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33 キルアント その名を”ケッセイ”

 キルアント達の大歓声の中、動きの遅れたキルアントが、涙を流し、おびえ、震えていた。

 そして、何度も謝罪してきた。


「師匠様、すみませんでした。本当にすみませんでした。すみません。私の行動は許されるとは思えません。本当にすみませんでした。私が至らなかったばっかりに、師匠様が、ポイズンバットの攻撃を受けてしまって・・・。毒のダメージは・・・。本当にすみません。しかも、私も師匠様に攻撃をしてしまって・・・。すみません。それと、助けて頂いてありがとうございます。この御恩は一生忘れません。ありがとうございます。そして、すみませんでした。その、それから、ギィ様もポイズンバットの攻撃を受けていましたよね。いや、あの、受けていらっしゃいました」

「ギィ様は、大丈夫なのでしょうか?」


 状況に混乱しているのだろう、本人も何を言っていいのかわからなくなっているようだった。


「私に、お前の攻撃やポイズンバットの攻撃では、たいしたダメージはないよ。とにかく、お前が毒ダメージを受けなくて良かった。だれでもいい、こいつを保護してやってくれるか!」


「ハイ、私が保護いたします。」

「えっと、お前は?」

「ハイ、私は部隊長のテトです。私のチームの部下が大変失礼をいたしました。あと、助けていただいて本当にありがとうございました。」


 遅れたキルアントのチームの部隊長でテトといった。気丈にふるまっていたが、自分の部下の失態に怒りと悲しみの混じった様子で震えていた。


 隊長と同じチームの仲間に連れられて、遅れたキルアントを支えるように連れて行った。


 第2近衛の3匹は状況を収拾して、隠れ洞窟に向かって岐路についた。


 途中、気になったので、チエさんに遅れたキルアントについて聞いてみた。


「チエさん、さっきの動きのおかしかったキルアントはなんだったんだ!!」


 自分は語気を強めて、問い詰めるようにチエさんに言った。


「すみません、師匠様、現在確認中です。しかし、あのような失態、大変申し訳ありませんでした。何か不調だったのかもしれませんが、それを隠していたことに憤りを覚えます」


 自分の中で、1つ気になっていたことがあった。朝の戦闘時に攻撃がギリギリだったキルアントがいた。完全にポイズンバットのポイズンファングをよけきれていなかったのではないかという疑問があったのだ。


 この点は昨夜心配していたところだった。


 毒耐性のないキルアント族がほんの微々たる毒を受けた場合、その時は何ともなくても、時間がたってじわじわと微毒の影響を受け始めることがあるのではないか?


 それを心配していたはずなのに、周りの大勝利といった喜びように自分も浮かれてしまっていたのは事実だった。


 とにかく、今後の事も含めてほんのわずかなかすり傷ですら毒の影響を受けることがわかった以上、今回の件は厳重に注意をしておいてもらわないといけない。


「次にあのような事態になった時に、今回のように、無事に事態を収めることが出来るかどうかわからないので、原因を必ず突き止めるようにするんだ」

「ハイ、必ず原因を突き止めます」

「ところで、さっきのキルアント達はどうなるんだ?」


 必ず聞かれる質問だと思っていたのだろう。考える間もなく決定事項のように話してきた。


「今回の件に関して、国賓である師匠様だけでなく、ギィ様にも被害を出しました。その原因となったキルアントはほぼ死罪確定となります。そして、部下の体調の不調の管理を出来なかった部隊長テトも合わせて、死罪となるかと思います。我々の慣例に則って、処分が下されると思います」


 うわぁ~!厳し~な~!

 命の重さが軽っ!


 ないわぁ~。

 あれで死罪なんて、やっぱり厳しすぎるわっ!


 自分はこの部隊全員が、すべて進化できるまで、死者を出さないと誓っていたから、死罪ということばに対して、強烈に忌避感を感じた。


「チエさん、2人の死罪は却下してくれ、そして、部隊編成もそのままで頼む」

「ハイ?すみません、今なんといわれましたか?」


 いつもはキラキラした目をしているが、自分の予想外過ぎる言葉に目を丸くして、驚いていて、聞き直してきた。


「2人の死罪は却下してくれ、そして、部隊編成もそのままで頼む。そういったんだ」

「・・・ですが、キルアント族の慣例では、おとがめなしは難しいかと・・・」

「わかった」


 自分が納得してくれたと思い、チエさんはほっとしていた。


「なら、命令だ!2人の死罪は却下、部隊編成もそのままにするんだ。それが出来ないなら、キルアント族と私たちと・・・いや、私だけでも構わない。キルアント族と私とで全面対決となるが・・これは脅しでもなんでもないぞ」


 チエさんは自分の発言に対して、恐怖で動きが止まっていた。


「どうした、返事は?2人の処分はどうなるんだ?」

「はい、申し訳ございません・・・2人の処分は不問にいたします。メーベル女王様にもそのように申し上げます。しかし、なぜ、そのようにあの者たちをかばうのですか?」


 先ほどの威圧の後だったので、チエさんも少し動揺していたが気になったのだろう。


「朝の戦いの際に、ポイズンバットへの攻撃がギリギリだったキルアントがいたんだ。もしかして、ほんのわずか・・いや、そいつも気づかないくらいの毒を受けていたのかもしれない。その毒が、少しづつ、ゆっくりとキルアントを犯していったため、午後の集合時には本人も認識出来ていなかったのかもしれない。それに、最初に言っただろう。誰も死んではいけない、死ぬのは禁止だ!とね!」

「わかりました。そういうことでしたか。師匠様はお優しいのですね」

「そんなことはないよ・・・」


 そう返事をしていたが、今回のキルアントには気になる事があった。それは単なる仮説でしかない、しかし、その結果には進化が必要だろうという部分もあった。


「そうだ、チエさん?あのキルアントの名前は何というんだ?」

「特に名は持っていないはずです」


 隊長には名があったが・・・、そう思ったが、命の軽さから、隊長クラスにならないと名前をもらうことはないんだと理解した。


「そうなのか、それなら、あのものにケッセイという名前を与えてくれ」

「はいぃい?なぜ、そこまであのキルアントに温情をかけるのですか?」


 単なる仮説の検証でしかないとはいえず・・・嘘をついた。


「今回の私の対応が、キルアント族の慣例をまげてしまうことになるとすると、ケッセイが何らかの形で不利益を受けてしまうかもしれない。だから、自分が名を与えたことにすると、無碍には扱われないだろう。そう思うんだが・・・」

「たしかにそうですね。それにしても、あんなに末端のものにも、とてもやさしいのですね・・・」

「無理なこととは思いますが、頼みますね、チエさん。まあ、こんなことを頼めるのもチエさんだけですから」

「えっ、いっ、いいえ、わかりました。ではあのキルアントには”ケッセイ”という名を授けておきます」

「あっ、それと、明日は一日療養日とします。ケッセイの状態をしっかりみて、不調を直してあげてください」

「えっ!あっ・・・はい。わかりました。必ず」


 特に威圧をかけたわけでもないのに、チエさんは何か動揺していたように見えた。


「どうかしましたか?チエさん」

「いえ、なんでもありません・・・」

「では、明日はゆっくり休んで、明後日の朝にレベルアップの討伐をしましょう」


 最後は少し変な感じがしたが、チエさんは、メーベル女王様に今回の件を報告にいくとのことで、王宮に戻って行った。


 チエさんとの話が終わって、後ろでアリスと楽しそうに話していたギィに、高速移動のについて聞いておきたいことがあった。


「アリスと楽しそうに話しているところわるいんだが、最後ものすごいスピードで走って行ったよな、あれは何だったんだ?」

「そうなんすっよ!あれ、自分でも何だったのかわかんないっすよ!でも、私が守らないといけない、そして、師匠の思いに応えないといけない。そう思った瞬間、ものすごいスピードで走れたんっすよね~!」

「もう一つあってな。あの暗闇の中で、どうやってポイズンバットの居場所が分かったんだ?」

「あーーーーーーーー。たぶん、勘っすよ。ははははっ」



 自分では全く理解できず、勝手になった上に、居場所は勘って・・いったい、ギィの戦闘能力はどうなっているんだ・・・まあ、これ以上ギィにきいても埒が明かないと思って、アリスにもたずねてみた。


「側にいたはずのギィちゃんが、いきなりいなくなったので詳しいことは分かりませんが、あんなに距離があったのに間に合ったのは、もしかしたら、魔法かもしれませんわ」


 自分も魔法かもしれないと考えていたので、アリスの言葉を聞いて、魔法の可能性を考慮に入れて話した方がいいと考えた。


「ギィ、アリスの言う通り、自分も魔法の可能性を考えていた。明日は、一日休みなので、今日のスピードで走れるかどうか、色々試してみてもらえないか?」

「はいぃぃいい!他でもない、師匠の頼みっすね!必ず成功させますんで、明後日を楽しみにしてもらっていいすかっ!」

「おっ!おお!楽しみにしてるぞ!」

「では、師匠!先に帰って、どうしたらいいか考えてみますんで、お先に失礼いたしやっす!」


 自分が頼んだのがうれしかったのか、ものすごいスピードで帰って行った。


「師匠!ぎぃちゃんすでに先ほどのスピードがでているように思えるんですが・・・。どうおもいますの?」

「そうだな、ていうかさっきより早いんじゃないかな・・・」


 2人とも、やっぱりあのスピードは魔法に違いないと確信していた。

読んでいただきありがとうございます。

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