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190 くやしい・・・

あけましておめでとうございます。


コロナ渦の新年が明けました。


今年はめでたい年になるといいですね。


スノウラビット族

アナベルさん・・・白熊討伐派(かつて白熊と何度も戦ったが、その都度惨敗してきた)

アイーダさん・・・犠牲享受派(グレートリザードと白熊にそれぞれ生け贄を出す)

トレールさん・・・年老いた白いトラ(双方のスノウラビット族とも共存している)

 ちょっと待ってっ!?


 これって、トレールさんが自分の話の後押しをしてくれているような状況だよね。


 そしたら、この話の流れのままに『身体強化魔法』を教えてもらえるように許可をもらった方がいいのかな・・・。


 そうじゃないっ。


 今が、チャンスじゃないのか!?


 そうだよ。今がチャンスだ。これを逃したらだめだ!!


「アイーダさん、アナベルさん。トレールさんも認めてくれた事だし『身体強化魔法』を教えてもらってもいいですよね。ねっ」


 アイーダさんの顔をちらっと見ると、少し考えているような感じが取れた。


 よしっ。考える暇を与えちゃだめだ。


「っていうかトレールさんさん。善は急げです。さっそく訓練に入りましょう」


 考える間を与えないように、訓練を始めるように話をまとめてみた。


 ふとアイーダさんを見ると、話の途中ではぐらかされたように思ったのだろう。少し納得できないような表情をしていた。


 トレールさんが何となく認めているような発言をしたことを受けて、何か反論できることはないか考えているようだった。


「・・・でか蛇のいうことなんか・・・」


「アイーダよ。もしかするとこの師匠君との出会いは、あの仇敵である白熊を倒せる千載一遇の好機かもしれんぞ」


 トレールさんはアイーダさんの会話を優しく切るように話しかけていた。


「もう、わかったわよっ。勝手にすればいいじゃないっ」


 アイーダさんは「勝手にすればいい」と口では言いながらも、頬を少し赤らめてそっぽを向いていた。


 アナベルさんはそんなアイーダさんを見つめながら微笑んでいた。


「師匠君や。そういうことだから、君に『身体強化魔法ブーストアップ』を教えることにする。ただしな・・・・」


 トレールさんは少し厳しい表情を自分に向けて話始めた。


「師匠君には知っておいてもらわないといけないことがあるんじゃ。そもそも『身体強化魔法ブーストアップ』はスノウラビット族がこの世界で生き抜くために、長い時間をかけて独自に編み出した一時的な能力向上の為の方法なんだ」


 やはり身体強化魔法(ブーストアップっていうんだっ!)はスノウラビット族固有のスキルだったんだ。アイーダさんが心配する理由もうなづけるってもんだったんだな。


「だから師匠君!約束してほしいんじゃ。この『身体強化魔法ブーストアップ』を簡単に広めないで欲しいっ!」


 トレールさんは広めないで欲しいと口に出すと自分に向かって頭を下げて来た。


 突然の事に驚いて固まっていたのは自分だけでなく、側にいたアイーダさんとアナベルさんも同じように驚いていた。


「ちょっと、トレールさん!頭を上げて下さい。守りますんで、必ず約束は守りますんでそんなことをされては困りますってっ」


 自分がトレールさんにそう伝えると、にっこりとして顔を上げてくれた。


 慌てて答えた時にふっとギィとアリスの事を思い出した。()()()広めないで欲しいということだから、ギィとアリスには教えても大丈夫だろうと勝手に理解していた。


 しかし、種族も違うスノウラビット族の為に、しかも、こんな若造の自分なんかに、頭を下げて約束してくれた男らしいトレールさんをだますような気持ちになったのでやはり確認することにした。


 やっぱり嘘はつけないもんねぇ・・・。


「約束は守りますが、自分には仲間がいますので、その仲間とは情報を共有したいと思います。その点だけはどうか許してもらえないでしょうか?」


 こちらも頭を下げてトレールさんにお願いをした。


 トレールさんは目をつむって考えていた。


 もしもだめだと言われたらどうしようかと心配しながらトレールさんの返事を待った。


「わしは師匠君。君を信用してこの『身体強化魔法ブーストアップ』を教えることにするんじゃよ。だから、この魔法をどう伝えていくかは君の判断に任せることにするよ。お前たちもそれでいいな」


 トレールさんはアイーダさんとアナベルさんに向かって同意を求めるように確認していた。


「トレールさんがそういうなら私らに依存はないよ。そうだろアナベル?」


「それでいいと思います」


 アイーダさんとアナベルさんからも問題ないといった返事をもらった。


「こんな私を信頼していただき本当にありがとうございます。白熊は必ずこの手で、あ・・・・手はないけど・・・この牙に誓って倒します」


 よし、これで白熊を倒すための安心が一段階上げることが出来る。


 こんな特別な出会いに感謝だな。


 そんな気持ちを込めてトレールさんとアイーダさんとアナベルさんに深々と頭を下げて感謝を告げた。


「わかった師匠君。約束してくれ」

「約束だからねっ!」

「どうかお願いします」


 みんな優しい笑顔で返事をくれた。


 ああ、よい顔を見せてくれるんだなぁ。


「それでは早速訓練に取り掛かりたいと思う。私にはたくさんの持て余した時間があるから構わないが、アイーダとアナベルには・・・」


 そんな中、ふっとトレールさんはつぶやいた。そして、アイーダさんとアナベルさんの方を向いて少しつらそうな視線を向けていた。


「私たちの事はいいのよ。気にしないでね。トレールさん」

「これが私たちの運命ですから・・・」


 アイーダさんとアナベルさんはそんなトレールさんの優しい顔を見ながら返事をしていた。


 そうだった。アイーダさんとアナベルさんは生け贄だったんだ。そして、今の自分にはどうすることも出来ない。


 くやしい・・・。



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