45 ケッセイの進化
ポイズンバット討伐 24日目
いつも通りに中央広場に到着したが、ケッセイの姿が見えなかった。
「あれ、今日はケッセイちゃんいないね。どうしたのかな」
ギィが周りを見回しながら、ケッセイの姿を探していた。
しばらくすると、ケッセイが全速力でこちらに向かって走ってきた。
「はぁっ!はぁっ!、すっ、すみません。遅くなりました」
「何かあったの?ケッセイちゃん。・・・・・・あっ!」
ギィの声に、自分とアリスも気がついた。
「ケッセイちゃん!その眉間の印は・・・」
ケッセイは今までで、一番目を輝かせて、嬉しそうだった。
「はい!今朝、私に進化の印が現れました」
嬉しさから、笑顔がこぼれていた!
「師匠様にあきらめないように言われていましたが、実はほとんどあきらめていたんです」
ケッセイは一度息を整えてから、話を続けた。
「そんな自分が何とかここまで来れたのは、応援してくれた師匠様やギィ様やアリス姫様とともに戦えるのがらうれしくて、その一心でした」
ケッセイはこれまでの自分の思いを伝える日がくるとは、思っていなかったようで、目に涙をためて・・・・、しかし、それを流すことはなく我慢していた。
「師匠様、本当にありがとうございます」
ケッセイは何度も何度も頭を下げて、自分にお礼を言っていた。
「ところで、ケッセイ!眉間の印の形が違うな!?」
自分が、眉間の印の事をケッセイに話すと、ケッセイの表情が一変した。
「そうなんです、印の形が違うんです。ここに来るのが遅れた理由でもあります。進化の印が、私の知っているものとは違ったので、こちらに来る前に、メーベル女王様に報告に行っていました」
ケッセイの眉間の印は、通常の印の周りに、2重になった円で囲っていた。いわゆる外側が2重になった2重丸だった。
「メーベル女王様だけでなく、カルナじい様やハルナばあ様ですら、見たことがないとおっしゃられて、現存している文献を確認したり、一族の長老たちに話を聞きに行ったりと、大騒ぎとなりました」
「それで、印の意味は分かったのか?」
「わかりませんでした。しかし、進化すれば、わかるだろうから、進化後に師匠様と一緒に王宮に来るようにと、メーベル女王様より言付かってきました」
「進化後に、王宮にいけばいいんだな」
「よろしくお願いします。あと、どんなふうに進化するのか気になるからとハルナばあ様が進化の経過を確認するといわれておりました」
あの口の悪い、バレットキルアントのばあさんかぁ・・・。
苦手だな・・・・。
「進化後に、確認したいこともあるので、南の居住区で繭化をしてもらいたいが・・・どうだ?」
「わかりました。午前のポイズンバット討伐後に、ハルナばあ様には伝えておきます」
※ ※ ※
そして、何事もなく、無事、午前・午後のポイズンバット討伐が終了した。
「ケッセイ!いよいよ進化だな」
「ケッセイちゃん、ようやく進化だね。ずっと悩んでいたもんね。よく頑張ったよ!」
「ケッセイさん!あなたは心の強い方ですこと。おそらく通常とは違う進化を遂げるはずですわ。これからはメーベル女王様、それに、キルアント族を盛り上げてもらわないといけませんわね。ふふっ!」
みんなで、ケッセイを応援した。
ケッセイは、皆の気持ちがうれしいのか、帰路の間ずっと、目をキラキラと輝かせて、笑顔で移動していた。
南の居住区では、ハルナばあ様とチエさんがすでに到着していた。
チエさんは自分の姿を見つけると、ポイズンバット討伐の時と同じように、目をキラキラと輝かせて、走ってこちらに向かってきていた。
「師匠様、ついに・・・ついに・・・ケッセイの進化が・・・私の夢が・・・・叶うときがやってきました。そして、こんな幸運にめぐり合わせてくれた師匠様にお礼の・・・はぐっぅうおぃわ!」
チエさんが長々と話をしていたので、しびれを切らしたハルナばあ様が後ろから引っ張り倒してしまった。
やはり、ハルナばあ様は只者ではなかった・・・・・・。
チエさんは弱体化中の弱っている体だったけど、大丈夫なのだろうか・・・・。
「師匠殿、ケッセイの件じゃが・・・話を聞かせてもらいたいことがあるんじゃがのう・・・」
「たった今、討伐から戻ってきたばかりですので、一度奥にいらして、一息つかれてください」
「ハルナばあも、せっかちなことですわ」
「おおぉ~!アリス姫様や!見事なお体になりなさったのう。若き日のメーベル様のようじゃ」
アリスに話しかけるときの、ハルナばあ様はとてもやさしい雰囲気になっていた。
・・・あんなやさしい顔もできるんだ・・・と思い見ていた。
「師匠殿、今、やさしいばあさんだと、思ったじゃろうて。あれは、アリス姫様の前だけの顔じゃ。覚えておれ!」
やっぱり憎たらしいばあさんだ。
「今、憎たらしいと思うたじゃろう。まだまだ若いのう、小僧。すべて顔に出ておるわい。はははっ!」
やはり、侮れないばあさんだった。
ケッセイをアリスが進化した場所に案内をした。
ハルナばあ様は、ゆっくりと話ができる場所に、一緒に向かった。
やはり、チエさんは弱体化中に無理をしていていたので、迎えに来たチタさんに連れられて戻って行った。
ギィとアリスはいつも通りに、仲良く、会話が弾んでいた。
いつまでも、話しの絶えない2名だった。
ハルナばあ様は、色々と見透かしているような口ぶりでたずねてきた。
「それでじゃ。師匠殿、ケッセイについて、洗いざらい教えてくれんかの?」
ケッセイの3つの仮説と追加の仮説について、説明をした。
「第2近衛のチエが、なにやら、こそこそしておったのは、知っておったが・・・そういうことじゃったのか。それでは、今回のケッセイの進化で、師匠殿の仮説は証明されたということじゃろうか?」
「いえ、まだです。進化にはかなり大量のレベルアップが必要でした。そして、眉間の印から、新種への進化も間違いないと思います。しかし、毒耐性、解毒関連のスキルは進化してから確認が必要になるかと思います」
隠しても、意味がないと思い、正直に返事をした。
「それにしても、キルアント族に、毒耐性だけでのうて、解毒のスキルまで・・・。師匠殿の功績は計り知れんのう・・・」
ハルナばあ様は、目をつむり何かを考えているようだった。
頭を左右に振り、思いついた考えを飲み込んでいた。
そして、頭を上に向けて一言つぶやいた。
「そうじゃ・・・・こんな日が、わしの生きておる間に来るなんて思わんかったのぉ。じゃが・・・これも、5代前のアリス女王様の導きかもしれんわい」
『5代前のアリス女王様』この言葉は、ハルナばあ様が、初めてアリスにあったときに発した言葉だった。
「ハルナばあ様、初めてアリスにあったときに、5代前のアリス女王様の名がでていましたが、解毒に関して何かつながりがあるのですか?」
「いやいや、年寄のつまらん思い出じゃ。気にせんでおくれ」
ケッセイの毒耐性と解毒スキルの話をした後に、ハルナばあ様が話だしたということは、キルアント族と毒耐性および解毒スキルに関連のある話だろうと思い、聞くことにした。
「もしかすると、アリスのこれからの旅に必要な情報があるかもしれません。ハルナばあ様さえよければ、教えていただけないでしょうか?」
「師匠殿、若いとはよいのぉ。知識や情報に貪欲じゃ。じゃがそれも必要なことよな。・・・・・長い話になるんじゃが、聞いてくれるか?」
「ハルナばあ様、時間はたっぷりあります」
「ふっふっ!小僧のくせに意気なことをいいよるのぉ!何処から話せばよいかのう。やはり、アリス女王様の話じゃろうな」
アリス女王様はキルアント族が全盛期の時の、女王だったはずだ。
「わしも、お会いしたことはないんじゃが、先々代の女王様から聞いた話になる。当時から、ラクーン洞窟の地下1階は、毒エリアじゃった。しかし、アリス女王様のおかげで、キルアント族は覇権を栄華しておったんじゃ。それが出来たのは、今の師匠殿と同じ様に、アリス女王様もポイズンバット達の動きが見えたそうじゃ。そして、キルアント族の仲間に指示をだして、ポイズンバット達を倒すことが出来たというからのぉ」
それなら、キルアント族に毒耐性を持つものがいても、おかしくないはずだ、それくらいは簡単に想像がつく。
しかし、キルアント族に毒耐性を持つものは一人もいなかった。これは、何か特別な事情があるに違いなかった。
「師匠殿も、気づいておろう!キルアント族に毒耐性がないことが、おかしなことじゃという事にのう。やつらとの闘いで、毒を受けんことは、まずありえなんだ。にも拘わらず、キルアント族が勝利を収め続けてこれたのは、キルアント族の秘宝・・・千年真珠のおかげじゃったのだ」
カルナじい様が、千年真珠について話そうとしたとき、メーベル女王様が中断していた。
千年真珠は何だろうと、気にはなっていたが、聞くことは出来なかったものだった。
「ハルナばあ様、千年真珠とは、いったいどういう宝物だったのですか?」




