30 選抜戦士!!
「師匠様、準備が整いました」
第2近衛のチエさん、チタさん、チミさんの3匹が南の居住区まで迎えに来てくれた。
メーベル女王様との面会から約5時間位経過していた・・・気がする。
・・・勘だけど。
「私が思っていたよりも編成に時間がかかりましたね」
1時間もあれば・・・時計は無いけど・・・キルアント族の戦士50程度ならばすぐに集めることはできるだろうと思っていた。
なぜならこの隠れ洞窟を通過している間に見たキルアント族は少なくとも1000以上はいるように見えたからだ。
「申し訳ありません。これには色々事情がありまして・・・」
チエさんが申し訳なさそうに返事をした。
「やはりこの侵攻は無理がありましたか・・・。私が提案したばっかりに・・・お手数をおかけして申し訳ありません。やはり、中止・・・」
キルアント族にとっての暗闇の洞窟はやはり強烈な恐怖の対象なんだろうと思って迷惑をかけたことを詫びて、中止を申し出ようとすると、チエさんが驚き目を丸くして、返事を中断するように答えた。
「・・・いえいえ違いますよ!師匠様!」
そして、一呼吸してから話を続けた。
「私たちも共有意思を持っていて暗闇の洞窟へ立ち向かう心の強い意思を持つ戦士は50~60くらいだろうと思っていました!」
「そうですよね。やはり、暗闇の洞窟はキルアント族にとっては恐怖の場所ですもんね」
あれ!?さっき否定していたよね。
「その通りです。最初は師匠様のお考えの通り参加を希望してきたのは数匹でした。しかし、これでは申し訳が立たないと思いまして、師匠様がラージバットに勝利した話をしたところ、なんと、あっと言う間に約500の戦士が乗りを上げまして・・・・」
「えっ500ですか?」
突然増えた数に驚きを隠せなかった。
「それだけじゃなくてカルナじい様やハルナばあ様まで『侵攻メンバーに加えろ』や『ラージバットに積年の恨みを返すのじゃ』と言い出してきたのです」
「さすがに、それはまずいでしょう」
「そうです。さすがにカルナじい様やハルナばあ様に何かあれば、メーベル女王様を守るものがいなくなります。こうなってくると、メーベル女王様を巻き込む大問題になってしまって、メーベル女王様もこれでは侵攻を止めざるをえないと結論を出す直前までなりまして・・・いや~、それはもう、大騒ぎでした」
チエさんは、口では困ったようなことを話していたが、とてもうれしそうな雰囲気で語りだした。
「わかりますか?50の枠に約10倍の500程の戦士が集まったのです。この不遇な時代に心が折れかかっていたキルアント族にとって、どれほど心を揺り動かすことになったことでしょうか。それはもう私この時代に生まれたことを、心から神様に感謝いたしました」
チエさんは興奮して少し涙目になっていた。
「まあ、私の興奮はともかく。選抜方法として、同ランクで3匹1組のチームを組んでもらい、レッドキルアントを除く450を5つのグループに分けてそれぞれのグループで勝ち抜き戦を行ったんです。もう、これは非常に盛り上がりました」
チエさんは身振り手振りで興奮冷めやらぬ様子で話し出した。
「そして各グループの1位と2位のチームを選抜戦士としてキルアント30匹を選出し、レッドキルアントは15匹を1グループとして2グループを選出しました。そして、我々第2近衛をいれて選抜戦士は総勢63匹となりました」
チエさんの話は止まらず続いた。
「戦士たち各々が死力を尽くして戦う姿はこれまで行ってきた戦闘訓練とは比較にならないほど、覇気を感じることが出来ました。もちろん多くのケガをしたキルアントもいましたが、それに見合うほどの大会となりました。この選抜に関してはメーベル女王様もいたく気にいられ、最後は選抜戦士チームにお褒めの言葉が与えられました。もう、とても名誉なことでした」
チエさん、チタさん、チミさんはこの選抜がいかにすごかったかを、何度も何度も体全体を使って表現してくれた。
それでも、表現しつくすことが出来ない選抜の様子を自分やギィやアリスに見てもらいたかったと大変悔やんでいた。
「現在、宮殿前広場に60匹を待機させておりますので、よろしければお越しいただけないでしょうか?」
興奮冷めやらぬ様子で、息を弾ませながらチエさんが提案をしてきた。
「私たちの準備は出来ておりますので、待機しておられるならこのまま参りましょう」
チエさんの様子があまりにも前のめりな感じだったので断るのも申し訳なく思い、チエさん達に連れられて、自分、ギィ、アリスは宮殿前広場に向かった。
到着すると、そこには怪我をしているキルアントも多数いたが、覇気に満ちた猛者たちが理路整然と並んでいた。
第2近衛に連れられて、選抜戦士達の前に誘導された。
30匹のレッドキルアントと30匹のキルアント達の視線が一気に自分達に向かって注がれた。
あまりにも多く感じたため、共有意思の拡張ができるか不安だったが、特に、問題なく全員とつながっている感覚を受けた。
周辺で残念そうにしているものや、家族らしきキルアント達も大勢が周囲を囲むように集まっていた。
ふと気が付くと、そのざわめきが聞こえてきた。
あれ!?
共有意思の拡張で聞こえてくるのは、共有意思のスキルをもったキルアント達だけのはずだが・・・。
そう思っていたが、耳を澄ますと、間違いなく周辺にいるキルアント達の声も聞こえて来た。
共有意思のレベルが上がったのかな!?
でも、共有意思にレベルは無いんだけど・・・。
まあ、聞こえるのはそれで構わないからいいか!?
「皆、聞くのだ!この蛇神様が我々キルアント族に光をもたらしてくれた。それは、我々キルアント族の戦士がだれでも進化できるという希望を与えてくれる。我々はこの命に代えても、この暗闇の洞窟への侵攻を成功させるぞ!!」
「うぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおお!!」
チエさんの激が飛ばされた直後、選抜戦士たちは体の底から湧き上がるような声で叫んでいた。
おいおいおい!チエさん。
いつの間にか私、神様にされてないかい・・・!?
それはいいのかい!?
「アリスちゃん、師匠、神様になってるね。ふふっ」
「ほんとだね、びっくりした。師匠、蛇神様になってるね。ギィちゃん!」
いやいや、二人とも喜び過ぎじゃないかい!
まあ、神様でも何でもいいか。
神様と呼ばれた方が都合がいいなら、それでいくのもありかな。
それにしても、自分が神様ねぇ・・・・。
正面にならんでいる戦士たちに、自分も一言、激をとばそうと少し前に出た。
「みんな聞いてくれ!出発前にこんな事を言うのはいけないかもしれないが、まず初めに何があっても死んでもいいと思うことだけはやめてくれ」
自分の第1声に、選抜戦士たちから大きなどよめきが響いてきた。しかし、それを無視して話を続けた。
「ポイズンバット達はスピードもあり暗闇の中で見えない為、はっきり言ってキルアント族よりも強い。それは皆知っていることだ。しかし、私にとっては敵ではない!」
少しはっぱをかけすぎかと思ったがこれくらいはいいだろうと続けた。それでも、選抜戦士たちから大きな歓声が上がった。
「それは、選抜戦士の君たちも同様だ!私がいればポイズンバットたちは敵ではない。ただし、ポイズンバットたちのスピードをかいくぐって、戦闘に勝利するためには私と君たちとの連携が必須だだ。わかるか!!」
選抜戦士たちの声は一層盛り上がっていた。
「この連携を怠ればケガをするもの、場合によれば死をもたらすことになるかもしれない。だから攻撃するときは一撃必殺のもてる最強の攻撃で行ってほしい。選抜戦士のみんなっ!いいかっ!やれるかっ!いや、やるぞぉっ!!」
「うぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおお!!」
この後、2日間を通して攻撃の連携の訓練を行った。
レッドキルアント達はさすがしっかりと連携が取れていたが、キルアント達は2チームが同時に攻撃するということもあり、最初の方は連携に乱れを感じたが、2日目の後半ではさすが何とか物になっていた。
もちろん、ギィやアリスもこの連携の訓練に参加していた。
アリスにとってはもともと同じ種族だから、動き自体もよくわかり、連携を取りやすかった。しかし、ギィは種族も違えば、連携を取った事もない。
アリスはそんなギィのことを心配して訓練に誘ってくれていた。
ギィは持前の戦闘能力ともともとの攻撃力もあり、2日間で、動きや連携は問題ないレベルまでアップしていた。
それだけでなく、ギィの素直さとアリスの協力もあり他のキルアント族達に受け入れられて、完全に打ち解けているように見えた。
自分はというと、蛇神様、蛇神様とたたえられているように感じたが、ほんの数日前まで敵通しで、しかも大量に倒してきた相手だったため複雑な気分だった。
しかし、死ぬものが出ないように細かいところまで指示を出して連携に協力した。
密度の濃ゆい2日間をすごしてきた後、侵攻を翌日に控えギィとアリスと自分は南の居住区でゆっくりとしていた。
「アリスちゃん、みんなのやる気がすごいね。一緒に訓練していて自分も仲間になったような気持ちになったよ」
「ギィちゃん、私も同じように思ったよ。頑張って、レベルアップと進化しようね」
連携はうまくいってる・・・と、思う。
アリスの模擬戦で感じた噛みつきがあればポイズンバットなら一撃で何とかなるだろう。
しかし、明日からのポイズンバット討伐においてただ一つ心配なことがありそれが引っかかっていた。
これだけ訓練しているんだ。
きっと大丈夫だろう・・・考えてもしょうがないか。
明日からに備えて睡眠を取っておくことにしよう。
考えても結果は変わらないと考えた。そして、ゆっくりと休んでいるギィとアリスの側で、一緒に眠りについた。
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