47 アリスの心の闇
今朝もいつも通りにポイズンバット討伐に向かった。
しかし、今日はケッセイがいないため、ギィとアリスと自分だけでの討伐となった。暗闇洞窟までの道のりをギィとアリスの後ろをゆっくりと進んでいた。
ケッセイのいない暗闇洞窟までの道のり、今日はヒガリゴケの輝きが一段ときれいに見えた。少しづつ近づいてくる洞窟がいつもより小さく、そしてはっきりと見えた。
ケッセイの進化がうまくいったことで不安が一つ解消されたせいか、いつもより周りがよく見えているようだった。
ギィもアリスも調子は良さそうだ。いつもと変わらず色々と会話している。
本当に会話が尽きないんだな。
いったい何をどうすればそんなに会話が弾むのかはよくわからない。
でも、まあ楽しそうなのは何よりだ。
「ギィ、アリス、調子は・・・良さそうだな。それよりも、今日はケッセイいないから回ってくる攻撃ターンのペースは速いが大丈夫か?」
「私は大丈夫っすけど、まだ進化直後のアリスちゃんが持たないかもしれないっす」
「そうですわね。今日はギィちゃんのサポートとしての立場で動こうと思いますわ。今まで通りに、連続で攻撃するのは厳しいようですわ」
ギィもアリスもお互いの事がよくわかっているな。
まあ、無理をしないのが一番大事だしな。
それに、パーティが協力し合うのも当然だ。
それが分かってきているのは嬉しく思うなぁ。
「わかった4ターン毎のポイズンバットは自分が倒すことにする。いいか?」
「はい、師匠。4ターン毎ですわね」
暗闇洞窟に入る前は色々と心配していたが、いざポイズンバット討伐が始まるといつもと変わらない攻撃が繰り広げられていた。
これじゃあギィもアリスもベテランといっても問題ないじゃないか?
はじまる前の心配は何だったんだよぉ。
こうして、ポイズンバット達が、右に詰めても、左に詰めても、高低差を利用しても、いつも通り即座に対応していた。
ケッセイが繭化でいなくてもポイズンバット討伐は順調に進んでいった。
※ ※ ※
そして、3日が過ぎた。
今朝は、ケッセイの繭化が終了して進化する日だ。
念の為、少し早めにケッセイの前にやってきた。すでにギィもアリスも到着して待っていた。
「誰か来ますわっ!」
アリスが中央広場からキルアントがやってきているのに気が付いた。
何だか、少し嫌な感じがする・・・・・・。
それに背筋にわずかな寒気を感じた。
「おはようございます。師匠様ぁあ!ケッセイの進化が待てなくて来ちゃいましたぁあ!」
澄んだ紫色に変化していた第2近衛のチエさんだった。
「チエさん、きれ~っすね!紫色、私と同じっすね!」
ギィは自分の紫色のラインを、チエさんに見せて喜んでいた。
「チエさん、無事に進化できましたね!紫色のチエさんも素敵ですね。ところで、明日、王宮にケッセイを連れて謁見する予定になっていたんですが・・・なぜチエさんはここにいるのですか?」
進化をほめると目がキラキラして明るい表情をみせていた。
しかし、なぜ今日とってつけたような理由でここにやってきたのかを質問すると、気分が一気に急降下するように下を向いてしまった。
表情が忙しいチエさんだった。
「すみません・・・明日来るのは知っていたのですが・・・その・・・ケッセイの進化が気になって・・・・。あの・・・それだでではなくて・・・師匠様にも・・・その、あいたくて・・・」
後半の部分は少し聞き取りにくくなっていたが気にしないことにした。
詳しく聞いてしまうと、背筋の寒さが悪化しそうな気がした・・・。
「チエさん、せっかく来てくれたので聞きたいことがあるのですが?」
「はい!師匠様!なんでしょう?」
うゎぁ・・変わり身!はやっ!
「キルアント族の進化は順調でしたか?そらから、例えば、特殊な進化をしたものがいたとかはなかったのですか?」
「キルンアント族は全員通常進化でした。しかし、我々第2近衛は進化でバレットキルアントになったことでカルナじい様やハルナばあ様と同格の第1近衛に格上げとなりました。第2近衛は新たに進化したバレットアント達30名となり、王宮近衛が一気に充実しました。メーベル女王様もたいそうお喜びでしたよ」
ポイズンバット討伐でどんなに経験値をつんでも通常のレベルアップでは通常進化になるということか。
ケッセイのように、何らかの外的要因があって初めて、あらたな進化の過程が枝分かれするということになるんだな。
「チエさん、気になっていた情報を教えてくれてありがとうございます。ご存じの通り、ケッセイの繭化はもうすぐです。おそらく、明日には色々と報告できることもあるかと思いますので、ぜひとも王宮で楽しみにされてください。特に、第1近衛に昇進されたということは色々と忙しいでしょうからすぐに戻られていいですよ」
「い、いや、そんな・・・慌てなくても、もっ、もう少し位ここにいても大丈夫ですし・・・・」
チエさんの目が左右に泳いでいたので、これはきっと大丈夫ではないなとすぐに分かった。
丁度タイミングを合わせるかのように、中央広場の方からこちらを呼んでいる声がした。
「師匠様、そちらにチエ様がいらしていませんかぁ~!!」
レッドキルアントの2名がこちらに向かってきながら、大きな声で呼びかけて来た。
「おお~やはりこちらにいらしたのですね。さあ、第1近衛のチエ様、お迎えに参りましたよ。それから、師匠様、申し遅れましたが隊長のテトです。レベルアップの際は、ケッセイともども大変お世話になりました。ところでケッセイの進化はどうなっているのでしょうか?」
ケッセイのいた隊の隊長さんだった。
「ああ~、あの時の隊長さんでしたか。随分とご立派になられましたね。それと、今回、ケッセイは無事に進化に至りました。もうすぐ繭化も終了しますので、隊長さんの事はケッセイに伝えておきますよ」
「それはどうも、色々と師匠様には感謝申し上げます。話は逸れましたが、チエ様、急いでお戻り下さい。チヌ様がご立腹ですよ」
チエさんはテト隊長ともう1名のレッドキルアントに連れられて戻って行った。
やっぱり・・・チエさんは抜け出してきていたんだな。
「師匠様!残念ですが・・・また、明日、お会いしましょ~う!」
レッドキルアント達に連れていかれるバレットキルアントのチエさんをその場で見送った。
進化してもチエさんは変わらないなぁ~としみじみと感じながら・・・。
慌ただしい中でチエさんを見送っていると、側にアリスが近づいてきた。
「師匠様!チエさんの件で話すのが遅れましたけれども、私にも進化の印が現れましたのよ」
そう言えばアリスの額にあたらしく印が現れていたのでそうじゃないかと思っていた。しかし、どうしてかわからないが、自分から声をかけるのを少しためらっていた。
それでも、アリスから話しかけてきてくれたので素直に喜びを伝えることが出来た。
「アリス!よかったなぁ、そうかぁ~、次の進化でバレットアントかぁ~」
アリスの事を喜んだはずだったが、なぜかその場でゆっくりと目を閉じた。
一瞬、何か変なことを言ってしまったかかなと思い、もう一度声をかけた。
「どうしたんだ!アリス。何かあったのか?」
「・・・・・すみません、師匠!私がバレットアントになれる日が来るとは・・・あの時の事を思い出すと信じられませんわ」
あの時とは、いつだろうという思いがよぎったが・・・・。
自分、ギィ、そしてアリスが出会ったあの日の事だと直感した。
「そうか、皮肉な出会いだったからな」
師匠はわかっているんだと理解したアリスは、自分とギィへ目を配らせた後に話を続けた。
「あの日は・・・私にとって、初めての外訓練の日の事でしたわ。一通りの訓練が終了した時、突然、洞窟の入り口が騒がしくなりましたの。その時、私は本当にどうしたらいいか全くわからず・・・・。次々と周りの仲間たちが倒されていきましたの・・・。それもあっという間にですわ」
どうしてアリスが、突然、あの日の事を語り出したのかわからなかったが、自分には耳を傾ける以外にできなかった。
「レッドキルアントの隊長が私に逃げるようにと言葉を残して向かおうとした直後、仲間たちの動きがゆっくりとなってしまいました。それでも、私は何とか意識をたもって、攻撃のあった方を向いて確認しないといけないという気持ちになり、ゆっくりと体の向きを変えました。しかし、そちらを向いたことに後悔しましたわ。それは3つの輝く瞳の方角から連続したはりの雨がやむことなく降り注ぎ、仲間たちをこれでもかと倒し続けました。私にはその攻撃を止めるように叫び続けることしかできませんでしたの」
当時の状況を思い出して震えていたアリスだったが、力を振り絞ってこちらを向きなおした。
「しかし、なぜだか・・・私だけが攻撃を受けることなく、気がついたら周りの仲間たちはすべて、倒されていました。全ての仲間が倒されたのに、どうして私だけを生かしたのか、それを考えると3つの瞳の敵モンスターを心より恨みましたの。それだけではなく・・・次の瞬間、動くことすら出来なくなり、私はとらわれてしまいました。・・・その時、初めて気が付きましたの、私は生かされたのではなく・・・・後で、命を絶たれることになるだろうと・・・」
アリスは目を閉じると、気持ちを落ち着かせるように1度大きく息を吸い込んで、自分の中のものを出し切るかのようにゆっくりと時間をかけて息を出した。
「師匠!急にこのような話をして本当にごめんなさい。ですが、聞いてほしいのです。私は心の闇を残したままでは、体は進化しても、心の進化は・・・・」
「わかっている。アリス!ゆっくりで構わないから・・・どうか、話を続けてほしい」
アリスはあの時の悪夢を忘れずに持ち続けていたのだろう。
同胞を倒しすぎた3つの瞳の主である自分に対しての耐えがたい憎しみに押しつぶされそうになることもあっただろう。
しかし、一方で、キルアント族の未来を切り開くきっかけを作った自分という存在を目の当たりにして、どこかで清算したかったのかもしれない。
「師匠!ありがとうございます」
そして、アリスは話を続けた。




