28 キルアント族のレベルアップと古い伝承
自分、ギィ、アリスがありんこ洞窟を越えて先に進んでいくためには、もうワンランク進化が必要だと考えていた。
自分とギィは、当初このキルアント族の討伐でレベルアップを考えていたが、アリスのことや、休戦協定を結んでしまったので、それはできなくなった。
そうすると、次にレベルアップを行えるのは、こうもりとでかこうもりでだ。
しかし、緑エノキの残りが少なくなっている住処の洞窟では、拠点としては物足りない、そういう状況の中、このキルアント族の隠れ洞窟は、食料だけでなく、緑エノキも豊富だったのだ。
「お願いとは何でしょうか?、我々にできることであれば、協力を惜しみませんが・・・」
「では、申し上げます。この隠れ洞窟をしばらく拠点として生活させて頂きたいのです」
「その程度の事でしたら、いつまでいても構いませんが、生活をして、どうなさるおつもりですか?」
「レベルアップと進化です」
自分が目的を伝えた瞬間、なぜだがわからないが突然、周囲がざわめき出した。特にメーベル女王様の横に控えていたバレットキルアント達は大きく動揺しているようだった。
「メーベル王女様、横から口をはさむことお許し下され」
驚いた顔で、カルナじいさんが話だした。
「・・・レベルアップ、今そういうたか?師匠殿」
「はっ・・はい、それがどうかしましたか?」
あれ、レベルアップさせることをキルアント族の前で話しちゃだめだったか・・・・。
カルナじいさんなんか怒ってる!?
そんな風には見えないけど・・・。
「我々の古い伝承の中に、レベルアップという言葉が出てくるのじゃ。なんでも、レベルアップをすることで、伝説のクイーンに進化できるといわれておる」
ああ、そう言うことか。
レベルアップという言葉は伝説の中にある言葉だったのか。
「えっ!でも、レベルアップの為の狩りをしないなら、現在の進化はどうやって行っているのですか?」
「それは、日々の訓練と年を重ねることじゃ。じゃから、姫さまでも、戦闘訓練に参加せんといけんかったんじゃよ。まあ、訓練だけでは進化できんものもおる。進化出来るんは特殊個体のみじゃったから・・・」
特殊個体!?
ああ、ゲームで経験値が倍入ってくるような特典みたいなものかな・・・。
「ほれっ!我々の眉間を見てみぃ。丸い点のような印が3つあるじゃろぅ。訓練をして、この丸い点が現れたものだけが進化ができるのじゃ」
周囲のキルアント族を見回してみた。
本当だ、第2近衛の眉間には、丸い点が2つしかない。
進化の段階で印の数が違うのか。
いくら何でも、戦闘は必ず起こるはずじゃないのかな!?
「これまでに、他のモンスターと戦うことがあったはずじゃないですか?」
「戦うことは確かにあった。というより、戦いにすらならなかったのじゃ。おぬしも知っておろう。我々では暗闇洞窟にいるポイズンバットには勝てんのじゃよ。あやつらは我々の場所がわかるのに、我々にはあやつらの場所がわからん。しかも、あやつらのスピードには攻撃を当てることすらほとんどかなわんのじゃ」
カルナじいさんの表情に若干の苦悩のうなものが見て取れた。
「それだけじゃなくてな。我々キルアント族に毒の耐性を持つものが、独りもおらんということじゃ。じゃから、我々が生き残るためには、この隠れ洞窟で細々と訓練をする道しかない・・・」
カルナじいさんは、キルアント族の不遇な環境に涙を流しながら、切々と語った。
だけど、これだけの数のキルアントがいて、独りも毒耐性を持つものがいない・・・・。
そんなことってあるのか!?
まあ、そんなことよりレベリングの事を話しておかないと。
「私はあなた達キルアント族との闘いで、レベルアップと進化を獲得しました。ギィもスライムとポイズンバタフライとの闘いでレベルアップをしていると思われます。・・・どうでしょう!我々が滞在中にポイズンバットと戦いを支援させてもらえないでしょうか。もしかするとキルアント族がレベルアップできるかもしれません。まあ、実際に出来るかどうかは、わからないんですが・・・」
自分に策はある。
というか、今やってる対策をキルアント族みんなでやるだけだけど・・・。
「そうは言うても、我々はポイズンバットに太刀打ちできんというたではないか・・・」
「いえ、私に策があります。どうでしょう?まあ・・・いずれにしても、アリスとギィのレベルアップと進化の為にはキルアント族の参加の有無は関係なく実施するんですが・・・」
ギィとアリスのレベルアップと進化であれば、キルアント族の協力は必要なかったが、キルアント族の不遇な状況を聞いて、何とか報いることが出来ないかと思ったのだ。
まあ、無理にとはいわないが、自分が頂いた経験値分くらいは恩返ししたいじゃないか!
「カルナじいよ!、師匠様のご提案に乗ってみてはどうでしょうか」
メーベル女王様が私の提案に対して口添えをしてくれた。
あ、メーベル女王様が乗ってきた!
「・・・わかりましぞ。メーベル女王様がおっしゃるんじゃ。引き受けんこともできまい。わがキルアント族の大事な精鋭を、あなたに預けることにする。すまぬが、しっかとお願い申し上げるのじゃ」
カルナじいさんは、一族の事を本当に大事にしているんだなぁ
そんなカルナじいさんに報いることが出来るように、そして、必ず全員生きて成長できるようにしようと誓った。
「では、自分の考えた策をお伝えします。ですが、その前にまず見てもらいたい魔法があります。中央を少し開けていただけますか?」
カルナじいさんが、号令をかけると、周囲にいたキルアント族が中央を開けるように左右に広がっていった。
「水弾丸(改)網!」
ブァッ!サ~
中央に向けて、水弾丸(改)網が広がった。
「師匠殿、それは、我々に攻撃してきた魔法とは幾分違うように見えるんじゃが・・・なんか、ポイズンバットに対して効果があるんじゃろうか?」
あんまり強そうには見えなかったのだろうな。
この世界に網なんてものはないしな。
そう言えば、この洞窟に蜘蛛はいないしな。
先々には出てくるのかな・・。
「効果はあります。これは私がポイズンバットを最初に倒した時に使用した魔法ですので・・・そして、この魔法こそが、今回の策の中心になります。しかし、これだけではありません。私には、ポイズンバットの控えている場所と飛行ラインがわかるのです」
メーベル女王様と近衛達全員は驚いて、お互いに何かを話し合っていた。そして、あまり我々の会話には興味を持っていなかったように見えたハルナばあさんが話しかけて来た。
「なんじゃ、おぬしは、暗闇でも目が見えるのか?」
うわぁ、なんかこのばあさんこえぇ。
「いや・・・見えるというか・・・わかるのです。だから、先ほど見せた網の魔法でこうもり達を捕まえる訳です。まあ、網の魔法はすぐに消えてしまいますので、落下したらすぐに倒してほしいのですが、いいですか?まあ、簡単な作業みたいなものです」
「おぬしの言葉を信じろと言うのか?」
まるで、あの暗闇の中で、しかも、あのスピードで飛ぶポイズンバットをそんな網で捕まえられるはずがないと言っているようだった。
ここで引いたら、きっとキルアント族に自分を信用させることが出来ないような気がする。
少し強引かもしれないけど・・・けしかけてみるか。
「私の網の魔法がどの程度のものか、近衛達と戦ってそれを示せば、信じるのですか!!」
「・・・・・・・」
周囲に沈黙が走った。
やば・・・ちょっとやりすぎたかな。
「ハルナばあや、よいではないか。わしらは、師匠殿を信じると決めたんじゃ。その師匠殿の案じゃから、信じてみようではないか」
ハルナばあさんはカルナじいさんをにらむように見ていた。
こわぁ~
「かってにせぇ!」
少しむくれた感じで、後ろに下がって行った。
しかし、ハルナばあさんもキルアント族の事を案じての言葉だろうな。
「では、戦闘と隊列について、具体的に相談したいのですが・・・どなたと話せばよろしいでしょうか?」
「部隊を管理しているのは、第2近衛のチエじゃから、後程チエと話をしておいてくれんか。我々は少し疲れたから、あとは若い者に任せるとするかのぉ、ハルナよ」
「そうじゃの、カルナよ。メーベル女王、わしらはこれで下がらせていただいてもよいかの」
ハルナばあさんとカルナじいさんは頭を下げてメーベル女王様にお願いをしていた。
「わかりました。カルナにハルナよ。ご苦労様です。ゆっくり休んでください」
メーベル女王様は2人をねぎらうようにやさしく声をかけた。
その後、ゆっくりと下がって行った。
ハルナばあさんとカルナじいさんと入れ替わるように、チエと呼ばれたバレットアントが控えめに前に出てきた。
しかし、その表情には何か力がこもっているように感じた。
「チエよ、今回の師匠様の提案は、これからのキルアント族の将来を変えることになるやもしれません。頼みましたよ」
「はっ!この身に変えましても、この作戦を成功させます」
第2近衛のチエは責任感が強いようで、やはり今回の作戦にかける意気込みの強さを感じさせるものがあった。
「師匠様も、どうかキルアント族の若い戦士たちをよろしくお願いします」
「キルアントの全戦士達よ!この出会いが、永遠に幸あらんことを!」
メーベル女王様は最後に、この言葉を残して、奥の部屋へと戻って行った。
そして、残った第2近衛のチエ、チタ、チミと戦闘に関する具体的な内容と隊列について打ち合わせをした。
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