2 白蛇!?
「おはようさんっ」
後ろから、声をかけてきたのは、今年入学した高校で同じクラスの後ろの席に座っている石橋紗耶香だった。少し間が抜けているようなところもあるが、スポーツが得意で、まじめな子だ。ショートカットがよく似合う、きれいな子だった。
入学した初日に、後ろの席だった彼女から消しゴムを忘れたから貸してほしいと言われたことから仲良くなったのだ。
「ああ、おはようございます。紗耶香さん」
「もう、同級生なんだから敬語はいらないっていってるのにぃ。たぬき!」
「でも、なかなか慣れなくて、それから、たぬきはやめてっていってるでしょ」
「ううぅ、だって・・・、たぬきかわいいもん」
紗耶香さんが「たぬき」というニックネームを勝手につけるようになったのは、入学して3日目の事だった。
その日は、初めての自転車通学だった。通学用の自転車につけるキーホルダーがなくて、妹から”たぬきのぬいぐるみ”をもらってつけていたのだ。教室に入って、机の上に自転車のカギをおいて、カバンを机にかけていると後ろの席の紗耶香さんから、急に声がかかった。
「そのぬいぐるみとってもかわいいねぇ!有栖君はたぬきが好きなの?う~ん・・・それじゃあ、今から君の事、たぬきって呼ぶね!!」
「えっ!ちょっと待って、何!急に!えったぬき!?」
そして、たまたま机の上に出したままにしていたたぬきのぬいぐるみを見た紗耶香さんは、僕に、無理やりたぬきというニックネームをつけたのだった。
※ ※ ※
僕は、川北高校1年生の有須根郁呂あまり自分から積極的に人と関わりを持つことはなく、どちらかというと内向的だった。
そのため、中学時代は友人からの紹介でMMORPG「シャイン・ザ・ワールド」にはまり、自宅に帰ると夢中でレベル上げや世界の探索をしていた。
ソロで活動していたが、ある時友人の入っていたギルド「宵闇の宴」に誘われ、迷った挙句参加することにした。
ギルドに入ってからはクエストをこなすためにパーティを組むことが多くなった。もともとソロで活動していたこともあり、積極的に攻撃力主体で上げていた。そのため、基本パーティではアタッカーを任されていた。
ギルドでの最初の頃はアタッカーだからという理由で、いきってしまい、むやみに特攻して友人から怒られることも多かった。しかし、後半はチームにおける連携を学び、しっかりと考えて取り組むようになっていった。
ゲームの中では、色んな事が積極的に出来たし、連携の為に指示を出したりしていた。現実世界では、内気で同級生にも敬語を使うような自分とは正反対で、少しクールにふるまっていた。現実世界では出来ないことだから、仮想世界では理想の自分を演じていたのかもしれなかった。
そんなこんなで、中学校時代は自宅ではロールプレイングゲーム、学校では休み時間を使って異世界転生のライトノベルにはまり、友達と一緒に図書館で借りたり、古本屋で購入して回し読みをすることが多かった。
高校生になっても中学生時代と同じ生活をするだろうと決めていたが・・・。
・・・・・今朝は違う。
後ろの席の紗耶香さんが背中をトントンとたたいてきた。
何だろうと思って振り返ると
「ねえ、たぬき、今日の放課後、生徒会委員があるよね!一緒に行こうね、先に行くのは無しだよ」
髪の毛を片耳にかけながら、無邪気な笑顔で約束をしてきた。
ドキドキと心臓の鼓動が大きくなるのを感じながら、出来るだけ落ち着いた雰囲気を出そうと気持ちを集中させて返事をした。
「そうですね。今日は初めての生徒会委員会の日ですもんね。紗耶香さんと一緒に行きましょうですすね」
「はははっ!たぬき、何か最後が変な言葉になってるよ」
「はははっ、ちょっとかんじゃいました」
中学時代に女の子との交流はネットの中だけだったので、リアルでの紗耶香さんとの会話はとても緊張した。
信じられないことに、そんな紗耶香さんと同じ生徒会委委員としてクラスの代表となってしまったのだ。それも、僕が希望したわけではなく、入学式の初日のクラス会で紗耶香さんに無理やり生徒会委員の相方にされてしまったのだった。
高校に入学しても、MMORPGを続けるため、部活動も委員会活動もしないつもりだったのに・・・。
僕の高校生活はどんなふうになるんだろう・・・ふふっ。
※ ※ ※
放課後、紗耶香さんと2人で教室の戸締りをした。
「先生に日誌届けてくるから、中庭でまっててね」
「うん、わかりました」
そう返事をして、紗耶香さんが職員室へいくのを見ていた。
教室の外は、花壇があり、春の花が咲き乱れていた。今年の桜はいつもより長く咲いていた。それでも半分以上は桜の花びらも散っていたけど、それが逆に綺麗に見えた。
晴れ渡る天気の中、気持ちのよい風が吹き、桜吹雪が舞う中、新しい高校生活を楽しもうと期待に胸を膨らませていた。
教室を出ると、職員室までの間に大きな桜の木が並んでいる中庭がある。生徒会室はその中庭を通って階段を上って行く必要があった。
だから、僕は中庭のベンチに座り、紗耶香さんが来るのを待っていた。
少し時間があるなと思って、ベンチに置いていたカバンから読みかけの異世界転生のラノベを取ろうとしたら、うっかりカバンを床に落としてしまった。
幸い中身が飛び出すことがなかったので、安心しながらカバンを拾おうとした丁度その時、左手に激しい痛みが走った。
「痛っ!なんだ!何かいたのかな・・・!?」
左手に感じたのは激痛だったが、長引くことなくすぐに落ち着いた。激痛の走った所を調べてみたが、何も変わったところはなかった。
そして、不思議に思っていると、急に体が重くなり、何が起こったのかわからないうちに、瞼を開けることが出来なくなり、意識が遠のいていった。
最後に見たのは、白く細長いものが、草むらの中に進んでいく姿だった。
「なんでこんなところに白蛇がいるんだ!」
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