40 アリスの戦線復帰
ケッセイは、これまで、レッドキルアント達から『なんで進化できないのに部隊にいるんだ』『毒を受けて、進化できなくなっているに違いない』等、数多くの陰口をたたかれてきた。
レッドキルアント達の繭化と弱体化で、編成部隊にいなくなった、今、チタが気になっていたことをケッセイにたずねてきた。
チエさんもケッセイも、自分との約束があるから、本当のことを話すことはできなかった。
「私は、師匠様に命を救っていただきました。そして、ケッセイの名を与えてくださり、戦いを続けるようにおっしゃいました。私が、進化しないからといって、部隊から去ることは、師匠様の思いを裏切ることになります・・・。そんなこと、私には絶対にできません!!」
ケッセイの口から出てくる言葉は、自分との約束を守るための言葉ではなく、ケッセイ自身の心の声であることが、伝わってきた。
仲間からの陰口は、きっと辛かったに違いない、それでも、チエさんにさえも弱音を吐くことなく、戦い続けたケッセイに胸が熱くなる思いがした。
「お前が、仲間のレッドキルアント達から陰口をたたかれているのは知っておったが・・・。それに耐えて、必死で戦っている一人前の戦士に、甘えた言葉をかけることはできんかった」
ケッセイは、第2近衛のチタ様より、一人前の戦士と呼ばれたことに、心を震わせていた。
「1兵士であるキルアントに、第2近衛のチタ様より、戦士と認めていただけるなんて、それだけで、これまでのことなど、些末なことに感じます。進化はできませんが、戦士としての能力は上がっているのは間違いありません」
実際、ケッセイはキルアントではあるが、1撃でポイズンバットを倒すことが出来るようになっていた。
「わかった、これ以上は何も言うまい。進化はできずとも、キルアント族の誇りは失うことはないからのう。はげめケッセイ!」
チタの言葉は、ケッセイの心に染み渡った。
ケッセイは、第2近衛のチタ様のやさしさに触れ、仮に本当に進化できないとしても、この選抜部隊に入れたことを、生涯の誇りとすることを自身の心に誓った。
ケッセイの事情を知っていて、側にいたチエさんは、ケッセイの言葉に、何も言わずに肩を震わせていた。
チエさんもケッセイの決意の言葉を聴いて、心を震わさざるを得なかったのだった。
ギィは、ケッセイの側に寄り添って、何かを話していた。第2近衛の前では気丈にふるまっていたが、ギィには少し心を許しているのだろう。
涙をこらえて、歯を食いしばっているケッセイの姿があった。
ポイズンバット討伐 17日目 部隊編成
第1部隊 第2近衛バレットアントの3名チエ・チタ・チミ
キルアントのケッセイ&ギィ
第2部隊 レッドキルアント 15名繭化
第3部隊 レッドキルアント 12名繭化
レッドキルアント 3名弱体化
第4部隊 キルアント 14名弱体化
第5部隊 キルアント 15名弱体化
※ ※ ※
ポイズンバット討伐 18日目
「師匠様、最初に進化した6名のレッドキルアント達が戦線に復帰することになります」
ケッセイの事もあったが、今回のポイズンバット討伐で進化したキルアント族を戦線に復帰させるつもりはなかった。
「チエさんお願いがあるんです!ポイズンバット討伐で進化したキルアント族の戦線復帰をさせないようにすることはできませんか?」
「師匠様、なぜそのようなことをおっしゃいますか?現在キルアント族はレベルアップで一族が活気に満ちています。前回の部隊選抜以後も、参加意思を表しているキルアント達は後を絶たない状況なんですが・・・・」
チエさんは、意見を述べている途中でハッと気が付いた。
「ケッセイの事ですか・・・?」
「ケッセイのことも、理由の1つですが、それよりも、このポイズンバット討伐でギィの進化とアリスのもう1段階上の進化を考えています」
チエさんの顔色が一瞬曇ったように見えた。
「・・・・・・・もしかして、師匠様の旅立ちですか・・・・・・?」
「そうです。このラクーン洞窟の地下2階へ進もうと考えています。ハルナばあ様に、アリスに旅をさせて、力をつけさせるように頼まれていますしね!」
「キルアント族のレベルアップによる進化もここまでなんですね。残念です・・・」
チエさんから力が抜けてしまったように、少し元気がなくなてしまった。
「師匠様わかりました。しかし、私の一存では決めかねますので、メーベル女王様に報告の上決定させていただきます。なお、本日の復帰組に関しては待機を命じておきます。それから、アリス様は本日から復帰でよろしいですか?」
「はい、アリスは後程、ギイと一緒にこちらに来るようになっています」
「了解しました。まず、復帰組に待機の命令を下してきます」
チエさんの背中が少し弱々しく見えた。
チエさんの後ろ姿を見ながら、ケッセイの事を考えていた。最近のケッセイの戦闘能力はレッドキルアントを超えていた。しかし、まだ、バレットアントには追い付いていないように思えた。
なぜだかわからないが、ケッセイの進化が近づいているのが何となくわかった。
チエさんとケッセイにはまだ伝えていない仮説があった。
それは、ケッセイの能力に関することで、キルアント族にとって、将来を決める能力になるだろうと思っていた。
チエさんの後ろ姿を見ると、元気づけるためにその仮説を伝えようと考えたが・・・・・・もしも、間違いだった時の事を考え踏みとどまった。
ポイズンバット討伐 18日目 部隊編成
第1部隊 第2近衛バレットアントの3名チエ・チタ・チミ
キルアントのケッセイ&ギィ&アリス
第2部隊 レッドキルアント 15名繭化
第3部隊 レッドキルアント 12名繭化
レッドキルアント 3名弱体化
第4部隊 キルアント 11名弱体化
進化後レッドキルアント 3名待機
第5部隊 キルアント 12名弱体化
進化後レッドキルアント 3名待機
ギィとアリスが仲良く、会話しながら中央広間にやってきた。
編制部隊は、第2近衛の3名に我々の4名、合わせて7名のチームだ。
戦力的には、全く問題ないが、数日前の大勢での、にぎやかな侵攻ではなくなっていた。
暗闇の洞窟までの移動の際に、ギィ、アリスとケッセイに連携の確認を行った。
「アリス、十分な訓練を行っているとはいえ、久しぶりの実戦だ。気を抜くなよ!」
「お心づかいありがとう存じます、師匠。たしかに、緊張感ですこし足先が震えていますわ」
実戦の緊張感の中で、体が思うように動けるか心配しているようだった。
「ですが、師匠、ご安心を!進化後の私の力をご覧に入れますわ」
「ほぉ~!それは楽しみだな。アリス!ギィ!アリスはああ言っているが、何か不足の事態が起きることもあるから、しっかりフォローしてやってくれるか?」
「はい!師匠っ!アリスちゃんの事は私に任せてもらっていいすっよ!」
最近のギィは、ケッセイのフォローを行うことで、連携の熟練度も上がってきていた。それだけでなく、素早さ、攻撃力も向上しているのがわかった。
ポイズンバットを倒す際の、動きに余裕が出てきていたからだ。
もしかすると、進化が近づいているのかもしれない。
そう感じさせる場面も増えてきていた。
「攻撃の順番は、アリス、ギィ、ケッセイで行くんだ。ギィはしっかりアリスのフォローをしてくれ。では、行くぞ!」
水弾丸(改)網!
ブァッ!サ~
1番手のアリスは、何の躊躇もなく、網にかかったポイズンバットに一撃を加えた。
もともと、キルアントの時ですら、噛みつきのスキルは洗練されていたが、レッドキルアントになっても、その洗練さは変わっていなかった。
攻撃力が上がっている分、その姿勢に優雅さが垣間見えるようだった。
「アリス、さすがだな。もう、新しい体に慣れているようにみえるが・・・・」
「いえいえ、まだまだですわ。久しぶりの実戦だったので、攻撃に入る一瞬に、若干ためらってしまいましたの。反省ですわ!」
後ろ彼見ていて、そんな、ためらいは全く見えなかったが・・・。
アリスは姫様だから、意識高い系なんだろうか・・・!?
その後は、ギィ達とチエさん達のチームがローテーションでポイズンバット討伐を行った。




