20 ギィをぜったいに失いたくない
「ギィ!ごめん。ギィ!自分がいながら・・・動いてくれ、お願いだ!」
スライムの水弾丸の直撃を受けた後、ギィはピクリともしなかった。
「そんな!ギィ!動いてくれ、お願いだから動いて!」
たった2日間だったが、転生して初めて交流ができた相手だった。
話すことは「ぎぃ~~~」だけだが、目をキラキラさせて自分の話を聞いてくれる存在だったのだ。
これから、大冒険を一緒に行っていこうと、そう考えていたのだ。
「ギィィィィィィッ、動いてくれよーーーーっ」
顔を涙でぐちゃぐちゃにしながら、心から叫んだ。その時、ギィの体が少し揺れた。
ごふっ!ごほっごほっ!
「ぎ・・・ぃ・・・」
一生懸命に声を出そうとしているギィがいた。
「ぼいっギィ!いぎでだっ、いぎでだのがぁあ・・ひっく!」
「ぎぃ~~~」
とても弱々しいこえであったが、まるで涙でおぼれちゃうよって言ってる気がした。
こんな時に何言ってんだよと涙でぐちゃぐちゃになった顔で思いっきり笑顔を作り、抱きしめ・・・られないので、やさしく力を入れずに巻き付いてギィの顔を見つめた。
そして、すかさず準備していた緑エノキを食べるように勧めた。
「体力回復薬だ、ゆっくり食べるんだよ」
「ぎぃ~~~」
わかったといっている気がして、ゆっくりと口元に咀嚼して食べやすくした緑エノキをギィの口に運んだ。
緑エノキを飲み込んだ瞬間、みるみるHPが回復しているのがわかった。
その場で少し休憩をしたあと、ギィを背中に乗せて、住処の洞窟の奥に連れて帰った。
あまりにも、大泣きしていた姿を見せてしまったので、少し恥ずかしくもあり、しばらく沈黙していた。
ギィが失敗したから、自分が怒っていると勘違いしたのか元気なさげに声をかけてきた。
「ぎぃ~~~」
いうこと聞かずに突進してごめんなさいと言っている気がした。
ああ、ギィに心配かけてしまってたんだとわかった。
「違うよ!せっかくこの世界で出会ったギィに死なれたかと思ってな。自分の未熟さと、ギィのことを大切に思っている・・・ぐす・・・ずずっ・・・」
少し前のギィのことを思い出して、再び涙がこぼれてきた。
「ごめん・・・、思い出したら、また、涙が出てきた・・・ずずっ・・大切に思っているんだってわかったんだ。だからね、ギィ!絶対に死んじゃぁだめだよ!わかったかい!」
「ぎぃ~~~」
無茶して突っ込んでしまい本当にすみませんと言っている気がした。
「今日は、体への負担も大きかったし、また、明日へ備えなくてはいけないから、ゆっくりとお休みしようか?」
「ぎぃ~~~」
はーい!おやすみなさい!と言っている気がした。
それに、声も少し元気が出てきて明日からのやる気に満ちていて、気持ちも乗っているように思えた。
しかし、この日、自分は一晩中ぼんやりと考えこんでいた・・・・・。
異世界にやってきて、これまで一度もさみしいと思ったことのない日々だった。
生きることが精一杯で、自分のスキルや攻撃方法を考えることが、日課であるかのようだった。
唯一の会話の相手としてメッセージさんがいたけど、メッセージを伝えてくるだけで、自分の話を聞いてくれるとかは全くなかった。
そんな中、いきなり自分の前に、卵から孵って現れたトカゲのギィ。
ペット位にはなるかなと思っていたら、いつでも自分のことをキラキラした目で見て笑ったり、むくれたり、悲しんだりしていた。
気のせいかもしれないが・・・。
色んな表情で関わり、自分の話にも一生懸命に答えてくれる。いつでもまっすぐに自分を見てくれていた・・・。
今日の、スライムとの戦闘で、瀕死状態になったギィを目の前にして、たった2日間の出会いだけど、ギィは絶対に守らないといけない存在へと昇華していたことに気が付いた。
さみしいと思っていなかったのは、自分では気づかないうちに、そっと心に蓋をかぶせてしまっていたのかもしれない。
普通の高校生から、いきなり、生き死にがすぐ側にあるモンスターの世界に連れてこられたのだ。現実から自分の心を守るためにも心に蓋をするのは当然だった。
ギィに出会うことで、失っていた人間らしさであったさみしいという感情を思い出したのだ。
さらにギィを絶対に失いたくないと思っている。
もしかすると、人間らしさを取り戻した自分の心のよりどころなのかもしれない。
しかしながら、否応なしにギィを戦いに巻き込まなくてはいけない。
それは、ギィが戦わないとレベルが上がらないからだ。
あたりまえだが、レベルが上がらないと、ここではいつでも死がそばにあるのだ。
ギィを死なせない為の方法を眠れずに幾度となく考え続けた。
安らかな顔で、スゥ、スゥと自分の体の側で眠っているギィを眺めていた・・・トカゲなので表情がよくわからないんだが。
「ギィは、今日、この世界で自分が何よりも守るべき存在であると気づかされた」
そう心に決めた。
そして、明日からの戦いでギィを守るためにも、しっかりと仮眠をとっておかないといけないと思った。
自分も疲れていたのだろうか、いつの間にか眠りに落ちていた・・・・。
自分とギィは目を覚ました後、昨日の反省をした。
「この洞窟では戦闘をしていると、その戦闘に気が付いた他のモンスターが近づいてくるのだ。それは昨日の事でわかったな!」
「ぎぃ~~~」
反省しています。と言っているようだった。
「だから、戦闘が終わったら、次の戦闘が始まる、もしくは、戦闘中に別のモンスターが参戦してくる。そう、いつも考えておく必要がある」
少し抽象的過ぎて、頭に???が見えたので、少し具体的に説明してみた。
「つまり、最初に出てくる少ない数のモンスターは偵察だ!なので、偵察を倒したら本体がやってくるということだ。ここまではいいか?」
うなずいているのでわかっているようだった。
「ただし、自分が後ろにいる時は、後ろを絶対に守るので前を向いて敵モンスターの動きや数を確認すること。ここまではいいか?」
一つ一つ細かく確認することにした。
「まだまだ、続くぞ。そして、この住処の洞窟の外は大洞窟となっていて、ポイズンバタフライといった飛行するモンスターの生息地だ。やつらは、毒の鱗粉をまき散らすので、毒耐性のないギィは毒鱗粉だけで死んでしまうかもしれない。だから、ポイズンバタフライを見つけたら、すぐに逃げるんだぞ」
ギィが低レベルの間は、スライム討伐を中心にレベルアップを図ろう。それから大洞窟には絶対に出ないようにしないといけないなと説明をしながら心に止めて置いた。
「よし、ここまでの説明がわかったなら、昨日の失敗を繰り返さないようにスライムを討伐しに行くぞ!ギィ!」
「ぎぃ~~~」
昨日と同じようにサーチを行った。
やっぱり、2つ目の角には1匹のスライム、3つ目の角に2匹のスライムが待機していた。ギィは1つ目の角を慎重に進み、2つ目の角にスライムを発見する。
昨日はここで飛び出して、後ろから2匹のスライムにやられた。
その反省もあり、今日はスライムを発見したならば、一度自分の方へ振り返ることで、飛び出すタイミングを合わせるようにした。
そうすることで、ギィの飛び出しに合わせて自分もついていくことが出来た。
1匹目のスライムには、昨日と同じように右手の爪の攻撃の後、左手の爪の攻撃、最後に尻尾のぶん回しで一気に倒した。
戦闘に気づいたスライム2匹がギィに向かってきながら、水弾丸を発射しようとするのが見えた。
今日は自分がいる。それぞれのスライムの水弾丸にあわせて、自分が水弾丸2発を合わせる。
バシュッ、バシュッ
それぞれのスライムの水弾丸が自分の水弾丸で消滅させられている間に、ギィはスライム1匹を爪攻撃の後、ぶん回しで倒した。
側にいたもう1匹のスライムはギィの尻尾のぶん回しではじかれて体勢を崩していた。
体勢の崩れたスライムを、ギィは見逃さずに爪攻撃でとどめを刺した。
今回は、とどめを刺した後も周囲の警戒を怠らず、後続のスライムがいないのを確認すると、全速力で自分の方に向かって走ってきた。
満面の笑みで・・・トカゲなので表情はわからないけど・・・そんな気がした。
「ぎぃ~~~」
「やったな、ギィ!いいか、ギィ。特別にうれしいときの蛇ダンスを教えてやるそ」
久しぶりにあれを披露した。
実は、ギィが初めてしっかりと敵モンスターを倒すことが出来たなら教えてやろうと思っていたのだ。
「よく見てろよ!ギィ!」
トリプルジャンプからの後方宙返り&3回ひねり、着地をしたら、体の中心を軸にコマのように回り、最後は頭と尻尾のハイタッチ!!
久しぶりの披露だったが、会心の出来栄えだった。
「ぎぃ~~~」
覚えたよ!ギィもやる!と言っている気がして、そのまま眺めていた。
するとギィはその場で、トリプルジャンプからの後方宙返り&3回ひねり、着地をしたら、体の中心を軸にコマのように回り、最後は頭と尻尾のハイタッチ!!
最後のハイタッチは少しミスっていたが、ほぼ完ぺきに出来ていた。
とてもうれしかったのだろう。ギィはその後、何度も蛇ダンスを披露してくれた。
最後の方は、後方宙返りが3回転になったり、最後のハイタッチがジャンプハイタッチになっていたりと、グレードを上げていた。
・・・もはや、ギィダンスだなと思った。




