27 女王と休戦協定
「こちらこそ、今日の出会いに感謝いたします。メーベル女王様。こちらにいるのが、私の仲間のギィです。そして、アリスは・・・ご存知ですね」
自分、ギィ、アリスはゆっくりと、正面にいるキルアント族に対して頭を下げた。
一拍の後、頭を上げるように声がかかり、女王の前にいた紫色の細見のありんこが一歩前に出てきて話し始めた。
「我々は、キルアント族第1近衛バレットキルアントのカルナじゃ、そして、隣にいるのが、同じくバレットキルアントのハルナじゃ!」
「よろしくな、ハルナじゃ、小僧よ!」
話し始めた紫色の細見のありんこの2匹がゆっくりとおじぎをした。
「ハルナは口が悪くてすまんのぉ。じゃが、姫を一番心配しておったのはハルナじゃから許しておくれ」
「カルナ!それは黙っておれといったじゃろうが・・・」
「ふぉっ、ふぉっ、ふぉっ!!!」
話している内容から察するところ、2人はキルアント族の相談役ってところなのかな。
じっくり見ると、紫色の外殻のあちこちには、戦闘で付いたと思われる傷の数もかなり多く見えた。見た目は強そうではあるが、年齢を重ねすぎていて、戦闘への参加は難しいのだろうかとも思われた。
「そして、我々の前に控えているのが、第2近衛のバレットアントでチエ、チタ、チミじゃ」
「初めまして、チエです」
「おう!、チタだ!」
「チミと申します。以後、お見知りおきを!」
アリスの護衛をしながら移動していた赤紫色の3匹のありんこ達だった。
やっぱり見た目では全くわからないが女性のありんこもいたようだ。アリスも強かったが、キルアント族は戦闘に男性、女性は関係ないのだなと感じた。
3匹とも見た目は同じように見えるが、性格は違うのだろう、あいさつも3人とも独特で、かなり強そうな印象を受けた。
うん。それに個性的だ!
「師匠殿!我々はキルアント族の近衛と言えども、わずか5名しかおらん!なかなか上位種族に進化出来ぬのじゃ」
カルナと名乗ったバレットキルアントは一瞬目を下に向けたように感じたが、すぐに視線をもとに戻っていた。
気のせいかな。
それよりも、やっぱり強力な戦士タイプのありんこの数は少ないみたいだな。
自分は少しほっとしていた。
アリスが成功したと言ったとしても、話の流れからどうなるか分からなかったし、こんな敵地のど真ん中で最強の戦士たちに囲まれているのは、どうにも落ち着かなかった。
「もちろん、おぬしに多くのレッドキルアントをやられたこともあるが、近衛の数が少ないのは、おぬしだけではないのじゃ」
カルナと名乗ったバレットキルアントは少し寂しそうな目をして話を続けた。
「おぬしのように強き者ならば知っておろう!この先にある暗闇の洞窟のポイズンバットたちのことじゃ。あやつたちは真っ暗な中でも我々の位置を正確に把握して攻撃を仕掛けてくる。しかも毒を持っておる。何百何千もの兵士たちが、これまで、どれほどの・・・」
キルアント達は毒に弱いのか。
この毒フロアみたいなエリアで生き残るのは大変なんだろうなぁ。
「今の我々には、毒に対しての耐性を持たぬ。以前は千年真珠があって・・・・・」
「カルナじぃや!その話はするな!」
カルナじいと呼ばれたバレットキルアントはメーベル女王様より口留めをされていた。
なんて言った!?
千年真珠・・・!?
もしかすると、キルアント族は何か大きな問題を抱えているのか!?
「・・・おお、すまんかったメーベル女王よ」
カルナじいさんは女王様の方を向いて頭を下げるとこちらを向きなおって話を続けた。
「そんな訳で、キルアント族は厳しい時代を過ごしているわけじゃ。そんな時に、おぬしからの休戦依頼じゃった。え~と、アリスという名をつけられたそうじゃのぉ。死んだと思っていた姫様が戻ってきた上に、突然の提案と目をまわしたぞい」
バレットキルアントのカルナじいさんは、現状のキルアント族の状況を憂いていて、時折涙を流しながら、語っていた。
「それはもう大変じゃった。『姫様はだまされているんだ』やら、『あの蛇の罠だ』やら、『むざむざやられるくらいなら徹底抗戦で姫様を守って全滅もやむなし』といった声が若い兵士たちから出てきたのじゃ。しかし、姫様の必死の言葉が、周りの兵士たちを変えた。そして最後はメーベル女王様の気持ちにも変化が出ておぬしと一度話をしてみたいとおっしゃったのじゃ!」
そんなカルナじいさんをおしのけるようにして、ハルナばあさんが怒りのこもった声で話し始めた。
「わらわは、最初から、こんな小僧と休戦するのは反対じゃった。我々の同胞を幾百も倒しておいて、いまさら、受け入れるなどできるかっ!・・・じゃが、姫様の必死の訴えが、わらわの心を変えたのじゃ」
ハルナばあさんといったバレットキルアントの声も次第に穏やかな声に変化していった。
「アリスか・・・。よい名をもらったものじゃ。5代前のキルアント族が全盛期だったころのクイーンの名もアリスじゃったと聞く。小僧!アリスを頼むぞ!」
本当に口の悪いばあさんだったが、アリスの事を信じて、心から可愛がっているのは伝わった。
以外にやさしいばあさんだった。
ギィがアリスのことを救ったことに、今更ながら感謝していた。
カルナじいさんとハルナばあさんの話が終わった所でメーベル女王様がゆっくりと口を開いた。
「師匠様、我々はあなた様といった遺恨を残すことになりますが、此度は休戦という結論に至りました。できれば、将来にわたり我々キルアント族との戦闘は一切行わないと承諾していただきたい。いかがなものでしょうか?」
「回りくどい言い回しは苦手ですので結論から申し上げます。今回の、将来にわたりキルアント族との不戦の申し出は、受けさせていただきたくことに依存はございません」
バレットキルアントの話に夢中になっていたが、ふと気が付くと、周辺にはレッドキルアントから、キルアントまで総勢数百匹に囲まれていた。
もしも、反対意見を出したらどうなっていたんだろう。
そう考えるとゾッとした。
存在に気がついたのは、自分が返事をした後、周辺にいたキルアント族からからざわめきのような音が響いていたからだった。
「しかし、それ以外に申し上げたいことがあります」
自分が声を上げた瞬間、数百匹のキルアント族のざわめきから一変して敵意のような感覚に変わった。
「皆!鎮まらんかああぁぁ!!」
メーベル女王様が、周囲のキルアント族に向かって声を上げた。
初めて会った時にかけられた声はゆっくりとやさしいものだったが、周囲のキルアント族へ放った声は、力強く、厳しさのこもったものだった。
一瞬にして沈黙が訪れた。
「皆が失礼した。師匠殿!私も、軽率でした。皆の気持ちを踏まえて伝えるべきでした。それで、言いたいこととはなんでしょうか?」
メーベル女王様はゆっくりとやさしい口調に戻っていた。
「はい、私たちが、あなた方キルアント族に対して何か報いることが出来ないだろうかと。敵同士であったとはいえ、私は一方的にキルアント族の同胞を倒してきました。何も報いることなしに、休戦協定だけを結べば、不満を持つものに対してしめしが付かないのではないかと思いまして・・・」
再び、周辺に沈黙が走った。自分の言葉があまりにも予想外だったのだろう。
そして、その口火を切ったのは、ハルナばあさんだった。
「でわ、わらわからの願いじゃ。アリスを頼む!アリスとともに旅をしてほしい。そして、決して、死なすことなく進化させて、次代のキルアント族を率いる女王に育ててくれんかの・・・。この年寄りの頼みじゃ・・・。よいかのメーベル女王よ」
「えぇ!ハルナばあ。それなら、私も喜んでその頼みを希望します。師匠様!アリスを進化させる旅へ導いていただくことが、我々の犠牲に報いることとして頂いてもよいでしょうか」
メーベル女王様は周囲のキルアント達に向けて顔を上げると澄み切った声で轟かせた。
「皆もそれでよいか!!」
メーベル女王は一陣の風が流れるがごとく周囲のキルアント族へ声を飛ばした。周囲のキルアント族からは、まるでアリスを皆で応援しているような雰囲気に包まれた。
「わかりました。メーベル女王様。アリスはすでに私の仲間です。そして、仲間は絶対に死なせるつもりはありません。これからの進化の旅への同行もお約束します。それで、出発にあたって、お願いしたいことがあります。よろしいでしょうか?」
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