48 アリスの心の成長
「そして、私が連れて行かれた場所にいたのは、まだ若きリザードでしたの。あのような若きリザードなら、私の中にあった、キルアント族の無念にたいして、私の訓練してきた技で、一矢報いるチャンスがあると考えましたの。しかし、彼女には、技はなくても、その能力で私を圧倒していました。・・・・絶望を感じさせられる連続でしたわ。」
ギィの事を話しているアリスは、辛い話であるはずなのに、アリスの好きなありみつの事を話しているようだった。
「若きリザードに、やぶれ、自分の命が消えていくなかで、無念のまま、何も報いることができなかった失望という感覚で心もつぶれてしまいそうな時、考えられないことが起こったの。それは、若きリザードが慌てて持ってきた『緑エノキ』を食べろと何度も訴えてきたのですわ。」
アリスは、ギィに向かってにっこりと笑顔を向けた。
「私の奇跡は、ここから始まりましたの。そして、あの日食べた『緑エノキ』の味は、生涯忘れることはできませんわ。私は、生かされました。そして、生かされただけでなく、アリスという名前までもいただきましたの。そして、今日、バレットアントへの進化を迎えますわ。」
「アリス・・・。」
「アリスちゃん・・・・。」
「師匠!ギィちゃん!最後まで、何も言わずに聞いてくれてありがとう存じます。しかし、私の師匠とギィちゃんに対する負の感情をここまで、赤裸々に伝えてしまうと、せっかく仲間として考えてくれている師匠とギィちゃんから、縁を切られても仕方ないと思っていますの・・・・・。」
力を出し尽くしたように、震えていた。
「・・・・・それだけでなく、怖さもありますわ・・・・。」
アリスの憎しみは、自分がグレートリザードに向ける憎しみと同じ類のものだろう。
しかし、アリスは目の前で、仲間を倒されている。
そして、その倒した相手こそが自分であった。
アリスは今どんな気持ちだろう。
自分は、目の前で震えているアリスにどのような言葉をかけることが出来るのだろう。
沈黙が流れた。
アリスの重い告白に、ギィすらも言葉を発することが出来なくなっていた。
アリスの望みはなんだろう。自分を倒して、仲間の仇を打つことか?
いや、ちがう。
仲間の死を犠牲にしてでも、これからのキルアント族の長としての、使命を果たしていく覚悟を伝えること!?
それを、自分とギィに向けて伝えたいのだろうか。
いや、そうではない。
アリス自身がその覚悟を決めるために、その決意の為に話してくれたのかもしれない。
「アリス!俺を倒して、仲間の仇を打つか?」
ギィは自分の方を驚いた顔で向けた後、アリスの返事を待った。
「それとも、我らと共に、キルアント族の未来に力を尽くすか?」
アリスは、自分のその言葉を待っていたかのように、にっこりとほほ笑んだ。
「私は、師匠に忠誠を誓い、あなたの言葉に従いますと約束していますわ。・・・ですから、師匠とギィちゃんと共に、キルアント族の未来の為に力を尽くします。・・・そして、師匠とギィちゃんとの橋渡しの犠牲となった、訓練の時のキルアントやレッドキルアントの隊長たちの事は心に刻み込んで、生きてゆきます。」
「アリスちゃん・・・。」
ギィはほっとした様子で、ようやくアりすの名を呼ぶことが出来ていた。
「私の気持ちを、師匠とギィちゃんに話して、良かったですわ。過去を忘れることはできませんが、過去にとらわれることなく、未来を見て進んでいけますことよ。」
アリスは、涙をぬぐい、頭を上げ、自分とギィに向けて、ゆっくりをおじぎをした。
そこでのおじぎは単なる礼ではなく、女王としての、品格を備えた礼をしているように見えた。
アリスの心の成長を感じた瞬間であった
「師匠!ケッセイが動き出したっす。」
アリスの話が終わるのを待っていたかのように、ケッセイの繭が動き始めた。
ガサガサ!パキッ!パキッ!ガサッ・・・・・・。
繭の右端から、少しづつ音が聞こえてきた。そして、その音が次第に大きくなった。
ドンッ!ドンッ!
繭の真ん中が音に会わせて、膨らんでいた。おそらくケッセイが、中から繭を破ろうとしているのだろう。
ギリィィィィィ!バリバリ!
「あっ師匠!足が出てきたっすね!」
繭から、足が出た後、空いた穴を押し広げるようにして、ケッセイが出てきた。
「おはようございます、皆さん。無事に進化完了です。」
綺麗な赤紫色をしていた。繭から出てきた直後の為、薄い膜で覆われた赤い皮膚のよう見見えた。
しかし、同じ赤紫色のバレットアントと同じ色、そして、同じ形に見えた。
「ケッセイさん、キルアントからバレットアントになったようですわね。普通の進化ではないようですが、特に他のバレットアントと変わりなく見えますが・・・・・。」
ケッセイは、体の半分がまだ繭の中に入ったままでしたが、アリスのその言葉を耳にした瞬間、失望の表情となり、下を向いて力が抜けたようにしゃがみこんでしまった。
「違うぞアリス!よく見てみろ。ケッセイの背中だ!ラインが入っているぞ、1本、2本、そして3本、全部で3本の緑のラインが、はっきりと縦に伸びているぞ。」
「本当ですわ、背中が繭の中に入っていたので、気が付きませんでしたわ。キルアント族に新しい種族の誕生ですわ。おめでとうございます。ケッセイさん!」
「ケッセイちゃん、おめでとう!本当によかったね!」
アリスもギィも喜びをあらわにしていた。ギィは喜びのあまり、ギィダンスでもてなしたほどだった。
自分の進化を喜んでもらったケッセイは、ギィとアリスに何度も頭を下げていた。
「はははっ!お前たち喜びすぎだろう!」
あまりにも喜びすぎていたので、声をかけにくかったが、今日一日で、行わないといけない事も多岐にわたるので、さえぎらせてもらった。
「ケッセイ色々と確認しておきたいこともあるので、こちらに来てもらえるか?」
「はい!わかりました。師匠様。足取りに力が入りにくくて、少しフラフラしますが、ゆっくろそちらに参ります。」
薄くなった赤紫の表皮に、ヒカリゴケの光が反射して、まるで宝石のように光が輝いていた。そこに、緑色のラインが混ざるように輝き神秘的な色に見えた。
自分、ギィ、アリスの3名の前に、やってきたケッセイをしばらく眺めていた。
「キルアント達の進化直後は、本当に綺麗だな。アリスの進化直後を思い出すよ。すまないが、感動がこみ上げるのもここまでだ。いいかケッセイ?」
「はい、もう大丈夫です。激しい動きでなければ、何とかなります。」
まずは、スキルについて確認したいと思った。しかし、ステータスを見ることが出来るわけではないので、スキルを確認するためにはどうしたらいいんだろう。
「そしたら、スキルを確認したいんだが、キルアント達はどうするんだ?」
「スキル?スキルって何ですか?」
ケッセイが、目をキョトンとさせて聞いてきた。
「魔法!もしくは、魔力を使用した技!もしくはMPを使用した能力みたいなものだ。そうだ、キルアント族は、パラライズニードルや鋼外殻を使うだろ。それだ!」
予想外の質問を受けて、説明に迷ってしまった。
しかし、ケッセイにはそれで通じたようだった。
「はい、わかりました。『真技』のことですね。」
キルアント族は、スキルの事を『真技』と呼ぶのか。
「では、ケッセイ、今使える真技は、何があるかわかるのか?」
「はい、わかりますが、通常、真技はあまり、他者には話さないものですので、その点をご理解ください。」
まあ、自分のスキルをべらべらと、話すのは自分の弱点を話すのと同じだからな。
ケッセイの場合は、色々と特殊な点が多いから仕方ないということだな。
「その点は、理解している大丈夫だ。」
ケッセイに返事をした。
すると、ケッセイは目を閉じて、何かを考えだした。
目を閉じて考えると、スキルの名前がわかるのだろうか。
自分と違って、ステータスが見れるわけではないし、メッセージさんがいるわけでもないので、頭か心に浮かんでくるのだろうと想像した。
「師匠様!今使用できる真技がわかりました。それでは、順番に上げていきます。」




