいのではないでしょうか!?」



 チエさんまでも、ケッセイの真技に関して不穏な空気を漂わせていた。



「毒攻撃は、自分が食らっても危険かもしれないねぇ!こりゃぁ、ケッセイと戦うのは控えた方がいいかもしれないねぇ!」



 バトルジャンキーなチヌさんですら、ケッセイのポイズンファングに控え目な意見を述べていた。





 キルアント族にとって、最大の敵である毒、それを持つケッセイは・・・・・・敵!!!?


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