194 (sideギィ)スノウラビット族の村
スノウラビット族 アンデス 衛兵隊長
「さあ、ギィちゃん。到着したよ。これが僕らスノウラビット族の村だ。ここでは襲われることはないから安心してくつろいでくれ」
アンデスが指さした先には、土塀で覆われていて、そこに見えるのは大きな扉が一つだけだった。扉の前には武器をもってかまえているスノウラビットが2名、周囲を巡回しているように見えるスノウラビットが数名いた。
アンデスはギィにこの場で待っているように伝えると、先に進んで扉の番人の所へ向かって行き、なにやら話をしていた。
話している内容は聞こえないけど、あまりスムーズな感じにはみえなかった。
それでも、少ししたらアンデスは笑顔で手を振りながら戻ってきた。
「やあ、やあ、おまたせ。ギィちゃんの事は話してきたよ。だから安心して通ってくれ。まあ、通る時に少し見られるけどあまり気にしないでくれよな」
アンデスはそう言うと、すぐにその場で背を向けて扉に向かって進みだした。
このアンデスの笑顔がとても嘘っぽいんだよな。でも、信じるって決めたし思い切って入ってみるかな。
「ふ~ん。そう」
ギィは出来るだけぶっきらぼうそうに振る舞った。自分が警戒していることをアンデスに知らさないようにするためにギィが必死で考えた態度だった。
大きな音と共に扉がゆっくりと開いた。扉は半分くらいの所で止まり、門番は声をかけて来た。
「通れ」
半分といっても、ギィがゆっくりと通過できる大きさがあった。
ギィは左右のスノウラビット達に視線を向けた。
門番のスノウラビット達はギィに対してじろじろとすべてを見透かされているんじゃないだろうかと思えるほど凝視された。
なんだよ。この門番たちは何だか気色悪いなぁ。
アンデスといい、門番といい、どうしてこのスノウラビット達は自分に対する視線がとぉお~っても意地悪な感じをさせるんだろう。
それでも、ギィはゆっくりとアンデスの後をついて行った。
扉を通過すると、そこには外側の異様さとは打って変わって質素な印象を受けた。
ギィの村に対する印象はキルアント族の生活が基準になっていた。北の商店街や軍隊、そして、そこで遊んでいる子供たちこれらの活き活きとした様子がギィの知っている村だったのだ。
しかし、そこで生活しているスノウラビット達は何だか元気がないというか、覇気がないというか、よくわからないが質素という言葉がしっくりくるものだった。
そして、同時にギィはアンデスの笑顔がどうしてもいやなものに感じた違和感の理由をここで理解した。
目の前にいるスノウラビット達には笑顔がなかったのだ。
「ギ~ィちゃん。どうしたんだい。今日はギィちゃんをおもてなししようと思うんだ。そして、その場所はこの先に準備しているんだよ。ギィちゃん来てくれるよね」
ギィはこのよくわからないスノウラビット族の村でよくわからないもてなしを受けるのは心配だった。
しかし、傷の回復も必要で、そもそも、疲労困憊だったからゆっくりと休みたいという気持ちも強かった。それゆえ素直にもてなしてくれるならもてなしてもらおうと考えた。
「まあ、いいけどね」
積極的ではない振りをして返事を返しておいた。
ギィはアンデスに連れられて、周囲にある他のスノウラビット達のテントよりも一段と大きなテントの中に入るように指示された。
これまでの経験から、ギィの考えでは、キルアント族の女王メーベル様のようなスノウラビット族をまとめる人物がそこにはいるはずであった。
しかし、そこには誰もいなくて、ただ食事が準備されているだけだった。
「ねえ、アンデス。ここの偉い人に合わなくてもいいのかい」
「族長は今出かけていていないんだ。明日、戻ってくるという話だからそれまでここで食事でもしながらゆっくりと過ごしてくれるといいよ」
「ふ~んそうなんだ。私は別に構わないんだけどね。ところで、ここに準備されている食事は誰のなんだい?」
ギィは空腹の状態なのに、おいしそうな食事が並べられている景色に我慢が出来ないでいた。次第に警戒するよりも食べることを優先させたくなっていた。
「ぜ~んぶ、ギィちゃんのだよ。遠慮せずに食べてくれるよいいよ」
「本当。食べていいの?遠慮なく食べるよ。後で怒らないでよね」
「はははっ、怒らないよ。おなかいっぱいたべるといいよ」
「やったねぇ。いっただきまーす。うぁうわぁ~。うまい。うまいよ」
ギィはおもてなし料理をすっかり上機嫌で食べ続けていた。
警戒してそっけない態度を取ることはすでに忘れてしまっていた。
ギィの目の前には木の実や木の根それに焼いた肉が広がっていた。キルアント族で食べた肉のように調理されているものではなかったが、今のギィにとっては完全にごちそうといってもよかった。
「ギィちゃん。ごめんねぇ。ちょっと席を外すからゆっくりと食べててねぇ」
「うん、いいよ。私は大丈夫だから。それより、この木の根みたいな食べ物はもっとあるの。コリコリしていてとってもうまいんだよねぇ」
ギィは食べることに夢中で、表情のないアンデスの顔には気づいていなかった。
「そうかい。それはとぉ~てもよかったよ。ここの料理がお口に合って僕もうれしいよ」
アンデスはいつもの笑顔でギィに返事をした。
そして、そのままテントの入り口から外に出て行った。
ギィは変わらず食事を続けていた。
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