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26 キルアント族 女王メーベル様

「おはよう、ギィ、アリス」

「おはようっす!師匠」

「おはようですわ、師匠」


 やっぱり、あいさつをして、言葉で返事が返ってくるのは、本当にうれしいな。

 共有意思のスキルを獲得出来てよかったぁ。

 こんな異世界生活にも潤いが出てきたような気がするよ。

 ほんとッ!

 そういえば、今日はメーベル様と会う日だったな。

 まあ、アリスはあんなに自信たっぷりだったから大丈夫だろうが、一応念の為にどう説得するのか聞いておくか。


「アリス!今日はメーベル様との交渉の日だろ。どう説得するんだ?プランとかあれば事前に教えてくれるとありがたいんだが・・・」

「えっ!プランなんてありませんわ!師匠と敵対している状態が続くのはキルアント族にとって良くないので、休戦するようにお願いするだけですのよ」


 マジか!?

 女王と会うのにノープランはまずくないか!?


「ちょっと待て、アリス!いきなりそんなふうに話をしたら・・・そんなふうにアリスに言わせたら・・・それは降伏勧告になるんじゃないのか!いや、場合によっては、全面戦争になりかねないんじゃないのか」


 降伏勧告というのは上から目線すぎだが・・・。

 まあ、今の状態なら負ける気は全くないからちょっとくらい・・・いいかな!


「え~~。そうとは思いませんでしたわ!では、どうしたらいいのかしら?ねぇ」


 アリスは首を傾けて、困った様子をしていた。

 お姫様と考えれば、優雅な様子に見えなくもないが・・・あまり深くは考えないことにしよう。


 それよりも全面戦争回避のストーリーを考えてみた。


 ポイントは『アリスが仲間たちと戦いたくない』という1点だ。


 これを全面に出してアリスに交渉してもらう。

 アリスは知識はあるようだが、交渉事などはまだまだ経験が足りないようだし。

 まあ、自分もそれほど交渉に関して足りているわけではないけれど・・・国語は得意だったしな。


 とにかく交渉内容はこうだ。

 ①連れてこられたアリスは命を懸けて戦った。その結果、敵であるリザードのギィとの友情が芽生えた。

 ②しかし、アリスは自分の命を助ける条件として敵の仲間にならないといけなかった。仲間になった以上、キルアント族と戦いになればアリスもキルアント族と戦うことになる。

 ③だから、女王メーベル様にどうしたらいいかをたずねる。


 まあ、こんなもんだろう。


「とにかく、全面戦争になることだけはさけないといけないから・・・。まずは、アリスの無事をメーベル様に伝えて様子を見るんだ」

「どうして、様子をみるのですか?私が生きていることで、お母さまは喜んでくださると思いますわ」


 アリスは意味が分からないという表情をしていた。

 そうだろうなぁ。

 親と子供の関係ならその通りなんだ。

 だが、これは政治的な意味合いを含む。

 だから、きっと悪意をもってその意味を取られかねないんだ・・・たぶん。


「自分は、これまでキルアント族達を倒し続けて来た・・・すまないな、アリス。お前には少し聞きづらいことかもしれない・・・。しかし、だからこそ、突然生きて帰ってきたアリスに女王メーベル様を含めキルアント族達は警戒するだろう。自分が送り込んできた罠もしくは策略だろうとな」

「そう言われると、そうかもしれません・・・」


 アリスは、はっと気づいて、少し悲しそうにうつむきながら返事をした。


「アリス!しかし、ここからがお前の出番だ!」


 アリスはゆっくりと顔を持ち上げて自分の目を見た。その表情に少し力がこもっていた。


「いいか。伝えるのは、お前が自分の言葉で昨日の出来事を真剣に伝えるんだ。特に必ず伝えないといけないのは、生かされた条件だ!それは私の仲間になる以外に生き残る方法はなかったこと。さらに仲間になった以上、キルアント族と戦うことを強制されること」


 アリスの目が少し曇ったように感じた。そんなことを伝えるのは嫌だとでも言っているようだった。


「そうしたら、師匠が悪人と思われますわ」

「アリス、そうじゃないんだ。自分が悪人と思われたほうが、おまえの言葉をキルアント族達が信じてくれる。いいか、アリス!うまく伝えようと考えなくてもいい。お前自身の言葉で真剣に伝えるんだ。それでも周りからは、『だまされているんだ』とか、『後から皆殺しにされるんだ』とかいろいろと批判を受けるだろう。それでも、アリス!心で訴えてくるんだ!」

「わかりましたわ、師匠、私の心の声を誠心誠意伝えてきます」


 アリスは決意を込めた真剣な目をして、自分の説明を繰り返してひとり確かめていた。


 ※   ※   ※


 ありんこ洞窟までは誰も声を上げることなく淡々と進んだ。それぞれ、交渉がどう進むのか心配していることがはっきりと感じられた。


 いつもは朗らかなギィでさえ黙ったままだった。


 そして、到着するとアリスは1人で向かって行った。


 1度、こちらを振り向いたが、それだけで、何も言わずに歩いて行った。


 入り口の偵察ありはアリスの姿を確認すると、そのうちの1匹がすぐに奥に戻って行った。そして、間もなく赤色ありんこ達がやってくると、今度はアリスと一緒に奥に入っていった。


 アリスの姿が見えなくなるまで、その場で確認してから、不安そうなギィに声を掛けた。


「ギィ、あとは、アリスに任せるしかないんだ。これから、何が起こるかわからない。一応、最悪の自体を想定する必要もあるが・・・わかるな!」

「はい、わかってるっす、師匠」


 朝から、ギイは何もしゃべらなかった。

 それはアリスの重責に対してギィができることは何もないからだ。

 判ってはいても、きっとギィは悔しかったのだろう。


 でも、そんな仲間思いのギィの姿に自分は何とも言えずうれしくなり、尻尾でギィの頭をやさしくなでてあげた。


「師匠、すんません、アリスにばっかり・・・」

「今は、何が起きても対応できるように、待つだけだな」


 約1時間くらい経過しただろうか。


 自分とギィにとっては数時間くらいの時間に感じていた。


 待っているだけだと、『アリスの交渉が長引いているのだろうか』とか、『失敗して最悪の状態になっているのだろうか』などと、嫌なことばかりが浮かんでくるのだった。


 ありんこ洞窟の入り口にアリスの立っている姿が見えた。


 表情までは見えなかったが、結果を考えるとドキドキした。


 側には、赤色ありんこよりも強そうな赤紫色した兵士のようなありんこが、3匹護衛についているように見えた。


 アリスはありんこ洞窟の入り口でキョロキョロと何かを探していた。


 自分達がゆっくりを姿を現すと、


「師匠!やりましたわ!」


 洞窟の入り口から少し距離は離れていたが、目が合うと大きな声ではっきり聞こえてきた。そして、その声は生き生きとしていた。


 声だけで喜んでいることがはっきりと伝わってきた。


 とりあえず、最初の段階はクリアしたと思ってほっとした。


 すぐに、側で心配していたギィにも声をかけて一緒にありんこ洞窟入り口に向かった。


 自分達が近づくと、赤紫色のありんこの兵士は少し身構えていたが、そんなことは気にしなかった。


「よくやった!アリス」

「よかったねぇ~~!アリスちゃん!よかったぁ~!」


 ギィはアリスの声を聴いて、ほっとしたように喜んでいた。


「師匠!それに、ギィちゃん。女王メーベル様がお会いしてくださるそうです。案内いたしますわ!こちらにいらしてくださいませ」


 自分とギィはアリスに呼ばれて、おそるおそる、ありんこ洞窟の中に入った。


 ありんこ達は洞窟の両側に整列して、その真ん中を通るように進んだ。


 これ・・・もしも、ど真ん中で襲われたらいくら何でもやばいよねぇ。


 そんなことを考えながら、アリスとその後ろにいる護衛の後をついて行った。


 先頭にいるアリスの周りには3匹の赤紫色したありんこ達が護衛し、自分達の前後には赤色ありんこが集団で囲んでいて、今にも攻撃して来そうに警戒しているのがありありと感じられた。


 ありんこ達に連れられながら、黙ったまま洞窟内を進んだ。


 通常、ありんこ洞窟は右に曲がって出口に向かうはずが、ありんこ達の列は左に曲がっていた。そして、なんと普段は洞窟の壁があるところに、入り口があったのだ。


 ほぉ~、隠し扉があったのか。

 ありんこ討伐時に、もしもこの赤紫色ありんこ達が大勢いたら、今の自分ですら苦戦は必至だったかもしれなかったな。

 そういえば、普段の戦いでは一度も姿を見ていないよな。

 もしかすると、出てきていないということは赤紫色ありんこ達は数が少ない!?

 そうすると・・・女王メーベル様の近衛兵あたりか!?


 緊張しながらも、左の入り口に入って行くと。我々が通り過ぎた後、ゴ~~という音とともに隠し扉は閉まって行った。


 何か特殊な方法で、扉の開閉を行っているのか!?

 不思議扉だ!


 少し薄ぐらいが、まっすぐな通路を進んでいくと、広く大きくなっている場所にでた。


 右手をみると、水が川のように流れていて、その周辺には食材を加工しているような場所みたいで、そこには大量の食材が積み重なるように保管されていた。


 一方、反対側は広場があり、規律正しく訓練をしているありんこ達がいた。


 さらに、道を奥へ進んでいくと、巨大花を組んで作られた神殿のような場所が見えてきた。


 神殿に到着すると、ゆっくりと門が開き、護衛のありんこ達が道を開けて招き入れてくれた。


「師匠、こちらですの」


 自分が、この隠し洞窟内や神殿に見入っていると、穏やかな声でアリスが促してきた。


 建物の中には、先ほどの近衛に守られるように1段高くなった場所に厳かに横たわって座っている、ひときわ大きなありんこがいた。


 中央のありんこの両脇には、紫色をした細見の姿のありんこが2匹控えていた。先ほど護衛をしていたありんことはまた別のありんこのように見えた。


 違いは色位で、よくわからん。

 まあ、殻のきめがめっちゃ細かいな。

 きっと通常のありんこよりも何倍も硬そうだ。


 そんなことを考えていると、アリスを守るように前を歩いていた赤紫の兵士達は左右に分かれて前に歩き出すと、速やかに整列してこちらに向き直って立っていた。


 アリスは、赤紫色のありんこ達とわかれて、こちら側に並んだ。


 あきらかにキルアント族と対峙することをアピールしているように見えた。アリスは自分の仲間であることを主張しているように感じた。


 その姿から、ほんのわずかの間だったのに、これほど大きな信用をくれたのかと思うととっても嬉しくなった。


 そして、側に来たアリスから共有意思についての説明があった。


「師匠、共有意思を拡張したら、拡張したもの同士でコミュニケーションがとれるそうですの」

「共有意思を拡張するのか?!」


 う~ん、拡張といってもなぁ。

 あっさり言うよなぁ。

 どうしたらいいんだろうな!?

 まあ、拡張って言っているから、共有意思と考えて、それを広げるイメージでいいのかな。


 そう考えて、正面にいるキルアント族全員を含むようなイメージをしてみた。すると、一瞬何かが繋がる感じがした。


「これでいいのか?」

「はじめまして、私がキルアント族女王メーベルです。本日、師匠様との出会いに感謝します」


 ゆっくりと、やさしく包み込むような声でキルアント族女王メーベル様が声をかけてきた。


 おっ!つながった。

読んでいただきありがとうございます。

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