22 ギィのレベルアップ 後編
「ギィ、今日は、ファイヤーボールの実験をする。分かるか?」
「ぎぃ~~~?」
実験って何?と言っているように頭を少し傾けて答えている気がした。
今回確認しておきたいことがあった。
それはファイヤーボールの威力、発射できる回数、発射タイミング、そして、再発射できる時間だ。
これを把握しておかないと、実際の戦闘での使いどころがわからないからだ。
「わからないかぁ。ならばやりながら理解してくれ。まずはファイヤーボールの威力からだ。いいか!威力と言っても敵モンスターを一撃で倒せるかどうか。それが判ればいい」
「ぎぃ~~~」
「それから連続で発射した場合に何回まで打てるかだ。MPを気にせずに打てるならいいが、最初からそれは無理だからな。それに自分の打てる回数を知っておくのは危機的状況の時に、生きるか死ぬかに直結するんだ。いいか!」
「ぎぃ~~~」
「それに発射タイミングを知っておくのも大事だ。予想外の敵が出現した時に、素早く発射出来れば命中率が上がる。まあ、発射するまでの準備にどれくらいかかるかだな」
「ぎぃ~~~」
「最後はMPの回復時間だ!遠距離攻撃が有ると敵モンスターにとって確実に脅威になる。さらに言えば、回復時間を有効に使うことで、実際に撃てる以上に撃てるんだと相手に錯覚させる。それは結果として戦闘で優位をとることにもつながるんだ。今はまだ分からないかもしれないが、覚えておくんだぞ、ギィ!」
「ぎぃ~~~!?」
なんだか色々と難しいなぁ!もっとわかりやすく言ってよといている気がした。
それもそうだ、今のギィに戦術を話てもわかるはずがないか。
先々に少しづつ教えていくことにしよう。
「そうだな、ごめん、少し難しすぎたな。とにかく、まずは、威力と使用回数からだ!」
「ぎぃ~~~」
それなら判るよ!と目をキラキラさせて元気に返事をしているような気がした。
「まあ話すより慣れろだ。これから実際に戦闘で試していくぞ。いいか!」
「ぎぃ~~~」
がんばるぞ!といきなり走り出しそうな勢いで返事をしてきた気がした。
そうだ、戦闘で試すと伝えたが、毒蝶々のいる水辺まではファイヤーボールを使わないように言っておかないといけなかったな。
「そうだ、ギィ、今から毒蝶々を討伐に行くが、それまでスライムにファイヤーボールを使うなよ!」
「ぎぃ~~~。」
わかった!と言っている気がしたが目をキラキラさせて言っているので返事が軽いように聞こえる。
最初の時のこともあるから、初めての時は少し心配なんだよなぁ。
しかし、やってみないと判らないので、とにかく準備を整えて出発することにした。
大洞窟までのスライムは、いつも通り爪と尻尾のぶん回しを使って軽々と倒した。
スライムの水弾丸を華麗によける姿がとてもきれいに見えた。
大洞窟に到着してサーチを唱えた。
毒蝶々は5か所に、それぞれ2~3匹づつで、まとまって行動していた。
まずは様子を見るために、左端の3匹から倒すことにした。
「ギィ、左の洞窟の近くに3匹の毒蝶々がいる。だから、よく狙ってファイヤーボールを3匹に当てるんだ。倒せなくてもいいぞ!、ファイヤーボールの威力を確かめるためだからな。いいか!」
「ぎぃ~~~」
「それに、ファイヤーボールで倒せなかった毒蝶々がいたら、爪とぶん回しで止めを刺すんだ。いいな、ギィ!」
今のギィにファイヤーボール1発で倒せるとは思わないので、他の攻撃手段を使っても大丈夫だと言っておいた。
「ぎぃ~~~」
ファイヤーボールの後に、爪とぶん回しだね。わかったよ、頑張る!と言っている気がするが、相変わらず返事が軽いので心配になる。
何があってもいいように、ギィの後ろから隠密をかけてついていった。
隠密をかけておかないと、自分の気配で毒蝶々が逃げてしまうからだ。
大洞窟から周囲を警戒しながら左の洞窟の方へ進むギィの後ろをついて行った。
事前に伝えていた毒蝶々が、3匹飛んでいる姿を確認したギィは、これから行くよと言っているようにこちらを一度見た。
そして毒蝶々3匹をにらみつける様に視線をとばすと、いきなり全速力で走りだした。
そして、素早く後ろに回り込んでファイヤーボールを3発打ち込んだ。
ぼゎ~!ぼゎ~!ぼゎ~!
勢いよくファイヤーボールが3発連続で発射された。
見事に全弾、毒蝶々に命中した。
どの程度の威力があるか確認する必要もなく、すべて火だるまになり、そのまま絶命して落下していった。
ギィのファイヤーボールは毒蝶々なら一撃で倒すことが出来るくらいの威力だった。
「ギィ、お前のファイヤーボールは結構威力があるな。かなり使えそうだが、あと何発くらい打てそうだ?」
「ぎぃ~~~」
首を小さく傾けて判らないなぁと言っているような気がした。
まあ、次の毒蝶々で試せばいいかと思い、すぐ側にいる2匹の毒蝶々に近づいてファイヤーボールを打つように言った。
「ぎぃ~~~」
「どうした、早くファイヤーボールを打つんだ!」
「ぎぃ~~~」
「なんだ、もう、打ち止めなのか?」
「ぎぃ~~~」
ちょっと残念そうに、弱々しく言っているようだった。
これで今の所一度に撃てるのは3回までなんだとわかった。
しかし、威力は通常戦闘においても実用性があることが証明された。
これは強敵に対したときでも効果的な遠距離攻撃になるなと分析した。
「わかった。それなら普通通りに攻撃するんだ。行っていいぞ!」
「ぎぃ~~~」
思った以上に勢いよく言うと、ギィは全速力で毒蝶々に近づきジャンプをした。
後ろから今のギィがどの程度攻撃できるかを見させてもらおうと思い見ることにした。
ギィは空中で1匹目に左右の爪攻撃をして絶命させた。
その時に攻撃をした反動を利用して、そのまま縦のぶん回しで、側にいた2匹目を地面にたたき落した。
そして、くるくると回って綺麗に着地すると同時に飛び上がろうとバサバサしていた2匹目に左右の爪攻撃を打ち込んだ。
2匹の毒蝶々は何が起こったかわからないくらいあっという間に倒されていた。
ギィの身体能力たっかーーー!
これで、まだ生まれて十数日だとは到底思えないなぁ。
トカゲダンスの時にも思ったが、ギィの身体能力、それにファイヤーボールは先がとても楽しみだ!
このギィの身体能力を見てひとりニヤニヤしていた。
それは、これなら特攻して仕留め切れなかった敵モンスターをファイヤーボールで一掃する手段。
もしくはファイヤーボールを使って1匹を倒して、他の敵を誘い込み、愚かにやってきた敵を近接攻撃で一掃する手段。
もしくはMPの回復時間を調節する。そしてファイヤーボールをゆっくりと使って遠距離攻撃を続けて倒す手段。
などなど今考えるだけでも単体で色々な攻撃が出来ると分析して楽しんでいた。
「ぎぃ~~~ぎぃ~~~」
ねぇねぇどうしたの?と言っているようにギィが催促しているよう言っている気がした。
「すまない。だが、いいぞ、ギィ。今の調子で毒蝶々にどんどん攻撃しろ、それから、1発でもファイヤーボールを使えるようになったら、すぐに打つんだ。いいな!」
「ぎぃ~~~」
MPがたまったら打てばいいんだね!と言っている気がした。
しかし、MPがたまっているかどうか、ギィ、はどうやって判断するんだろうな・・・。
さらにサーチをかけて毒蝶々の存在を確認した。
ここから離れたところに3匹の毒蝶々がいて、そこから、さらに少し離れたところに2匹がいた。
2つのグループが近くにいるので、手前の毒蝶々に攻撃を仕掛けたら、きっと奥の毒蝶々が戦闘に参加してくるだろうと思った。
さて、ギィはどうやってこの5匹を倒すのだろうか・・・ギィの戦術を少し見てみようかな。
「ここから、少し離れたところに3匹の毒蝶々がいて、そのさらに少し先に2匹の毒蝶々がいるが・・・いけるか?!」
「ぎぃ~~~」
そんなの簡単だよと言っている気がした。
自分が心配しすぎなのか、ギィが能天気なのかわからないが、いつも返事が軽すぎるんだよなぁ。
まあ、何かあれば自分がフォローすればいいやと思った。
「良いところを見せてみろ!」
「ぎぃ~~~」
ギィは返事をすると、いきなり全速力で3匹の毒蝶々へ向かって行った。
最初に、真ん中の毒蝶々をジャンプ・爪攻撃で倒し、その勢いのまま、ぶん回しで右の毒蝶々をたたき落した。
そして、落下の勢いに合わせてたたき落した毒蝶々を、後ろ脚の爪攻撃で倒した。
上空に1匹の毒蝶々が残っていたので、そこからは一度距離をとって攻撃の態勢を整えるのかと思った。
しかし、ギィは攻撃したその後ろ脚で、そのままジャンプをして、空中にいる左の毒蝶々のところまで上がった。
流れるような動きに、何かサーカスでもみているように見えた。
左の毒蝶々は他の2匹がいきなり倒されたのを見て茫然としているのかと思えるくらいじっとしていた。
それでも、ジャンプしてきたギィの動きに何とか反応を示して、かろうじて爪攻撃を回避していた。
ギィはそのまま落下するのかと思ったが、無理やり縦のぶん回しで毒蝶々をたたき落した。
落ちていった位置が少し離れていたため、得意の落下して爪を入れるギィの攻撃は出来ないようだった。
しかし、ギィはくるくる回って綺麗に着地したかと思うと、そこからまだ息のある毒蝶々に全速力で突撃して、左右の爪攻撃で仕留めた。
ギィが3匹の毒蝶々との戦闘を終わらせた時にようやく、少し離れたところにいた2匹の毒蝶々がギィのところに迫っていた。
ギィが最初の3匹目を倒している丁度そのうえで、2匹の毒蝶々が二手に分かれて毒鱗粉をすでに飛ばしていた。
このままではギィが毒ダメージを食らって危ないかもしれない。
そう思って、水弾丸でフォローしようとした。
ぼゎ~!
ギィはその場からファイヤーボールを発射して、2匹のうち1匹の毒蝶々を倒した。
残った1匹も毒鱗粉を出していたが、ジャンプ・ぶん回しで毒蝶々を毒鱗粉がまき散らされている場所から離れた場所まで突き飛ばした。
そしてその場所に全速力で走り込んで、左右の爪攻撃で倒してしまった。
それを見ていた自分は思わず拍手を・・・手がないので、尻尾で地面をドンドンたたいて、一連の動きを称賛した。
「ギィ、華麗過ぎてびっくりしたよ!最初からそんな風に戦うと考えていたのか?」
自分の方へいつもよりも一段と目をキラキラさせて、走って戻ってくるギィに声をかけた。
「ぎぃ~~~」
違うよ!適当だよ!とでも言っている気がした。
なんだ!やっぱり行き当たりばったりで戦っているのか・・・ははっ才能かよ!
ギィが成長して自分が追い越されないように頑張らないといけない。
・・・そう心に誓った。
それと、さっきの戦いでギィはファイヤーボールを打っていた。
打てるようになったらすぐに打つように伝えていたから、1発分のMP回復のタイミングで打っていたはずだ。
最後にファイヤーボールを発射してから、再発射までは約10分位だったので、1発発射するのに10分位のインターバルがいるんだと分かった。
今倒された以外に、周囲には5匹の毒蝶々がいたが、距離もかなり離れていて、自分たちのことに気づいていない様子だった。
「MPの回復を待つために少し休憩するぞ」
「ぎぃ~~~」
疲れたから丁度良かったと言っている気がした。
そしてギィのMP回復を含めて30分位休憩をいれた。
ギィのMPがほぼ回復したと予想されたので、ギィにファイヤーボールを使用して毒蝶々を攻撃するように伝えた。
ギィは3発のファイヤーボールを毒蝶々3匹に発射して倒した。
炸裂している炎の間からジャンプ・爪攻撃で1匹を倒したかと思うと、最後の1匹をぶん回しで地面にたたき落した。
そして先ほどと同じ様に、着地後、強力な爪攻撃でとどめを刺していた。
最後の爪攻撃は、通常の爪攻撃と違っていたので、ギィに尋ねてみた。
「ギィ、最後の爪攻撃はいつものと違う気がしたけれど、どうなんだ?」
「ぎぃ~~~」
う~ん!魔法!?・・・かなと言っている気がした。
いつもと違う最後の爪攻撃なら、ありんこの鋼外殻にもダメージを与えられるかもしれないと期待した。
でもなんでいきなり使えるようになったんだろう・・・。




