23 ギィ VS ありんこ
いつもと違う最後の爪攻撃なら、ありんこの鋼外殻にもダメージを与えられるかもしれないと期待した。
でもなんでいきなり使えるようになったんだろう・・・。
理由は分からないが攻撃力が上がったのは間違いない。
つまり、ありんこの防御力を越える攻撃が出来て、ありんこよりも早く動けるなら、ギィはありんこに勝てるというわけだ。
これなら今後はありんこ達でレベリングが出来るかもな。
よ~し、これで先に進める時期が早まりそうだ。
住処の洞窟にある緑エノキの残りが不安な状況の中で、先に進むためにギィの成長を早めるのは好都合だと思った。
新しい狩場としてありんこ洞窟が昇格したことに喜んでいたところに、突然、赤色ありんこの事を思い出した。
あーーーーーーーそうだったぁ。
あそこには赤色ありんこがいるんだ。
あいつら強ぇからな。
予想外の隠密移動で変なところから攻撃されたら・・・それに、パラライズニードルもある。
ギィは毒耐性があるけど、麻痺耐性無さそうだもんな。
麻痺して集中攻撃くらったら・・・・・あーーーだめだ。
危険という文字しか浮かんでこないよ。
しかたがない。
毒蝶々でゆっくりレベルアップしていくしかないのかな。
もともと今ある緑エノキの範囲内でレベルアップをするつもりだった。
安全に倒せる毒蝶々でレベリングを行い、やれるところまでやって行こうと考えていた。
しかし、だめだと思っても、急に出来るようになったギィの魔力強化攻撃によって出てきた欲は止まらなかった。
赤色ありんこは俺が気をつけて、ギィは安全なところでありんこ達を倒しまくればいいだけの簡単な話だよな。
MMORPGじゃ高レベルのプレイヤーが低レベルのプレイヤーを連れてレベリングするのはよくあることじゃないか。
でも・・・ギィがありんこに勝てる確証がないんだよな。
この点がクリアできれば・・・。
何とかして、威力を調べる方法があればいいんだけど・・・。
まあ、世の中そんなにうまくはいかないよな。
勢いで戦って何かあってはと考えるとむやみに戦うことはできなかった。
今は考えても仕方がないから、一時保留にしておくことにした。
※ ※ ※
朝にいつも行っている定時の毒蝶々レベリングは済ませたので、次は夕方の毒蝶々レベリングとなっていた。
そもそも洞窟の中では、いつも薄ぐらくヒカリゴケに照らされているので、朝とか夜とかの区別はなかった。
なんとなく朝のような気がして目が覚める。
そして、なんとなく夜のような気がして眠たくなる訳だが・・・。
進化してからその感覚が強くなった気がするが・・・実際はどれだけ正確からは分からなかった。
普段であれば、夕方までの時間は住処の洞窟で休憩をしていた。
しかし、今日は違った。
やっぱり、ギィをありんこでレベリングすることが出来ないかの検証をしたくなったのだ。
確かに、最近ではギィも強くなりスライムや毒蝶々では相手にならなくなっていた。
最初の失敗以降、敵モンスターを倒した後の周囲の警戒は確実に怠らないようになっているので、あとは、ギィの攻撃力が証明されれば、いつでもありんこ討伐に連れて行けると思っていた。
「ギィ、お留守番できるか?」
「ぎぃ~~~」
お留守番ってなに?面白いの?って言っている気がするが、内容を伝えるとついてきそうな気がするので、黙っておくことにした。
「自分は少し用事があるから、いなくなる。数時間で戻ってくるから。ここから出ないでいてくれたらいいんだが・・・」
「ぎぃ~~~」
あれ・・・予想外な返事が返ってきた気がした。
てっきり、一人は嫌だぁとか、一緒に行くぅとか、駄々をこねるかなと思った。
しかし、その時のギィは簡単に、いいよ!疲れたから寝てると言っている気がした。
おそらく今日の毒蝶々との連戦は、かなり疲れていたみたいで返事の後はすぐに寝てしまっていた。
きっと眠りたいだけだったのかもしれないと思い、寝顔を見てみた。
ギィはすやすやと気持ちよさそうに眠っていた。
ギィの許可が取れたので、これから向かう先はありんこ洞窟だ。
ギィの強さの検証をするためにも外せない場所だ。
それに、最近はギィのレベルアップに付き合うために、なかなか、自分のレベルアップの機会も少なかった。
たまには自分の運動がてらレベルアップもついでにしておきたかった。
ギィが一緒だとそれも気軽には出来なかった。
よ~し、久々の本格的な戦闘だから、ちょっと気合を入れておこうか。
ありんこ洞窟に到着して、自分自身に気合を入れて準備を整えた。
ありんこ達は水弾丸(改)槍で無双できるだろうとは思っていたが、やはり、久しぶりの戦闘ではありんこ達の数も多いので、防御魔法の鋼外殻と奇襲ができるように隠密も合わせてかけておいた。
準備が整ったから、ジャンプで一気に距離をつめるとするか。
ありんこ洞窟の入り口に着地ポイントを絞ってジャンプで一気に近づいた。
そう言えば、奇襲次いでに、ちょっとウルトラソニックを試してみようかな。
でかこうもりとの闘いで獲得したウルトラソニックは敵モンスターの素早さを半減させる効果がある魔法だ。しかし、でかこうもりとの戦闘の時には、それほど効果がなかった。
逆に、でかこうもりから受けた時の効果は恐ろしいものがあった。スピード半減は強い敵との戦闘では非常に恐ろしい魔法となるのだった。
その時の戦闘経験から、もしかすると格下にはしっかりと効果がでるのではないかと考えていた。
それならありんこ達には自分のウルトラソニックがどの程度効果があるのだろうか?そして、その効果の範囲はどれくらいなのか?
新しい魔法だったので、その点にはとても興味があった。
ウルトラソニック!
いつものように集団で並んでいるありんこ達に魔法をかけた。
隠密状態での奇襲だったのでウルトラソニックをかけている自分の姿に、ありんこ達は気づいていなかった。
そして、結果は思った以上に効果絶大だった。
唱え終わった直後から、ありんこ達の動きがゆっくりとなったのだ!
こちらに体を向ける動作すらスローモーションになっていた。
そして、驚いたのは、奥の方の天井にいた赤色ありんこさえも動作がありんこ達を同じようにスローモーションになっていた。
「なんだこのスローモーションの映像みたいな景色は!」
実際のありんこ達の動きは自動車位の速さだった。それがウルトラソニックを受けた途端、自転車位の速さになっていた。
しかし、この蛇の体の動体視力であれば、体感で人が歩いているくらいのスピードに感じていた。
「これはもう戦いではないな。申し訳ないが倒されてくれ。すまない」
ありんこ達にそうつぶやいて、打てる限りの水弾丸(改)槍をぶっ放した。
水弾丸(改)槍!・・水弾丸(改)槍!・・水弾丸(改)槍!・・水弾丸(改)槍!・・・・・・・・・・・・・・・・・・・水弾丸(改)槍!
とにかく連射した。
ある一点を除いて、連射しまくった。
ゆっくりと移動しているありんこ達を外すことはあり得なかった。
そして、わざと残した一匹にゆっくりと近づいた。
上から見下ろした1匹のありんこは何だか目から涙を流しているようだった。
声をかけたところでどうにもならないし、なんだか嫌な気持ちになったので目をそらしたまま正面に立った。
そして、パラライズニードルで麻痺させた後、尻尾で捕獲して連れて帰った。
今回の目的は、ギィの爪魔法攻撃がありんこに通用するかを確かめるために捕獲が必要だった。
そして、試みは見事に成功した・・・いや、成功しすぎた。
「今考えても、ウルトラソニックの効果は絶大だな!」
今の段階で、このウルトラソニックを獲得できたのはでは本当によかった。
今回の戦闘で、将来的にかなり役に立つに違いないと確信した。
ありんこを抱えて住処の洞窟に戻ると、ギィはうろうろしていた。すでに目を覚まして何かを探していた。
ギィは自分の姿を見つけると、全速力で近づいてきた。
キラキラした目が、何か少しウルウルしていた。
「ぎぃ~~~」
どこに行っていたの?探したよ!って言っている気がした。
ちゃんと出かける前に用事でいなくなると伝えていたはずだが・・・。
「用事でいなくなるって言ってただろう」
「ぎぃ~~~」
よくわからないって顔をしていた。やっぱり、適当にしか聞いてなかったな。
まあ、毒蝶々との闘いが思った以上に辛かったのだろうと思うことにした。
「それでだ!、ギィ!」
そう言って、ギィの前にありんこを置いた。
連れてきたありんこはパラライズニードルで動けなくなっているが、興奮して敵意をあらわにしていた。
見方を全員殺されていらだっているのだろう。
ギィは目の前に突然現れた初めて見る敵モンスターに一瞬驚いたが、すぐに警戒して攻撃態勢をとった。
自分の前では、すっとぼけているが、やるときはやるギィだった。
「ギィ、警戒を解け!、今は大丈夫だ!」
「こいつはありんこだ。今捕獲してきた。麻痺させているので動けない。だが、間もなく麻痺も解除されるだろう。そしたら、こいつと戦え!」
「ぎぃ~~~」
わかった!と言っているようだが、声に力がこもっていた。
初めてみる敵モンスターの攻撃手段や状態を観察しているような鋭い目だった。いつものキラキラした目がなくなり、真剣な表情をしていた。
数分後、ありんこはゆっくりと動き出した。
まだ、麻痺が完全に取れている様子はなかったが、急に皮膚の色が濃ゆくなった。
おそらく、鋼外殻をかけたのだろう。
圧倒的に不利な状況にありながら、全くあきらめることなく、敵意をあらわにしているありんこに少し称賛を送りたくなった。
ありんこは、ギィと自分を見比べた後、ギィの方を向き威嚇を始めた。
もしかして、死を覚悟したありんこは一矢報いることが出来る可能性のあるギィに立ち向かうことで、仲間の無念を晴らそうとしているように思えた。
「やれ!ギィ、倒すんだ!」
「ぎぃ~~~」
返事をするや否や、全速力でありんこに向かって走り出し、右手の爪攻撃を入れた。
ガガッ!ギリッギリィィィィィ!
見事直撃するが、ありんこにはほとんどダメージが入った様子はなかった。
ありんこは一瞬驚いたように動きが止まったが、すぐに後ろにさがって、高速でギィの後ろへ回り込もうとしていた。
ギイは予想していなかったありんこの硬さに驚いていた為、ありんこの動きを見失っていた。
ありんこを探していたギィは後方から激痛が走ったことで、うしろにありんこが回っていたことに気が付いた。
そして、すかさずぶん回しでありんこを跳ねのけた。
ギィの後ろから、強烈な攻撃を入れたありんこは壁まで吹き飛ばされてよろけていた。
お互いに同じ位のダメージを受けているようだった。
2匹はお互いのスピードと攻撃力を認識し、そのまま距離をとって相手の出方を見ていた。
2匹の間にある空気が気迫で揺れ動いているように見えた。
そんな空気を破り、先に動いたのはギィだった。
まっすぐありんこに向かって進むように見せて、途中で左斜め前に向かって行った。
ありんこもギィに合わせるように、右を向いて攻撃態勢をとっていた。
ギィは回り込んで、そのまま激突し合うかと思った瞬間、ギィはジャンプをして、ありんこの反対側に着地した。
ありんこは、突然姿の消えた、ギィを探していたが見つけることが出来ていなかった。
反対側に回ったギィは無防備になっているありんこの左側に左右爪攻撃の2連撃打ち込んだ。
ガガッ!ガガッ!ギリッギリィィィィィ!
ギィは2連撃を入れたにも関わらず、ダメージを入れることが出来なかったことに、怒りをあらわにした。
そして、戦闘中、しかも至近距離にあるのにもかかわらず、敵モンスターから目を離してしまっていた。
ありんこはそんなギィの油断を見逃さなかった。
左側にある3本の足でギィを蹴り上げたのだ。
ギィはありんこの蹴りを受けて、反対側の壁まで吹き飛ばされてしまった。
さらに、ありんこはギィに向かって走り出し、壁にぶつかり態勢を崩しているギィに噛みつき攻撃を放った。
ギィは持前の反射神経で、ありんこの噛みつきをかろうじてかわすことに成功した。
しかし、ありんこの牙の半分を体に受けていた。それによるダメージはかなりのものだった。
一方、ありんこは、噛みつき攻撃の後、一瞬動きが止まっていた。
おそらく、スキル発動直後の硬直だったのだろう。
ありんこは最後の勝負をかけたようだった。
そして、その一瞬の停止状態をギィは見逃さなかった。
「ぎぃ~~~」
ギィは掛け声と共に、爪魔法攻撃を仕掛けたのだった。
身動きの取れないありんこは、ギィの爪魔法攻撃の直撃を食らい絶命寸前になっていた。
このまま、何もしなくてもギィの勝利は確定していた。
「ぎぃ~~~」
ギィはその場で大きな声を上げ、勝利の雄たけびをするのかなと思った後、急に走り出した・・・。
何をしているんだろうと走って行った先を追いかけて見ていると、ギィは緑エノキをくわえて、ありんこのところに戻ってきた。
「ぎぃ~~~」
喰え!と言っているように声を上げると、最初、ありんこは食べるのを拒否していた。
しかし、ギィが何度も、ありんこに食べさせようとしていたので、ありんこも遂に緑エノキを食べた。
瀕死状態だったありんこのHPがみるみる回復しているのをみて、何をやっているんだと思い、自分がありんこを仕留めようとした。
「水だ・・・・ん・・・」
そのとき、ギィはありんこと自分の間に入り、攻撃をさせないようにかばったのだ。
自分は何が起きているのか一瞬、目を疑った。




