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46 千年真珠と緑の繭化

「千年真珠とは、キルアント族の秘宝であり、それを扱えるのは、王族の血を受け継ぐ者のみじゃ、そして、その効果は・・・・・・・・・・解毒じゃ!しかも、広範囲に効果を及ぼせたと聞く」


 まて、そんな効果を持つ秘宝があれば、この洞窟では、無敵に近いのではないか?

 しかし、今、キルアント族に千年真珠は・・・・・・・ない!


「キルアント族の秘宝に何かあったのですか?」

「相変わらず、察しがいいのう、師匠殿!そうじゃ、今、キルアント族の元に、秘宝『千年真珠』はない。アリス女王様は、このラクーン洞窟で最強じゃったそうじゃ。しかし、そんなある日、3匹のグレートリザードが突然現れたのじゃ。当時、キルアント族には、近衛だけでも300はいたそうじゃが、グレートリザード達との死闘の末、2頭は倒せたんじゃが・・・・アリス女王様も、その闘いで敗れたと聞く」

「ハルナばあ様、オオトカゲ、いや、グレートリザードとは、時々上がってくる、あいつですか?」

「そんなわけがなかろう、アリス女王様が即位なされていたころは、約500年くらい前じゃぞ!あやつは当時の子孫じゃ。あの日からずっとこのラクーン洞窟の主として、我が物顔で生息しておる。直接の恨みはないとはいえ、腹立たしいものじゃ」


 千年真珠はその時に、壊れてしまったのだろうか?

 それとも、なくなっただけだろうか。

 もしも、再び、千年真珠がキルアント族の元に戻ってきたら、キルアント族の栄光の時代を取り戻せるかもしれない。


「ハルナばあ様、千年真珠は壊れてしまったのでしょうか?」

「う~ん、わからぬ!伝説では、千年真珠は神々が作り出した6つの至宝の一つといわれておるそうじゃ。それが本当であれば、簡単に壊れるはずがあるまいて。もしかすると、このラクーン洞窟のどこかに、眠っておるかもしれんのぉ」


 ハルナばあ様は少し遠くを眺めるように、じっとたたずんでいた。


「あるんですね!」


 ハルナばあ様の顔が一瞬、険しいものとなった。

 そして、何かを考えて、悩んでいたように見えたが、大きくため息をはいた。


「師匠殿にはかなわんのぉ!そうじゃ、あやつ!あやつのあの強大な顎の下に、埋め込まれておる。きっと千年真珠を装着するとそうなるんじゃろ。千年真珠を取り戻すためには、あやつをたおさにゃならん。じゃがそんなことは不可能じゃ。あやつに勝てるものなど、この洞窟にはおらんよ。いくら、師匠殿が強いといっても、あやつに勝てる道理がないわい」


 しばらく、沈黙が流れた。


 一度強く握りしめたこぶしから、ゆっくりと力を抜いて、ハルナばあ様に、視線を向けた。


 ・・・握りしめたのは尻尾だけど、・・・蛇だから。



「私は、あいつを倒します。」


 ハルナばあ様は、体の力をぬいて自分の方を向いた。

 そして、ゆっくりと頭を左右に振った。


「師匠殿、キルアント族の為じゃゆうても、そげんまでしてもらう義理はありませんぞ」


 住処の洞窟で、自分たちを守るために戦った親、自分はたまたま助かったが、あいつの餌食となった兄弟の事を思い出した。


「キルアント族の為ではありません。私には、あいつを倒さないといけない義務があるのです」


 ・・・・・・・・・・。


 現在の自分の弱さをしっている。


 そして、あいつの強さも・・・・・。


「もちろん、今すぐではありません。まだまだ、力が足りません。しかし、私の能力で必ず倒して見せます。倒した暁には、同時に、千年真珠を取り戻すことになりますね」


 にっこりと笑顔を、ハルナばあ様に返した。


「師匠殿にも、色々と事情があるのですなぁ。いずれにしても、アリス姫様を預けるんじゃ。決して、死なせることのないように頼みますぞ」

「はい、アリスの事は、命に代えても守り抜きますから、安心して下さい」


 ハルナばあ様との話が終わったころに、アリスがやってきた。


「師匠、ハルナばあ!ケッセイさんの繭化が始まりましたわ。お話が、お済でしたら、いらしてくださいませ。ケッセイさんの繭化は、今まで見たことがない状態ですのよ!見てもらいたいんですわ」


 今まで見たことがない繭化ということをきいて、ハルナばあ様と自分はいそいで、ケッセイの繭化した場所まで向かった。


 到着した時には、ケッセイの繭化が完了した状態であった。ハルナばあ様は、ケッセイの繭の表面を、上から下まで、じっくりと観察するように眺めていた。


「緑色じゃな!」


 ハルナばあ様は一言つぶやいた。


 アリスの繭化をみていたから、繭化は白い色の糸で繭になるんだと思っていた。

 しかし、ケッセイの繭は薄緑色をしていた。


「師匠!ケッセイちゃんね、最初はアリスちゃんと同じように白かったんすよ、でも、途中から、糸が緑色に代わってて、最後は薄い緑色になっていたんすよ。ギィはきれぇ~って思ったんすけど・・・。アリスちゃんは、いきなり、ハルナばあ様と師匠を呼んでくるっていって、走って行っちゃたんすよ!」


 自分もケッセイの繭化に目を奪われていた。卵に緑色のレースのカーテンを丁寧に巻き付けたようになっていた。

 しかし、これまでの繭化を見てきたハルナばあ様とアリスにとっては、そうではなかったようだ。


「・・・・師匠殿、これが、新種への進化なのじゃな。・・・・これで、これでキルアント族に毒耐性を持つ種が誕生するんじゃな!」


 このラクーン洞窟において、毒耐性を持たないということは、いかに不遇な環境だったかを、生涯、感じて生きてきたハルナばあ様にとって、毒耐性という言葉は、どれほど焦がれても手に入れることが出来ないものと思い続けてきたのだ。


 しかし、その毒耐性を持つキルアント族の誕生の瞬間を目の当たりにして、その喜びはどれほどのものだったのだろう。


 普段は、口が悪く、すぐに嫌われ者になるかと思えば、キルアント族の為になると思えば、どんな相手にも毅然とした態度で接するハルナばあ様の目から、無邪気な子供が褒められた時のように涙があふれるように流れていた。


「・・・・ラージバットとの闘いで、友をなくして以後、わしの目から、涙は彼果てたと思っておったんじゃが・・・・・・・」


 アリスは、初めて見るハルナばあ様の泣いている姿をみて、ハルナばあ様の側に寄り添い、ともに体を小刻みにふるわせていた。


「ハルナばあ様、師匠、アリスちゃ~ん!感動したよ~、私めちゃくちゃ感動したよ~。うぇ~~ん!!!」


 ギィは、その場がまるで震えているのではないかと思えるほどの喜びに飲まれ、あふれる感情を止められないまま、喜びの声を上げていた。


 ひとしきり、あふれる感情の揺らぎが続いたが、それも落ち着いてきたように見えた。

 すると、ハルナばあ様は小さく笑い出した。


「師匠殿、ちぃと恥ずかしい姿を見せてしもうたのぉ。すまんかった」

「ハルナばあ、もう大丈夫ですの?」

「ああ!大丈夫じゃ!心配かけたのぉ、アリス姫様。それでじゃ、師匠殿、この後はどうするつもりなんじゃ?」


『ケッセイが新種に進化して、それで終わりじゃないよな』とハルナばあ様の目が訴えていた。


「ケッセイの弱体化が終了した段階で、ケッセイの能力の検証を行って行きます。新しいスキルにどんなものがあるかも確認をしようと思っていますが、スキルの使い方や効果は使用して、初めてわかると思います。進化直前のケッセイは第2近衛達とほぼ同様の強さを持っていましたが、進化直後はやはり弱くなっているので、まず、自分の指揮のもと、2日間ほどレベルアップを行います」

「ケッセイの毒耐性に関する検証はどうするのじゃ?」

「ケッセイの毒耐性に関する検証は、慎重に行って行こうと思います。ポイズンバットのポイズンファングだと、毒の量の調整が難しいので、ポイズンバタフライの毒鱗粉で、検証を考えています。しかし、何かあってはいけないので、検証時には回復チームの準備をお願いしたく思います」

「その程度なら、簡単じゃ。任せておれ」

「ケッセイの毒耐性に関しては、明日から10日後に行うことにします。ハルナばあ様もその予定で、回復チームの準備をお願いします」

「10日後じゃな、それまでの期間、師匠殿はどうするのじゃ?」


 ラクーン洞窟の地下2階に進むには、ギィとアリスをもう少し強化しておきたかった。


 ラージバットを、自分、ギィ、アリスの3名で余裕をもって倒せるくらいになっておきたかったのだ。


「先に進むためにも、アリスのもう1段階上の進化とギィのレベルアップです」

「そうか、師匠殿も忙しいのぉ!それでじゃ、ケッセイの進化と弱体状態が解除された後、一度王宮に来てもらいたいんじゃが、頼めるかのぉ」


 メーベル女王様への報告がいるんだなと思い、繭化が3日間で弱体状態が1日間かかるからと計算をした。


「では、5日後に、メーベル女王様に謁見にまいります。よろしいでしょうか?」

「うぬ!5日後じゃな。わかった。待っておるぞ!師匠殿!」


 そういて、ハルナばあ様は、そのまま、西の居住区に戻っていった。

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