42 壊れかけたチエさんの心とケッセイの新しい仮説
ポイズンバット討伐 19日目
「師匠様、ポイズンバット討伐の編制部隊は、昨日付で解散となりました」
今日も、第2近衛のチエさんは、沈んだ様子で報告をしてきた。復帰組の参戦中止の件で沈んでいるのは間違いなかった。
「師匠様、チエのやつ!すまねぇ!チエは今回の暗闇の洞窟への侵攻に関して、一番力を入れてきた立役者やったからのう。それに、復帰組の参戦、そして、新たなキルアント達の進化の為の参戦準備を進めていたからなぁ。ショックが大きかったんやろ」
第2近衛のチタさんが元気のないチエさんの事を説明してくれた。
「チエさんはかなり頑張ってくれていたので、仕方がありません。しかし、あの状態では、今日のポイズンバット討伐は中止した方がいいでしょうか?」
「いや、中止はしないでくれないか。おれもチエには話をしたんだが、『大丈夫、しっかりやるから』といって聞かなかったんだ」
すでに、チタさんはチエさんに話をしていたようで、ポイズンバット討伐は予定通り実施することで決まった。
チエさんの実力なら、何ら問題はないと思うが、一応、何かあってはいけないので気を付けておくことにした。
この日の朝は、暗闇の洞窟まで、会話もなく、皆、黙ったままの移動だった。
ポイズンバット討伐も、途中、チエさんの集中が切れていた為、危ういところもあったが、朝の討伐は無事に終了した。
「師匠ぉ!チエさん、元気ないっすねぇ。どうしたら、元気がでるんっすかねぇ」
「朝の討伐でも、戦いに集中できていませんでしたわ。困りましたわねぇ」
ギィもアリスも、チエさんの状態を心配していた。
このままでは、いけない・・・。
今回は、何事もなくポイズンバットを討伐できたけど、こんな雰囲気のままポイズンバット討伐を続けると、どこかで、最悪の被害が出るかもしれない。
最悪の被害を出した場合、この暗闇の洞窟への侵攻を進めた中心であるチエさんは、強く責任を感じるに違いない。
それだけでなく、最悪の被害を出してしまう進化の方法はキルアント族の中では、今後、禁止とされてしまうかもしれない。
それは、キルアント族の進化の未来を閉ざしてしまうことと同じだ。
この流れだけは、ぜったいに避けないといけない・・・。
何か改善できる方法はないのか・・・。
何か、チエさんの心を動かす何か・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・。
あった!
もしかしたら、チエさんの心を動かせるかもしれない・・・。
朝のポイズンバット討伐の帰路の中で、チエさんに、声をかけた。
「チエさん、隠れ洞窟に戻ったら話をしたいんだけどいいですか?」
「ええ、構いませんけれど・・・編制部隊もないし、特に話すこともありませんが・・・」
うつろな表情のチエさんからは、以前からは考えられないくらい、何もないような表情で返事が返ってきた。
「少し個人的な内容ですし、すぐにすみますのでよろしくお願いいたします」
「はい、師匠様、わかりました」
とにかく話をする時間を作ることには一応成功した。
中央広場まで戻ってきた後に、7名しかいないポイズンバット討伐編制部隊を解散した。
そして、もう一度、第2近衛のチエさんに声をかけた。
「チエさん、今からお話ししてもいいですか?」
「はい、師匠様、では中央広場の隅まで行きましょう」
チエさんは俯き加減のまま、広場の隅にある、木々の側まで向かった。
「チエさん、お時間を作っていただきありがとうございます」
「部隊がないから・・・最近は少し暇なのです。問題ありません」
「実は、ここ数日、チエさんに元気がないので、心配していまして・・・。どうしたんでしょうか?」
「部隊編制の仕事がなくなり、緊張の糸が切れてしまって、疲れが出てきたのかもしれないです。数日もすれば、よくなるのではないかと思います」
「数日もすれば、元気も出てくるのですか?」
「はい、元気になれば、このレベルアップが終了した後も、一緒にポイズンバット討伐に参戦させていただければと思います」
「えっ、先日、旅立ちの話をしたはずですが・・・」
アリスの次の進化が終わった後に、ラクーン洞窟の地下2階に出発する旨、話していたが、忘れているようだった。
「師匠様、旅立ちの話はきいていませ・・・・・・・・・・・・いや、聞いていま・・・・・・・・・・・・した」
最初、旅立ちの話は初めて聞いたように話し始めていたのに、途中で思い出したとたん、声につまり、ぽろぽろと涙を流し始めた。
「えっ、どうして、なんで、涙が・・・」
チエさんの目から、涙があふれて止まらないようだった。
「私・・・忘れていました。・・・とても大事なことを忘れてしまっていました。・・・ポイズンバット討伐の部隊編成は、私の仕事ではない・・・・・・私の希望そのものだった・・・」
チエさんの目からは、どんどん涙がこぼれだした。
「・・・・・・師匠様が、私の希望である仲間を増やしてくれる方法をおしえてくれました。そして、私がその方法をかなえる手段を導き、キルアント族の未来をつくる手助けをするつもりでした」
言い出したくない、内容を思い出しながら、一度大きく深呼吸をした。
ふぅ~~~。
「しかし、師匠様は、キルアント族のレベルアップの継続を中止し、しかも、この隠れ洞窟から・・・・・・去っていくといわれました。私の希望はいきなり閉ざされてしまい、しかも、完全に継続することが出来なくなってしまいました」
チエさんはあふれる悲しみを我慢しながら、ゆっくりと心の言葉を語ってくれた。
「・・・・・目の前が真っ暗になりました。そして、私は、気づかないうちに、心を閉ざしてしまっていました」
ふぅ~~~。
チエさんはもう一度ゆっくりと深呼吸をした。
「忘れていた、いや、思い出したくない記憶を、思い出してしまいましたが、いずれにしても、私の希望は潰えてしまいました。今更、どうにかなるものでもありません」
チエさんの目は、今だ、元気はないが、これまでと違って、うつろな目から力のこもった目に代わっていた。
もしかしたら、今のチエさんになら、希望を与えることが可能かもしれない。
「いずれにしても、このポイズンバット討伐はあと数日です。我々とアリス様の進化がすむ間までですが、最後まで、ともに頑張りましょう」
そう言って、無理やり話を終わらせて、この場から去ろうとしていたチエさんに、1つの言葉を伝えた
「チエさん!ケッセイの仮説には続きがあります!!!」
さろうとした、チエさんの歩みが止まった。
そして、ゆっくりと、こちらを向いた。
「師匠様!今の言葉は・・・・続きとは!?・・・・・・・本当ですか?」
ケッセイの仮説
①毒を受けて生き残り、進化する。
②進化後は、毒耐性を持つ新種となる。
③進化するには、大量のレベルアップが必要
「師匠様の、おっしゃられた仮説は3つだったと思います。そして、その仮説の実現可能性を持つのがケッセイだったと認識していますが・・・。さらに、その先の仮説があるということですか?」
「そのとおりです」
「では、なぜ、あの時に話してくれなかったのですか?」
暗い雰囲気だったチエさんが感情的に反発してきた。
「あの時は、毒耐性についてのみ、仮説を立てていたのです。しかし、仮説②で新種に進化した場合、容易に考え付くであろうことに気づかなかった部分です」
「どういうことですか、私にはよくわかりません」
「まず初めに、すべてが仮説での話のため、期待と創造でしかないことを理解してください」
「はい、私とケッセイは師匠様を信じると決めましたから、仮説が間違いでも後悔はしません」
「ありがとうございます。では、続きを話します。そもそも毒耐性とは体の中で毒を分解することが出来る能力です。その為には毒攻撃を受けないといけません。・・・が、その結果、毒耐性ができることになります」
「残念ながら、キルアント族は毒攻撃に耐えることが出来ずに死んでしまいます。だから、キルアント族に耐性はつかないと、師匠はおっしゃいましたよね」
以前の説明を思い出すように、チエさんが答えてくれた。




