19 ギィ・・・初戦
ギィは自分の声を聴くと、何かあるのだろうか思ったのか、すぐに緑エノキを食べるのを中断した。
これから何か新しい事が始まるのかと、目をキラキラさせてゆっくりと自分の方へ歩いて来た。
ゆっくりと歩いてくる小さなギィを見ていると、ふと、少し前の自分を思い出した。
・・・思い返すと、この住処の洞窟は丁度今のギィ位の時にスネーク時代を過ごしたのだ。
そこから、少しづつ戦いを経験して、身体的な能力の成長や向上、それだけではなく、精神的な葛藤や克服が随分とあった。
進化してラージスネークとなってからもそうだ。スネーク時代よりも、さらに多くの敵モンスターと戦い、心身の成長をしてきた。
毎日が戦いだった。
そんな日々に明け暮れて過ごしていた事を思い出した。
そして、この戦いを支えてくれていたのは、他でもない、この住処の洞窟だった。
もしも、この異世界にやってきて、この安全地帯である住処の洞窟がなかったら、これまで成長することはなかったと言える。
さらに、数々の戦いから自分を癒してくれたのが、この緑エノキだったのだ。
「そう言えば、この住処の洞窟の緑エノキの数もかなり少なくなったなぁ・・・」
住処の洞窟の最奥に広がっている場所をゆっくりと右から左に向けて眺めていた。
「自分が誕生したころに比べると、約5分の1位になっているのかもしれないな。・・・このまま、今度は2人(2匹!?)で使用していくとすると、ギィが成長して進化する前に、この緑エノキはなくなってしまうだろう」
こうして、これまでのここでの生活を思い出して物思いにふけりながら、ギィを見た。
小さな、小さなトカゲのギィだ。これからは、自分が親となり守っていかないといけない。
そうすると、まず考えないといけないのは、これからの事だ。
そのためには、この安全地帯である住処の洞窟を出て、新しい安全地帯を探さないといけない。この場所で長く生活することは食事の面で不可能だった。
そのためには、この洞窟でギィをおいて、自分が探しに行くのがいいんだが、安全地帯であるとはいえ、ここにはオオトカゲのあいつがくる。それも、いつやってくるのか分からない。
とすると、ギィを置いていくことが出来ないならば、ギィを成長させれば済む。できれば、進化を1度させておきたい。
「ぎぃ~~~」
そんなことを知らないギィは、これからどんな面白い事が始まるとでも言っているような気がした。
自分は生まれたばかりのギィには少し厳しいかと思ったが、引き締めるように真剣にギィを見つめた。
すると、そんな自分の真剣な様子を見て、なんとギィは悟ったように正面に座した。
「ぎぃ!」
面白いことではない。何かきっとこれから大事なことを話すだろうからしっかり聞きます。
そう言っているような、いつもとは少し違うキリッとした返事で正面に座ったままこちらを見ていた。
そんなギィをみて、生まれてまだ2日目なのに、ギィはなんでこんなにしっかりしているのだろうか。これが野生の本能なのだろうか。生きるためには貪欲に情報を得れる機会を大切にするのだろうか。転生初日の自分は何とのんきだったのだろうかと思い出して、ギィのことを少し見直した。
「いいかギィ!これから話すことをよく聞くんだ」
「ぎぃ!」
はい!と言っているような気がした。
「この住処の洞窟は一応安全地帯だ。しかし、まれに巨大モンスターが訪れる。そして、今の自分ではその巨大モンスターに勝つことはできない。巨大モンスターの強さは圧倒的なのだ!」
ギィは黙ったまま、目線をそらさずに聞いていた。
「その巨大モンスターがやってきた時は、この住処の洞窟の外に行く必要がある。しかし、今のギィでは外に出る前にスライムにすら倒されてしまうだろう。そのためには、ギィ!おまえは敵モンスターと戦い、レベルを上げる必要がある!!」
「ギィ!」
わかった!やるよ!と言っている気がした。
「しかし、レベルを上げる為の時間は残り少ない為。なぜなら、それはHPを回復させる為の緑エノキの数が少なくなっているのだ!だから、この住処の洞窟で長く住み続けることはできない!わかるな!」
「ギィ!」
時間がないっすね!と言っている気がした。
「これから訓練をする。そして訓練が終わり次第、敵モンスターを倒してレベルアップを図るのだ。わかったかっ!!ギィっ!!」
「ギィィィィィィィ!!」
わかりました。教官!全力で頑張りますとでも言っている気がするが・・・ちょっと方向性が違うような・・・。
ギィは座った状態から勢いよく立ち上がり、いつもはキラキラしている目をキリリッとさせて、背筋を伸ばして勢いよく返事をしてきたのだった。
「わかったなら、これからすぐに訓練を始める、いいか!」
「ぎぃ・・・」
先ほどと違って何か弱々しく返事をしてきた。
「どうしたんだ。ギィ」
すこしやさしく返事をした。
ギィは緑エノキの方を一度向いてから、再びこちらを向いて、目をキラキラさせてきた。
「そういうことか。食事の途中だったもんな。その後に運動にはいる。だから、しっかり食べてこい」
「ぎぃ~~~」
わかりました教官。ありがとうございますと言っているような気がした。
そして勢いよく緑エノキのところ行き食べ始めた。
しばらく緑エノキを食べていたが、落ち着いたのか、それとも、これから始まる訓練の為に気持ちを整えているのか分からないが、ゆっくりとこちらに歩いてきた。
「ぎぃ~~~」
準備は万端ですと言っているような気がした。
「よし、始めるぞ!まずはギィの運動能力を把握したい。だから、まずは全力で前後左右への移動、そして全力ジャンプを行ってみせてくれるか?」
「ぎぃ~~~」
わかりましたと言っている気がした。
返事をした後、自分の言った通りに、前後左右へ全速力での移動と前後左右へ力いっぱいのジャンプをした。
前方への移動速度は以前の自分よりも早いな、やはりトカゲの特徴なんだろうな。しかし、ジャンプ力と後方への移動はかなり落ちる。突撃して、逃げる際は敵モンスターに背中を見せることになるなぁ。
「次は攻撃手段だ!ギィ!自分のできる攻撃手段をすべて俺に打ち込め!それと魔法が使えるならそれもだ!」
重戦車形体になり、ギィに攻撃するように促すが、いつまでたっても攻撃しようとしない。何度も攻撃するように言うが、弱々しく「ぎぃ~~~。」となくだけだった。
「俺に攻撃するのは嫌なのかなぁ!まあ、親に攻撃するのは気が引けるもんなぁ!分かった!ならそこに転がっている岩に攻撃を仕掛けてみろ!」
「ぎぃ~~~」
がんばるから、見ててねと言っている気がするように声を上げた。
ギィは全速力で走って行き、右手を大きく振りかぶって、右手の爪をたたきつけた。それにより、岩は3分の1位削れた。
攻撃はこれで終わりと思っていたが、ギィの体に止まるような動作が見られなかった。
ギィはその後、たたきつけた反動を利用して上半身を反対側に回し込み、今度は左手の爪を岩にぶつけて、さらに3分の1位を削り取った。
その時に、ギィと目線が合い、その目がキラリと光ったのが見て取れた。
それは、これだけでは終わらないよとても言っているかのようだった。そして、予告通りに尻尾をぶん回して残った岩を完全に粉々にしたのだった。
「ぎぃぃぃぃぃ!!」
どお?すごいだろ!攻撃受けなくてよかっただろう!とでも言っているようなドヤ顔をしていた。
これならスライムは軽く倒せるな。
しかし、ジャンプ力も足りないし、直接攻撃しかないので、ポイズンバタフライとの戦闘は今の所無理だな。あの毒鱗粉食らったら、毒で死んでしまうかもしれないしなぁ。うん、能力は大体わかった。
「ぎぃ~~~ぎぃ~~~ぎぃ~~~」
褒めて褒めてと言っているような気がして、あんまりうるさく言っているので褒めてあげた。
ギィはうれしそうにして、空中で何度も素振りの練習をしていた。そんな姿を見ながら、まずはスライムからゆっくりレベルを上げていこうと思った。
「ギィ、これから自分のいうことをしっかりと聞くんだ!」
大事なことだからと、しっかりとギィの目を見て話をした。
「住処の洞窟から大洞窟までの間に、スライムがいつも数匹いるんだ。しかし、自分が行くとスライムたちはおびえて逃げてしまう。だからギィの少し後ろについていく。ここまではいいか?」
「ぎぃ~~~」
ここまではいい様だな。
「次に、スライムと1対1での戦いなら、ギィであれば余裕で勝利できるだろう。しかし、2匹以上のスライムと同時に戦うとなると、スライムは遠距離攻撃の水弾丸を持っているのでかなり厳しい戦いになる。場合によってはスライムに挟み撃ちを食らってしまう。そうなると、ギィ、お前自身が倒されてしまうかもしれないんだ。大丈夫か!」
「ぎぃ~~~」
ギィはぎぃとしか言わないので、本当に分かっているのか少し心配になった。
「いいか!2匹以上いる場合は自分が1匹を残して他を倒すからな。だから、おまえはスライムの水弾丸を警戒して、残った1匹を倒すんだぞ!いいか!忘れるなよ!残った1匹のスライムを倒すんだぞ」
「ぎぃ~~~」
わかってるよ!もう!心配性だな!とでも言っているように軽く返事をしていたような気がしたが、まあ、戦ってみないとわからないからなぁと思い、緑エノキをもってスライム討伐に向かった。
最初の角を越える際に、調子に乗って警戒なく進むかなと思ったら、意外に慎重に角の先を警戒しながら進んでいた。
自分はサーチをこっそり使って2つ目の角に1匹、そして、3つ目の角にいる2匹のスライムの配置を把握していた。最初に自分が戦かったときの苦い思い出の配置だった。
あの時、自分は死にかけたんだなと思い出した。そして、今のギィと同じように角の先を警戒して進んだんだった。
ギィも同じように警戒して進んでいる様子を見て、すこしほほえましく思った。
最初の角を曲がり切って、2つ目の角にスライムを発見した。ギィは一度ゆっくり後退して、スライムの視界から外れた。
なにやら一人で深呼吸をしているように見えた。それだけではなく力を込めているようにも見えた。
ギィは気持ちが落ち着いたのか、もう一度2つ目の角のスライムを確認した。
すると、突然全速力でスライムに向かっていった。
「ばか!、まて、一人で行くな!、戻れーーーーー!!!!」
慌てて、声をかけるが、ギィにはその声は届かなかった。
ギィは全速力で2つ目の角のスライムに向かって行き、両方の爪攻撃そして、最後のぶん回しでスライムを仕留めた。
先にも、スライムが2匹控えているにもかかわらず、こっちを向いた。
ギィは目をキラキラさせながら、やっつけたよ、すごいだろうとでも言っているように「ぎぃ~~~」と声を出し手を振っていた。
「だめだギィ・・・後ろだ!まだスライムが側にいるぞ!警戒しろ!!」
叫びながらジャンプをして、ギィの側に向かった。
奥からすでに2匹のスライムが水弾丸を発射しようとしていた。
「間に合わない!!」
「ギィ、よけろぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおっ!!!」
ギィは自分が何を言っているのかわからないみたいで言われるがままに後ろを振り向いた。
しかし、スライム2匹の攻撃におびえていたみたいで体が硬直してしまい。身動きが取れなくなってしまっていた。
自分がギィを守るための壁になるには距離がありすぎた。
「だめだ!どうする?」
イチかバチか水弾丸4発を放ち、スライムと水弾丸を狙った。
何とかスライム2匹を水弾丸で倒すことが出来た。
「よし!」
そして、ギィに向かっているスライムの水弾丸も相殺することが出来た・・・。
「よし!これで大丈夫だ!」
そう思った、瞬間、相殺された水の霧の間から1発の水弾丸が現れたのだ。
ギィに直撃した・・・・。
「ギィ ぃぃぃぃぃぃぃぃぃいいいいいいいいいいいいい!!」




