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38 ポイズンキルアントへの進化の仮説

「チエさん、ポイズンバット討伐前に、少し時間をもらえないかな」

「えっ、私とですか?でも、そんな、いきなり、そんなこと言われても心の準備も・・・」


 チエさんは下を向いて、何かをつぶやいていた。

 自分の声が聞こえていない様子だったので、何度か声をかけた。


「・・・エさん、チエさん、聞いていますか?」

「すいません、ちょっと考え事をしていました」

「チエさん、討伐の事や、繭化、進化の事で、忙しいとは思いますが、大事なことなので、少し時間をお願いしたいのですが・・・」

「師匠様、わかりました」

「ここではなんですから、静かな場所へ移動しますか?あっ、その前に、ケッセイも呼んでいただきたいのですが・・・」

「えっ、師匠様と私だけではないのですか?」

「違いますよ!チエさんも、ずっと悩まれているじゃないですか。ケッセイの進化に関しての話です」

「あれ、ケッセイの進化についての話なん・・・ですか?」


 チエさんには、なぜか予想外の話題だったような印象がした。

 しかし、今、話をしておかないといけないのは、ケッセイについての話なので、気にしない事にした。


「はい、ケッセイの進化が遅れている件です」

「えっ、師匠様はもしかして、ケッセイの進化が遅れている理由をご存じなのですか?」


 チエさんの中では、ケッセイは進化できない状態だと思っていたので、かなりの驚いていた。


「知っている、といえるほどの確信はありません。あくまで、可能性の段階ですが・・・よろしいですか?」

「可能性の段階ですか・・・?」


 可能性という言葉に、チエさんの表情には少し、迷いが見えた。


「私がその話を聞いても・・・いいのですか?。」


 メーベル女王様に話せない内容なのかもしれないと、察したようで、すこし慎重になっていた。


「チエさんには、ぜひ、聞いておいてほしいのです。・・・それと、ケッセイにも」

「わかりました。すぐに、ケッセイを連れてまいります」


 チエさんは、今日の編制部隊の方へ行き、ケッセイを連れて、すぐに戻ってきた。


「チエさん、そして、ケッセイ!進化について、自分の考える仮説を聞いてほしい。しかし、現時点では実現可能性があるかどうかわからないんだ。聞いたところで何も変わらないかもしれない。しかし、もしもこの仮説を聞いてしまうと、絶対に期待せずにはいられなくなる。そして、仮説が間違いだった時の絶望は・・・計り知れない。今なら、選択肢はまだある・・・・・・どうする?」


 ・・・・・・・・。


 沈黙が流れた・・・。

 先に返事をしたのはケッセイだった。


「師匠様、私はあの時犯した罪の為、本来、ここにいるはずのない存在です。それに、進化については、ほとんど、あきらめています。しかし・・・・・周りで進化している皆のように進化できるなら・・・・もしも進化できるなら・・・・いや、進化できなくても構いません。希望をもって、戦いに臨めるなら・・・それだけでいいです。師匠様、教えてください。私の進化について!!」


 ケッセイがここに到着したときは、その目に生きる気力はないに等しかった。

 しかし、進化を希望するケッセイから少しであるが、意欲が出てきているように思われた。


「チエさんはどうしますか?」


「もちろん、聞きます」


 チエさんとケッセイは、真剣な目をこちらに向けてきた。

 決意はできているといわんばかりだった。


「わかりました。ではお話しします。チエさんもケッセイもキルアント族には毒耐性がないですね」

「はい、完全にありません」

「なぜ、キルアント族には毒耐性がないのでしょうか?」

「それは、ポイズンバットの毒を受けて、生き延びることがほとんど出来ないからだ、と推察します」


 自分は考えをまとめるように一度深呼吸をして話始めた。


「ここで、最初の仮説①です。では、どうしたら、毒耐性を獲得できると思いますか?問題はここからです。ポイズンバットの毒を受けて、生き延びたとしても、毒耐性を獲得することはできません。毒耐性を獲得するためには、毒を受けたものが、生き延びて、さらに進化しないといけない。この事が必要なんです。キルアント族は、これまでレベルアップをしてこなかった。だから仮説①を検証することができなかったのです。いや、そのことを考えたものすらいなかったと思います。この洞窟が、毒を持つモンスターばかりといった環境のせいでもあるんですが・・・わかりますか?」


環境のせいというところでチエさんとケッセイは同意するようにうなずいていた。


「そもそも、キルアント族で進化できたのは特殊個体のみ、つまり、わずかなレベルアップで進化できる資質をもったキルアントのみと考えます。そうした、特殊個体が、ポイズンバットの毒を受けて生き残り、そして、進化に至る為の偶然は計り知れないほど低いと思いませんか?」


チエさんとケッセイはここでも、声に出さずにうなずくだけだった。


「そして、ここからが仮説②となりますが・・・ポイズンバットの毒を受けて、進化をすることが出来たキルアントの進化先は新種になるということです。あくまで仮説ですが・・・」

「師匠様!」

「新種ですか!?」


 チエさんとケッセイは、驚きで体が震えていた。


「それは、毒耐性をもつキルアント族”ポイズンキルアント”となるのです」

「キルアント族に毒耐性ですか?!!」


 チエさんは信じられないといった表情をしていた。


「そして、最後の仮説です。新種へと進化するために、キルアントが必要とするレベルアップ量は非常に多いということです。つまり、バレットアント達、つまり、チエさん達がこれまで進化に必要としたレベルアップを含めて、進化するのに必要なレベルアップ量と同じくらいではないかと考えています。私の仮説をまとめると、毒を受けて、生き残って、レベルアップを多く行うことで、初めて進化可能になるということです。繰り返しますが、これらすべて私の仮説にすぎません」


・・・・・・・・・・・・・・・・・。

・・・・・・・・・・・・。


 チエさんとケッセイは、決意を込めたようにお互いに目を合わせ、その後、自分の方をむいて1度コクリとうなずいた。


「師匠様!我々は仮説を信じることにします」

「我々は、どうすればよいでしょうか?」


「まずは、もしも仮説が間違いであったとしても、絶望せずに、心を強く持って下さい。そして、これから、周りからの強い批判が続くと思いますが、決して心を折らずに、絶えて、レベルアップを行ってください。それから、絶対に、この仮説を他人に話してはいけません。今回、ケッセイは偶然、傷が浅く、生き残ることが出来ました。もしかすると、毒耐性に対する資質を持っていた可能性もあります。他のキルアント達が、真似をして、毒を受けるようになると、キルアント族に多くの犠牲者を出すことにつながります。そんなことは絶対に起こってほしくはありません。チエさん、それに、ケッセイ!約束を守れますか?」

「はい、師匠様を裏切ることは絶対にありません」


 チエさんもケッセイも同じ思いで、誓いを立ててくれた。


「私も、ポイズンキルアントへの進化の仮説検証の為、最後まで協力します。安心して下さい」


 チエさんは少しスッキリした表情で、討伐部隊へ戻って行った。

 ケッセイは、折れていた心をつなぎとめることが出来たのか、活き活きとしていた。


 ポイズンバット討伐 13日目 部隊編成

 第1部隊 第2近衛バレットアントの3名チエ・チタ・チミ

 第2部隊 レッドキルアント 3名×5列 隊長ツウ

 第3部隊 レッドキルアント 3名×5列 隊長ツエ

 第4部隊    キルアント 14名ケッセイ以外全員繭化

 第5部隊    キルアント 15名全員繭化


 キルアントのケッセイはギィとチームを組むことになった。

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