32 ギィの高速移動・・・?
ポイズンバット討伐が大成功に終わり、キルアント達は一度、隠れ洞窟に戻って、その場で解散となった。
チタさんとチミさんはメーベル女王様への報告があるからと、王宮に向かった。
チエさんとは、今後の話しがあるため残ってもらった。
「チエさん、ポイズンバット討伐でのレベルアップは実現可能であることがわかりました。そして、これを繰り返していくことで、レベルアップを図り、進化の可能性を探っていきたいと考えます。私の経験上、この洞窟内ではモンスター達は朝と夕方に再生?!してきます。キルアント族もそうだと思っていましたが、そこは、違っていました。何がちがうのでしょうねぇ・・・」
ラクーン洞窟内は毒持ちモンスターが数多く存在している、しかし、毒耐性を持たないそんなキルアント族は、少し違和感を感じざるを得なかった。
だが、今はそんな謎を考えている場合ではなかったので、チエさんには午後の戦闘について確認をした。
「とにかく、次のポイズンバット討伐は夕方になります。戦士たちに、傷や負傷はないですか?」
「そういった報告は受けてないです。見た目にも、大丈夫でしょう!」
「それは、よかったです。しかし、初戦の勝利でうかれていると、その油断が、次の大きな失敗を導いてしまうといいます。次の戦闘は要注意です。この侵攻で、キルアント族達が命を落とすことのないように、厳に注意しておいてください」
「しっかと、注意しておきます。私も、少し浮かれていた部分がありました。ありがとうございます。さすが、師匠様です。全てにおいて完璧ですね。まいりました」
いや、褒めすぎだろ・・・!しかも、目がキラキラしているよ~!
まあ、自分も、ちょいちょいうっかりしてしまうので、重々気を付けておこうと心に思った・・・・・。
しかし、喜びに紛れていたせいで、自分も昨夜に感じていた不安の事をすっかり忘れてしまっていた。
数時間の後、中央広場に午後のポイズンバット討伐の為に集まっていた。
「キルアント族のみんな!、しっかり休養は取れましたか?これから、午後の戦闘になります。初戦のように大勝利を収めましょう!!!」
「うぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」
相変わらず、意気揚々の戦士たち。士気の高さも十分ですね。
そんなことを考えながら、暗闇の洞窟へ向かった。
「ギィ、アリス!朝と同じだ!準備はいいか?」
「はい!抜かりはないっす!師匠!」
「意気込みも十分ですわ!師匠!」
2名は、意欲も気合も十分に乗っていた。
同じように、第2近衛の3匹も、落ち着き払っていた。
そんな自分の視線に気が付いたチエさんが声をかけてきた。
「今朝の初戦に関して、メーベル女王様にカルナじい様とハルナばあ様も涙を流して喜ばれておりました。ハルナばあ様は『あやつが来て、涙もろくなってしもうたわい』と照れくさそうにしておりました。メーベル女王様の代になって、浮かれた話が少なかったので、キルアント族を上げて、祝いの場を作らねばならないと皆浮かれています。気の早い話です・・・」
こう話をしているチエさんも、ずいぶん嬉しそうに目をキラキラさせながら、熱弁をふるっていた。
「それでは、侵攻開始します!」
午後は、第2部隊と第3部隊が入れ替わり、他は同じメンバーで編成を終えていた。
そして、暗闇の洞窟の前に到着した。
自分の準備を整えて、ポイズンバットの飛行ラインを確認した。
ポイズンバットの攻撃エリアに入るとすぐに、急降下を初めてきた。。
水弾丸(改)網っ!右少し上空っ!
ブァッ!サ~
ギィもアリスも、危なげなく攻撃を当てて、確実にポイズンバットを倒していた。
その後の、第2近衛の3匹、レッドキルアント達と順調にポイズンバットを倒していった。
第2部隊と第3部隊が入れ替わっていたが、何の問題もなかった。
しっかり、午前中の戦闘の引継ぎとそれを踏まえて訓練が出来ていることが見て取れた。
「レッドキルアント達は問題ないな!次はキルアント達!、朝の戦いでは上手くいったが、攻撃ルートの確保を怠るなよ!」
水弾丸(改)網っ!朝と同じく、左側に連続で来ているぞ!
ブァッ!サ~
朝の戦闘後に、対策と訓練を行ったのであろう!。
まるで、きれいな模様をみているように、攻撃から移動がスムーズに行われていた。
水弾丸(改)網!を次々に発射し、キルアント達も確実にポイズンバットを倒していった。
「いいぞ、後、2ターンだ!」
朝の攻撃の際、とてもいい動きをしていたチームの番だった。
動き出すタイミングは問題なかった。
しかし、そのうちの1匹の動きが鈍かったのだ。
「おいっキルアント!1匹動きがおかしいくないか!どうしたんだっ!」
移動ルートには問題なかった。しかし、中央寄りの1匹が完全に置いて行かれる状況だった。
水弾丸(改)網ですでに、ポイズンバットを拘束していた。
3匹のポイズンバットの内、右側と左側は問題なく倒せた。
しかし、中央のポイズンバットに噛みつきを行えたのは1匹だけだった。
キルアント1匹だけの攻撃では、ポイズンバットを倒しきれていなかった。
攻撃を済ませた、キルアントは何とか回避をしていた・・・。
しかし、遅れた1名のキルアントが攻撃をしようとした時には、水弾丸(改)網の効果はなくなっており、ポイズンバットが攻撃態勢を回復していた。
遅れたキルアントもすでに攻撃態勢にはいっていたので、ポイズンバットのポイズンファングをよけることはできない状況だった。
さらに動きに精悍さが欠けているようにも思えた。
このままでは、よくて相打ちになり、確実にキルアントのあいつは毒をうけてしまう・・・。
「だめだっ!間に合わないっ!助けて!」
弱々しい声で、キルアントは助けを呼んでいた。
しかし、間に合わせられるものは今はいない。
水弾丸(改)槍で倒せるかもしれない!
しかし、間に合わないだけでなく、誤射の可能性もある・・・。
頭では迷いながらも、すでに、自分の体は、キルアントとポイズンバットの間にジャンプで飛び込む体制に入っていた。
ジャンプをしながら、魔法を唱える。
ウルトラソニック!
効果は前方のキルアント、ポイズンバット、それに、後続の3匹のポイズンバットに影響した。一気に5匹の動きが低下した。
何とか時間が取れたので、自分はキルアントとポイズンバットの間に飛び込むことが出来た。
しかし、それでも双方の攻撃を受けることになった。
痛っうううう!
体の両サイドに痛みが走ったが、このままでは後続から来ている3匹のポイズンバットに、後ろで控えているキルアント達が蹂躙されてしまう。
「キルアント達は俺が守るんだああああああああああああああ!」
自分は必至で、側にいたポイズンバットに噛みつきを行って倒した。
奥のポイズンバットは攻撃を終えたキルアント達に向かっている。
水弾丸(改)網では間に合わない。
5番目のキルアントのチームには申し訳ないが、ポイズンバット3匹に水弾丸(改)槍を3連射した。
残ったポイズンバット3匹の内の2匹は何とか倒すことが出来たが、1匹は外れてしまい、そのまま、急降下で攻撃を終えたキルアント達に向かって行った。
しかし、暗闇の中で姿のみえないポイズンバットの攻撃にキルアント達は慌てだしていた。
「ギィィぃぃぃぃいいいっ!キルアント達を守ってくれ!」
水弾丸(改)槍が外れてしまったポイズンバットに対して、再度、水弾丸(改)槍を放つと、キルアント達に当たりそうだった為、次弾を発射する攻撃が出来なかった。
そのため、ギィに声をかけた。
しかし、ギィがキルアント達を守る為にポイズンバットに向かうには距離がありすぎた。
それだけでなく、暗闇の中でギィはポイズンバットの姿が見えないはずだった。
それでもギィに何とかしてほしいと願いを込めつつ、昨夜に心配していたことを思い出して取り返しのつかない事になってしまったことで胸が押しつぶされそうな気持になった。
ウルトラソニックで飛行スピードが落ちているとはいえ、キルアント達に被害を出さずに守り切ることはギィの場所だけでなく視界不良も合わさって完全に無理に見えた。
無常にもこの中で、自分だけが状況の全てを把握していることにくやしさと悲しさの混じった気持ちが強烈に湧き上がってきた。
「くそぉぉぉおおおおお!。守れないかぁぁぁあああ!」
自分は悲痛な声を上げた。
それとほぼ同時だった。
ギィの歩行速度が、異常なスピードで走り出したのだ。
それは、素早さの上がっている自分ですら、見落としそうなスピードだった。
「爪攻撃っ!」
ギィは攻撃態勢のまま、ポイズンバットと隊列も乱れて混乱しているキルアント達の間に割って入った。
ポイズンバットの攻撃を体で受けて、それと同時に、自分の爪攻撃をポイズンバットにたたき込んだ。
ポイズンバットは動きを止めた。
一瞬の沈黙が起こった、その後、状況を認識したキルアント達から歓声が上がった。
「うぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」
キルアント達は皆、力いっぱい喜んでいた。
「よっしゃぁぁぁぁああああああああああああ!」
自分も、もう無理といった状況を改善できたことに、安堵して、力いっぱい声を上げた。
そして、思った・・・・。
あのギィの動きはなんだったんだ・・・・・。
読んでいただきありがとうございます。




