36 進化の始まり・・・そして仲間!!
ポイズンバット討伐 10日目
「今朝、数名のキルアント達に進化の印が現れたと聞いた。順調にレベルアップ出来ている証拠だ!レベルアップに個人差はあるが、レベルアップの時期はおそらく同時期に重なって起こってくるはずだ。そうしたら、訓練をしているとはいえ、慣れてないチームでの戦闘になる。チームメイトが抜けてからが、本番になると思っていい。キルアント達よ!気を抜くんじゃないぞ」
「うぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」
キルアント達の士気が下がる気配は全くなかった。
進化の印が現れたことで、次は自分の番だろうと考えているキルアント達であふれていた。そして、そんなキルアント達は、意気揚々とポイズンバット討伐に備えていることが、一目瞭然だった。
チエさんから、進化の印がでると3日以内で、繭化が始まると聞いていた。だから、今日の朝に印が出始めたキルアント達は、明日の午後位から繭化が始まるかもしれないと考えていた。
繭化でチームが欠けるなら、かけたときに考えればいい。
とにかく、今は目の前の戦闘を無事に終えるため、いつもの通りに準備を行い、戦闘を初めた・・・。
朝の戦闘が終わり、午後の戦闘も特に問題なく終えた。
南の居住区へ戻るときは、いつもギィとアリスの2名は疲れている様子がまったくない。
今日も、ギィとアリスはいつもの通りに楽しそうに話しをしていた。
「ギィちゃん、今日の戦いでも爪攻撃が鋭く決まってたね!いつ見てもかっこいいなぁ!」
「アリスちゃんの噛みつきの鋭さもすんごかったよ!隊長さん達と同じように見えたもん」
「ギィちゃんに、そんな風に言ってもらえると嬉しいわ。・・・だけど、今日は体が火照るのよね。戦闘を頑張りすぎたのかしら・・・」
いつもの話しのなかで、アリスはほんの僅かであるが不調の訴えがあった。
「体が火照る」気になるワードだった。
チエさんは、3日以内と言っていた。
進化の印が出てきたのは、今朝の事だ。
もしも、今夜から、進化が始まるとしたら、早すぎる。
しかし、進化の印が出現したスピードが早く、チエさんはその事に驚いていた。
もしかすると、今夜からの進化の可能性を考慮する必要があるかもしれない・・・。
「アリス!もしかすると、今夜から進化するかもな!」
「師匠!でも進化の印が出たのは、今朝の事でしたわ。いくら何でも、早すぎのような気がしますわよ・・・」
アリスはこれまでキルアント族の進化を見てきたから、通常の進化の流れが染みついている。
しかし、今回は、通常の進化の流れではないのだ。
まだ、アリスはそのことには気がついていない様子だった。
「まあ、可能性の話だ・・・」
独り言のようにつぶやいた。
南の居住区に到着して間もなく、アリスが近づいて話しかけてきた。
「師匠!もしかすると先ほど言っていた通り、今夜、繭化するかもしれませんわ」
「そうか、何かいつもと違うのか?」
「ええっ!・・・・体の中から熱が噴き出すように、熱くなっていますの」
そう言って、アリスは腹部を見せてくれた。
アリスの腹部はうっすらと赤くなっているように思えた。
「今日は、ゆっくり休んでいるといい。後の事は自分とギィに任せておくんだ」
「アリスちゃん、先に進化するのはちょっとずるいな!」
「でも私もすぐに追いつくからね、先に進化して待っててよ!」
「ふふふっ!ギィちゃんたら・・・」
アリスはそのまま、奥に行き横になって、眠りについていた。
しばらくすると、お尻のところから、薄く糸のようなものが出てきて、体全体を覆うように巻き付いていた。
まるで、糸が生き物のように、くるくると動いていた。
次第に、糸は、網のような形になり、アリスを取り巻いていた。
何回も何回もぐるぐると巻き付いて行き、次第に、アリスの姿が見えなくなった。
最後は完全に繭の中に入り、見えなくなっていた。
「ぎぃ、アリスは繭化したなぁ」
「2日間、アリスちゃんに会えないっす、師匠!」
「そうだな・・・ところで、ギィ、明日のポイズンバット討伐の時のチームはどうするんだ?」
「師匠!ギィは1人で大丈夫っすよ。爪魔法を3連発すればいいだけっすから」
「爪魔法を連続で打てるのか?」
「3日くらい前から、打てるようになったっす」
そういえば、数日前から自分の援護なく、アリスが1匹倒して、ギィは2匹倒すようになっていた。
ギィの攻撃力が上がったからだと思っていたが、爪魔法攻撃の連発だったことが今わかった。
「ぎぃ、爪魔法は連続で何発くらい打てるんだ?」
「そうっすねぇ!、たぶん、6発くらいはいけるっす。でも、右3発、左3発で合計6発っすけど」
後は、全部で何発打てるか、そして、後は、クールタイムがいるかいらないかの確認がいるな。久しぶりに、ギィの成長に関することを聞いて、検証したい欲求が出てきた。
「楽しみだな・・・」
「はい!、師匠っ!全力で頑張るっす!」
ギィは自分の言葉をちょっと勘違いしているみたいだったが、目の中に、強い炎が燃えていた。
※ ※ ※
ポイズンバット討伐 11日目
「師匠様!昨日、6名のキルアント達が繭化してしまいました。これまで、進化の印から繭化まで、早くても2日間は必要としていたのですが・・・。これがレベルアップというものなんでしょうか?私が、戦士として戦える間に、このような伝説の訓練を受ける機会を得れたことに心から感謝します」
ポイズンバット討伐の集合場所である中央広場で、皆の集合を待っていると、全速力で走り寄ってきたのは、チエさんだった。
到着するや否や、感謝の言葉を述べてきた。
「あっ、はっ、はい、それは良かったですね」
「あ~~~!いきなりすみませ~~~ん!」
チエさんってこんな感じだったかな。
最初はもっと、しっかりした感じだったんだけどな・・・。
最近のフレンドリ~なチエさんに少し引き気味になっていた。
「それから、今朝、あまりもの事態に、メーベル女王様にも報告してまいりました。メーベル女王様はこの事を痛く気に入り、最大限の褒め言葉をとおっしゃられました。カルナじい様とハルナばあ様は、『なぜ、わしらは、レベルアップを経験できなんだ~!』と今にも、中央広場にはせ参じようとしたところをメーベル女王様に止められておりました。そして、最後に、『レベルアップと進化』が終了した暁には、必ず王宮を訪れてもらうようにと、仰せでした。王宮がこれほど、活気にあふれて、笑顔で満ちている状態は私が近衛になってから一度も見たことがありませんでした。本当に重ねがさね感謝いたします。」
チエさんだけでなく、後からやってきた第2近衛の2人も、一緒に、感謝の意を露わにしていた。
「とにかく、喜んでいただけるのは、私たちもとてもうれしいです。あと、繭化したのは、正確には7名ですね。アリスも、昨夜、繭化しました」
第2近衛の3名にアリスの繭化の事を伝えた。キルアント族の姫だから、気になっていただろうと思ったからだ。
「おお!アリス姫さんも進化なさったのか?昨日のポイズンバット討伐の際に、眉間に進化の印が出ていたので、もしやと思ったんだ。よかったなぁ~」
一番に喜んでいたのは、チタさんだった。
アリスの事をかなり心配している様子だった。
「以前にな、アリス姫さんが言っていたんだ。キルアント族で残った王族の姫として、必ず進化していかないといけない・・・とな。ああ見えて、責任感の強い、姫さんだったんだよ。姫さんにとって、最初の進化だが、大きな一歩だったに違いないんだ。本当によかったな~うんうん」
姫様という立場だけでなく、家臣たちからの信頼もある。
将来、いい王女様になれるんだろうな。
「師匠!アリスちゃんは、素敵な仲間に囲まれているんっすね!」
ギィは、よろこんでいる近衛の3名を眺めながら小さくつぶやいていた。
「ギィ。おまえには、おれとアリスがいるだろう。何があっても、おれはギィの仲間だ!きっとアリスもそうだろう」
「・・・・・・・」
自分達の仲間だろうと再確認すると、ギィは少しの間、何かを思い出すようにだまっていた。
そして、
「すんません!師匠。自分には師匠とアリスがいたっす。キルアント族のみんなに負けないくらいの仲間っすね!」
「おお、そうだ!俺たちは何があっても、仲間だ!忘れるな!」
キルアント族の進化を機に、自分とギィは大事なことを思い出していた。




