54 メーベル女王様とケッセイ それぞれの謁見前夜
今日はメーベル女王様へ謁見する日だ。
昨日のラージバット戦に疲れてすぐに休んだが、思いの他早く目が覚めた。
ケッセイのスキルの危険性に、キルアント族の対応がどうなるか心配だった。
いざという時は、自分がその責任を負わないといけないかもしれない。
自分の中で、問題の起きないシナリオから最悪のシナリオまで、10数通りのシナリオが出来ていた。
「いけない・・・。 考えすぎだ!ケッセイのスキルはキルアント族にとっての未来だ!それは間違いない。」
自分に納得する未来を言い聞かせ続けた。
そして、最悪のシナリオは心にしまっていた・・・。
少し頭を冷やそうと、ケッセイのいる繭のところまで歩いていると、ケッセイは繭の横に座っていた。
付近にキルアント達の姿はなく、静寂に包まれていた。
しかし、幾分冷たい夜風が流れていくのをゆっくりと感じることが出来た。
「ケッセイ!早いな。 眠れないのか?」
「あっ!おはようございます。師匠様。 メーベル女王様にお会いすると思うと眠れなくて・・・。」
キルアント族では普通の兵士が女王様に会うことなんて、普通はないんだろうなぁ。
まあ、人間世界でも普通の国民が、その国の代表者に会うことなんて何か賞をもたった時くらいだろうからなぁ。
あっ!そういえば、進化の印の時に、ケッセイはメーベル女王様にあっているか。
しかし、今回は直々に呼ばれているから、意味合いが違うだろうな。
ケッセイの気持ちを感じながら、一つだけ確認したいことがあった。
「ケッセイ自身は今回の進化をどう考えているのだろうか? 教えてもらってもいいか?」
「はい!大丈夫です。師匠様はお時間大丈夫ですか?」
「早く起きすぎて、時間も余っているから大丈夫だぞ。」
ケッセイには色々思うことがあって、長くなるんだろうか・・・。
「本来、私は大きなミスを犯したため、生きてはいない存在でした。しかし、師匠様のお口添えで、生き永らえただけでなく、このような特別な真技を得る機会を与えて下さり、まずはお礼を言わせてください。本当にありがとうございました。」
ケッセイは足を折って、深々と頭を下げて礼を述べた。
「昨夜、眠れなかったのは、メーベル女王との謁見があるからだけではありません。 正直なことを言うと、今回獲得した真技がどの程度重要なのか・・・。いや、もちろん大変重要な真技であるとは思いますが、その重要度が、私にはまったくわからないのです。申し訳ありません。」
ケッセイはまじめで、礼儀正しく、恩にあついキルアントだった。
今更ながら、自分の想像に難くないキルアントでよかったと思った。
そして、湧き上がる喜びが込みあがってきた。
「ケッセイもう一つ質問してもいいか?」
「真技については、これ以上わかりませんが・・・。」
ケッセイは何を聞かれるのか少し不安な表情を見せていた。
自分は表情を改め、質問に力を込めた。
自分の気持ちに応えるように、ケッセイは質問への答えに命を懸けるべきだとそう考えていた。
「ケッセイ!今回獲得した真技を、お前はどのように扱って行こうと考えているか真剣に考えて、それを教えてほしい。」
ケッセイはしばらく沈黙を続けていた。
自分が発する言葉に命を懸けようとしているようだった。
「・・・私は、メーベル女王様の忠実なる壱兵士にすぎません。私の真技の扱いに関しては、すべての権利を女王様に委ねます。」
一度、深く深呼吸をして話を続けた。
「もし仮に、この真技を使って、メーベル女王様に弓引く行為をさせられるとしたら・・・。 私は、まよわず死を選びます。そして、その結果私の家族へ死が及んだとしても、私の決意は変わりません。」
ケッセイは、心の言葉を吐き出した後に、体中の緊張を緩めるかのように、ゆっくりと息を吐きだした。
「ケッセイ!お前の心は自分の心に刻まれた。嘘偽りのない言葉として受け止める。」
ケッセイの忠誠心に心が震えた。
「ありがとうございます。師匠様。」
ケッセイは返事をすると、何か心の枷が一つ外れたかのような表情をして、その場で目をつむり静かになった。
ケッセイ!お前なら何があっても、大丈夫だろう。
ケッセイと同じように、自分の中にあった心配の一つが、ゆっくりと解決していくような穏やかな気持ちになった。
そして、自分も南の居住区の自分の場所へ戻り、朝になるまで気持ちを休めることが出来た。
※ ※ ※
黄色い常緑花で作られた王宮の、一番奥の部屋の寝室で横になっていたが、どうしても眠れないキルアントがいた。
外から入ってくる風は、幾分冷たく、考えのまとまらない自分にとっては心地よくもあった。
第1近衛であるバレットキルアントのハルナばあから、話を聞いて明日が5日目となる。
特殊進化をしたケッセイと面会をする予定だった。
本日、同じく第1近衛であるバレットキルアントのチエから報告があった。
ケッセイが無事に進化完了したという内容だった。
「ケッセイの進化は失敗すればよかったのに・・・・・・。」
メーベルは一言、つぶやいた。
「だめだわ・・・。キルアント族にとって、ケッセイの進化は種族の進化につながるのに、そんなことを考えてしまってはいけない。」
ゆっくりと起き上がって、外の風にあたりに行く。
メーベルの希望・・・。
しかし、女王としては間違った言葉だった。
自分自身でその言葉を訂正する。
キルアント族はもともと、上位進化種族が部族を治めてきた。
つまり現在の王族であった。
アリス女王の時代までは、レベルアップという進化する方法があった。
ラクーン洞窟の地下1階毒エリア、ここでレベルアップするためには、解毒の魔法が必須だった。
そして、宝玉である千年真珠を持つ女王は、その解毒の範囲魔法をかけることが出来たので、種族をレベルアップさせていった。
しかし、どこからやってきたのかはわからないが、3匹のグレートリザード達にキルアント族が蹂躙されることとなった。
当時、キルアント族は、アリス女王率いる近衛部隊、第1近衛ラージキルアント30名、第2近衛バレットキルアント70名、第3近衛バレットアント200名、そして、キルアント3000名という一大勢力だった。
3匹のグレートリザードとキルアント族の戦いは熾烈を極めたものだったという。
3日3晩戦いが続き、第1近衛と第2近衛は全滅、そして、アリス女王の命を懸けた魔法により、グレートリザード2匹を葬ることが出来た。
残った1匹のグレートリザードも瀕死の重傷だった為、ラクーン洞窟の地下に逃げていった。
残ったキルアント族近衛は、バレットアント50名ほどだった。
そして、その中に残っていた王族が進化を遂げていたが、世代が上がるごとに上位進化できる王族も減ってきた。
そして、アリス女王以後、キルアント族の最終進化であるクイーンキルアントに進化できた王族はいなかった。
レベルアップと千年真珠これは、キルアント族の繁栄にとってなくてはならないものだったが、現在は失われている。
生き残ったグレートリザードが、千年真珠を取り込んでいるといわれているが、グレートリザードにかなうものはいない・・・。
メーベル女王ですら、圧倒的な戦力差があった為、取り返すことは不可能であった。
そして現在、王族は、メーベル女王とアリス姫のみだった。
そのため、キルアント族にとって、現在の王族が王族たる地位にいられる最後の世代だとメーベルは考えていたのだ。
そんな中、突如現れた3つ目の大型スネークに、アリス姫がさらわれ、多くのレッドキルアントとキルアント達が倒される事態なった。
アリスがさらわれたと報告を受けた時のメーベル女王は、最後の王位継承の可能性を完全に断たれた事にありえないほど苦悩した。
しかし、奇跡的にも3つ目の大型スネークとともに、アリス姫が戻ってきた。
最後の王位継承が戻ってきたことに対して、どれほど喜んだかわからなかった。
そして、レベルアップが、3つ目の大型スネークによってもたらされた。
アリス姫のレベルアップの修行に協力の要請も受け入れてくれた。
奇跡の連続だった。
しかし、・・・・・。
ケッセイが現れた。




