35 キルアント族 進化の印
ポイズンバット討伐2日目 朝
「キルアントのみんな、昨日は急な休みを取ってすまなかった」
初日の夕方に起こった事態の調査と、新しく名を付けたキルアント”ケッセイ”の療養を含めた上での休みだった。
チエさんに任せていた調査に関して、今朝早くからチエさんより確認した旨の連絡を受けていたので、ポイズンバット討伐への出発前に、調査結果を皆に伝えるように返事をしていた。
「初日の夕方に起こった事態について報告がある。チエさんお願いします」
「わかりました。調査結果を報告する。皆よく聞くんだ!」
キルアント達は、第2近衛の3匹の方に視線を集中した。
「動きの悪かったキルアントは、師匠様の予想通り、ポイズンバットの毒牙をほんのわずかであるが、かすり傷を受けていました。かすり傷であったので、致死性はありませんでしたが、結果は昨日の闘いを見れば一目瞭然です。ポイズンバットの毒はそれほど強力な致死性を持つことを、皆、再度認識してください。尚、今後は出発前に、チーム内で、身体検査を実施して、傷を受けていないかを確認すること、そして、何らか不調が少しでもあれば、部隊長に申し出ること、厳命と処す。いいか!」
「了解しました!!」
さすがチエさん、第2近衛は伊達ではなく、戦士全員が真剣な表情で返事をしていた。
「後、師匠様の恩赦にて、部隊長テトと問題のキルアントは、今回の件不問となった。また、師匠様より、問題のキルアントには”ケッセイ”という名が与えられた。特別扱いは必要ないが、ケッセイに対して不等な扱いをしたものは師匠様への反逆とみなす」
部隊全員に、大きな動揺が走った。
通常であれば、キルアントの慣例に沿って、死罪になると皆思っていたのだろう。
このままだと、第2近衛の皆に対する、キルアント達の忠誠にいささか禍根を残すことになりかねない。
やはり、一言伝えておくべきだろう。
「キルアント達よ!今回の件でポイズンバットの毒がどれほど強力なのかわかっただろう。そして、私は初日に、死ぬことを禁止した。だから、今回の件で、キルアント族の慣例からは例外となる不問にしてもらった。さらに、ケッセイの名を授けたのは、皆に対する戒めだ。ポイズンバットへの大勝利で、自分たちの力を過信した為に今回の事態が生じた。いいか皆!ケッセイの名を聞くたびに、ポイズンバットの毒に対する過信を戒めるんだ!そして、全員でレベルアップと進化を手に入れてくれ」
「うぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」
動揺は、完全になくなり、キルアント達の士気も十分上がったところで、ポイズンバット討伐に出発することにした。
移動の途中で、チエさんが耳打ちをしてきた。
「師匠様、先ほどはありがとうございまいた。今まで、キルアント族に、不問という例外はありませんでいた。それゆえ、うまく皆を説得させるのが難しく感じていました」
チエさんたち、第2近衛の3匹はこの件を伝える際に、かなり、困惑していたのだろう。すこし、無理なことを押し付けていたことを少し反省した。
「チエさん達はきちんとされていると思いますよ!今回の件は、無理を通した私にも原因があるので、あまり気になさらないでください」
「やはり、師匠様は強く、そして、お優しいです。私は心より尊敬いたしております。これからもキルアント族をよろしくお願いいたします」
チエさんは、まっすぐ、自分の事を、いつものキラキラした目で見ながらそう伝えてきた。
先日より、チエさんの様子が少し変だと感じたのは、尊敬という気持ちを持っていたからなのかと理解した。
尊敬というまなざしも以外に悪くないなと心の中で思った。
チエさんが隊列に戻って行った後、部隊長のテトとケッセイがやってきた。
「師匠様、今回のあまりある恩赦、我らどのようにして返していけばよいかわかりません」
「別にあなた方が特別というわけではありませんよ。最初の目標に従ったまでです。なので、今回のポイズンバット討伐の中で、他の部隊からも死者を出さないようにしていてください。わかりましたか?」
「わかりました。全部隊に意思統一を図っていまいります。我ら、この御恩を一生忘れません。では!失礼します」
「テト隊長、ちょっと待ってくれ!」
自分に礼をして、2人は部隊に戻ろうとしていた。
隊長だけを呼び止めた。
ケッセイに関して、自分の仮説を伝えることはできないが、ケッセイが途中で命を落とすことがあってはいけないので、一言伝えておこうと考えた。
「今回、ケッセイの命を助けたことは気まぐれではない。それは判っていると思う。だから、これからの戦いでケッセイが絶対に死ぬことのないように、テト隊長、お前がしっかりと支援してやってくれないか?」
「ハッ!、もとより、ケッセイは我らキルアント族の「戒め」です。かならずや最後まで生かして見せます」
自分の考えていた内容と、テト隊長の認識が少し違ったが、まあ、結果は一緒なのでいいだろう。
そう思って2人が戻って行く姿を見ながら、間もなく、暗闇の洞窟への入り口に近づいてきたので、戦闘準備を整えた。
キルアント達!戦闘開始だ!!
水弾丸(改)網っ! 中央!
ブァッ!サ~
ーーー
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キルアント族の動きは、初日よりもさらに洗練されていた。休憩日を利用して、反省と訓練を行っていたんだろうということが、十分にわかった。
ポイズンバット達の動きはいつも通りだったので、2日目の朝も完全勝利を得ることが出来た。
「皆、よくやっている。このまま頑張って行こう!」
※ ※ ※
10日を過ぎたころに、キルアント達に変化が現れてきた。
「師匠様、先ほど隊長達から報告がありました」
第2近衛のチエさんが大慌てで、私たちのところまで、報告するためにやってきた。
「キルアント数名に、特殊進化の証である眉間の印が現れたのです。部隊では、朝から大騒ぎになっています。こんな短期間で、眉間の印が現れることはこれまで1度もありませんでしたから・・・」
チエさんは大きな笑顔で、目をキラキラと輝かせて話していた。
「チエさん、私の方を見ていただけますの?」
「アリス姫様どうされましたか?」
「チエさん、私のここ で す わ よ!」
アリスはチエさんに自分の眉間の印を見せた。
「おお!アリス姫様の眉間にも特殊進化の印が現れたのですね」
「朝起きたときに、ギィちゃんから教えてもらったんですのよ!昨夜は、何も印がなかったのですが、朝になって急に現れたんですの」
アリスは、自分が進化するのは当然と思っていたようだった。
しかし、もしも進化の印が出ないときはどうしようと心配していたのだろう。印が出ていることをしって、ほっとしていたようにも見えた。
「アリス姫様おめでとうございます」
「チエさん、ありがとう存じます」
2人は嬉しそうに報告し合っていた。
「とにかく、進化の兆しが見えてきたのはよかった。ところで、チエさん、聞いてもいいですか?進化はいつ始まるのですか?」
「師匠様はご存じないですよね。では、説明いたします。今までは眉間の印が出ると、約3日以内に繭化します。繭化後は2日を経て進化後の姿で出てきます」
「では、繭化した後の部隊の編制はどうしますか?」
予備のレッドアント達が、穴埋めにされるだろうと思ったが一応確認の為に聞いてみた。
「予備のレッドアント達が空いた穴を埋めていきます」
「チエさん、慣れたチームと急造チームではチーム練度が変わるのではありませんか?」
「ご安心下さい。すでに訓練の中でシャッフルチームでのシュミレーションを済ませています」
キルアント族の戦闘訓練に対する備えは、すごいなと思った。
確かに、このポイズンエリアで毒耐性のないキルアント族が生き残るためには必要なことだったんだろうと感服した。
もしも、今回、自分の予想が成功すれば、新しい時代を作るきっかけになるのではと独り強く期待した。
「それなら、安心して、ポイズンバット討伐の継続が出来ますね」
読んでいただきありがとうございます。




