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43 チエさんと2つの決意

「そのとおりです、だから、毒を受けて生き残っているケッセイには、本来、毒耐性があってもおかしくないはずなんです。しかし、ケッセイに毒耐性はありません。おそらく、うけた毒の量が少なかったのかもしれません。そして、私の経験上、進化によって、耐性を獲得できるはずなんです」

「師匠様の経験上ということは、進化によって、何かの耐性を獲得したことがあるということですか?それならば、仮説ではなく真実に近いのではないでしょうか!?」


 今まで仮説といっていたのに、経験していたことであると聞いて、チエさんの目に幾ばくかの輝きが戻ってきていた。


「期待させてすみません、チエさん。私の場合は、少し特殊な事情があり、真実とは言えないのです・・・・・。話を戻しますが、進化で毒耐性を獲得したばあい、毒関連全般のスキルを手にするはずです。先ほど言いました、毒耐性とは毒を分解することだと・・・・」


 チエさんの目が輝いてきて、自分が何を伝えようとしているのが、おぼろげであるがわかったようだった。


「師匠様、もしかして、ケッセイは進化後に毒耐性だけでなく、『解毒』関連のスキルを獲得する可能性があるということですか!?」


 驚きすぎて、声が出なくたったチエさんは一度大きく、深呼吸をした。


 ふぅ~~~。


「私の考えが飛躍しすぎかもしれませんが・・・。そして、私の思いを込めすぎだと笑われるかもしれませんが・・・・。もしも、解毒スキルがあるならば、キルアント族だけでレベルアップが可能になるということですかぁ!!」

「チエさん!私と同じ結論に行き着きましたね」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。


 チエさんから言葉がなくなってしまった。

 チエさんの体が、大きく震えていた。

 そして、チエさんはそのまま、うずくまってしまった。


 ・・・・・・・泣いていた。


 この数日間の、壊れた自分の心を取り戻すかのように、無邪気に泣き続けていた。


「師匠様、私にはまだ希望が残っているのですね・・・・・」


 少し、落ち着きを取り戻してきて、


「そうですね。一粒の真珠のように小さな希望ですが・・・・」

「希望を持てるだけで、私は生きていけます。たとえ、仮説が実現しなくても、キルアント族の未来が閉ざされたままではないという期待を抱き続けることが出来ます」


 チエさんの立ち姿は、誇らしげで、目標を見つけ、どんな困難でも乗り越えて見せるという気迫に包まれていた。


 ・・・・チエさんはもう大丈夫だな。


「私は、師匠様に出会えて、本当に幸せです。私が生まれてからずっとキルアント族には未来がありませんでした。メーベル女王様もキルアント族の未来を考え、嘆いておられました。しかし、師匠様は、キルアント族に希望を残してくれました。・・・・この気持ちをどう伝えればいいのかわかりません。師匠様ありがとうございます」


 チエさんは、自分に、一族を代表するようなお礼をした後、目の前に近づいてきた。


「師匠様・・・出発を考え直して、いただくことはできませんか?」

「チエさん、気持ちはうれしいですが・・・・私にはやらなければならないことがあります。・・・いや、倒さないといけないやつがいます。そして、そいつは、今の自分では全くかなわない。・・・・・・・・だから、強くならないといけないのです」

「師匠様にも、事情がおありなんですね・・・・・・・」


 チエさんは一度下を向いて何かを考えていた。

 そして、心が決まったのか、晴れやかな顔でこちらをみて、答えた。


「師匠様、その倒さないといけない相手を倒して下さい。決戦の日が訪れた時は、我ら、キルアント族、総力を挙げて師匠様を支援いたします」

「ありがとうございます。その戦力期待しております」


 チエさんには、期待していると答えたが、あの巨大モンスターの前にキルアント族が出てきても、全く歯が立たないに違いない。

 もしも、巨大モンスターとキルアント族が戦闘になったら、多くの死者をだしてしまうだろう。

 そうなる未来は避けてほしいとおもったが、今のチエさんには、そんなことは伝えられなかった。


「では、午後のポイズンバット討伐では、しっかりお願いしますね。チエさん!」

「ははっ!朝はお恥ずかしい姿を見せてしまいました。午後は、しっかりいつもの私を見せますから。いとしの師匠様!!」


 あれっ、今最後に何か言葉がついていたように思えた。


「えっ!チエさん、最後の・・・・・・・・・いや、何でもないです。それでは、午後に中央広場で会いましょう」


 そう言って、チエさんと別れた。


 ※     ※     ※


 ポイズンバット討伐 19日目 午後


「師匠!チエさん大丈夫すっかねぇ!?」

「私も心配ですわ。師匠!あんな状態では、いつポイズンバットからの攻撃を受けてもおかしくないですわ」


 ギィもアリスも、ポイズンバット討伐にチエさんの参戦を中止するように訴えてきた。


「ギィにアリス!チエさんの事はもう大丈夫だ!」

「師匠!本当っすか?」

「あの状態から、いきなり変わるのは、普通は無理だと思いますわ!どのような魔法を使いましたの?師匠!」


 あの時のチエさんなら、間違いなく大丈夫だと思った。


「チエさんに会えばわかるさ!」


 ギィもアリスも本当かなぁと、疑いの目で、自分を見ながら中央広場へ向かった。


 中央広場には、すでに、チエさん達が集まっていた。


 チエさんは、私たちが到着したのに気付いたように見えたが、少し俯き加減で朝と変わらないような雰囲気を出していた。

 あれっ、もう大丈夫だと思ったんだけど・・・何かあったのかと思い、チエさんに近づいた。


 チエさんは、自分たちが、側に来たのを上目づかいで確認した後、第2近衛の2名とケッセイ、それにギィとアリスの前で高々と宣言するように言った。


「朝の討伐は、無様な姿をお見せして、すみませんでした。これより、私は、私の希望を叶えるために、そして、私の思い人の為に戦います」


 宣言した後、チエさんは、今までにないくらい、目をキラキラと輝かせて活き活きとしていた。


「おお!チエついに言ったな!」

「それぇ~!言っちゃってよかったんですかねぇ~」

「チエさん、かっこいいです。」

「チエさん、大胆ですわ、でも、少しうらやましいですわ!私も見習おうかしら。ふふっ。」

「えっ!希望ってなんすか?それに、思い人って誰っすか?ねぇ!師匠!誰っすか?」


 ギィ以外はみんな、なんとなくわかっている風だよ。

 ちょっと、チエさんやりすぎじゃないの。

 っていうか、元気出しすぎだよ。


「・・・・・・・チエさん!これから、希望とあのぉ~、思い人の為にも、全力でポイズンバット討伐に力を入れましょう」

「はい!師匠様、チエは全力で頑張ります」


 チエさんは、すがすがしいくらいまっすぐと、自分の方を向いて返事をしていた。


 色々と思うこともあるけれど・・・。

 チエさんとともに戦えたことは、この世界での心のふれあいの大切さを感じさせてもらえる出来事だと実感することが出来た。


 チエさんには、とても感謝しています。


 直接、口に出すことはできなかったが、心の中で何度もつぶやいていた。


 この後のポイズンバット討伐では、チエさんが張り切りすぎて、やっぱり、危ういところもあったが、無事に終了することが出来た。


「調子に乗りすぎて、すみませんでした」


 第2近衛としてのチエさんはかなり、凛々しい雰囲気だったけど、今日のポイズンバット討伐中の失敗を反省している、チエさんは、少し愛らしく感じた。

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